(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。)
私がキヌガサソウの花を初めて見たのは40数年前、山形県の月山だった。
確か羽黒ルートから山頂を経て湯殿山に下りる途中、幾つか見かけたが、
バカチョンカメラの時代なので画像は残っていない。
次に見たのは、1990年の白馬岳、本格的には白馬大雪渓を下った1993年(こちら)だった。
みごとな群生だった。
当時はアナログ一眼レフカメラの時代でリバーサルフィルムなので、
スキャナーで取り込んだ画像が数枚残っていた。
1993/07/17 白馬大雪渓下部のキヌガサソウ群生
1993/07/17 白馬大雪渓下部のキヌガサソウ
同時期、焼石岳や八幡平でも単品や小さな群生を見ていたが、
その後、私はしばらくの間、登山をしなくなったので、約20年間、ブランクが生じた。
2013年頃から登山を再開、キヌガサソウを見たのは2014年の八幡平だった。
そこでは県境のレストハウス駐車場から歩いて5~10分くらいの遊歩道脇に
ちっこいのが一輪だけ咲いていた。
2014/06/21 八幡平遊歩道脇で咲いていた小さな株。 2014/07/05 半月後の姿。花はピンク色に変わっていた。
ここでキヌガサソウのプロフィールを。
改訂新版・日本の野生植物(平凡社)の解説をほぼそのまま引用させて頂く。
『キヌガサソウ Kinugasa japonica ; Paris japonica
(Englerの体系ではユリ科に含められていたが、新分類体系APGⅢではシュロソウ科)
亜高山に生える多年草で、根茎は太く、茎は高さ30-80cm、葉は8-10個輪生し、
倒卵状楕円形または広披針形で長さ20-30cm、両面無毛で柄は無い。
花は6-8月、茎頂に一個つく。花柄は長さ3-8cm、花は径6cm内外、外花被片は7-9、ふつう8個、
長楕円形~広披針形、長さ3-4cm、花弁状で初めは黄白色であるが、のちにピンク色になり、終わりに淡緑色になる。
内花被片は外花被片と同数あるが、白色線形で長さ10-15mm、あまり目立たない。
雄蕊は花被片とほぼ同数で、長さもほぼ同じである。
葯は線形で長さ5-8mm、花糸とほぼ同長、花柱は8-10個、液果は球形で暗紫色に熟し、芳香と甘みが有って食べられる。
染色体数は2n=40。本州の特産である。
和名は衣笠草で、傘状に広がる葉を、昔、貴人にさしかけた衣笠にたとえたものといわれる。
本種は、古くはエンレイソウ属に入れられたこともある。
一種のみからなる日本に固有の属だが、ツクバネソウ属 Paris に入れられることもある。』
キヌガサソウの花のつくり
長い引用で恐縮。ここで言いたかったのは、次の二点。
(1)白い花弁のように見えるのは、「外花被片」=「萼」であり、花弁にあたる「内花被片」は線形で目立たない点。
このあたりは前作のシナノキンバイの花と似ている(こちら参照)。
(2)属のラテン名が和名の「キヌガサ」そのものである点。
これは日本に固有、特産の属、種類であることを示しているが、凄いことだ。
八幡平ではキヌガサソウは山頂に向かう遊歩道の脇で簡単に見られる。
真夏に訪ねたら、先のちっこい単品株のホンの少し先、
「謎の穴」とも称される小噴火口内のキヌガサソウ群生が咲き出していた。
がここは降りて見ることが出来ない
(この場所のすぐ向かいに、最近、有名になったドラゴンアイが有る)。
2014/07/22 謎の穴の群生地
2016年は、40数年前、初めてキヌガサソウを見た月山を再訪してみた。
2016/07/16 月山装束場の小群生
ここでは群生に近づけるが、残念、花は古くなっていた。
2016/07/16 月山装束場の単品。緑色に変わっていた。 キヌガサソウの分布マップ
大雑把なキヌガサソウの分布マップを作ってみた。
東北地方ではキヌガサソウの見られる山は限られている。
北限は青森県内に有るようだが、詳細は不明。
奥羽山系では八幡平と焼石岳で登山道が生育地を掠めているため、比較的見やすい。
しかし群生地と言えば、秋田山形の県境に聳える神室山だろう。
この山の群生地は日本最大(=世界最大)規模と報道されている。
ところがそこに至る道のりは東北でも有数の難関コースだ。
神室山は標高1365mとあまり高くないが、標高400m前後の山麓から自力、自足でテクテク登らなくてはならない。
標高差は約1000m。キヌガサソウ群生地は秋田側の西ノ又川を登り詰めた場所に有る。
標高は1290mくらいだが、登山口からのコースタイムは三時間超。
2016年の秋、試験的にこのコースを歩いてみたが、途中の渓谷沿いの道と胸突き八丁の登りはとてもしんどかった。
そのため、2017年の開花時期本番では、山形の有屋口から入山した。
こちらのルートには危険な箇所は無いが長い。
キヌガサソウ群生地に行くためには、一旦、1350m超の稜線まで駆け上がった後、
秋田側に少し降りなければならない。
そのため、登山口からは4時間くらいかかってしまう。
というわけで、足弱、不整脈持ちにはとてもしんどい登山だったが、
日本最大(=世界最大)のキヌガサソウ群生地を見ることが出来た。
2017/06/24 キヌガサソウ群生地 2017/06/24 群生地上部・窓くぐりから望む神室山
2017/06/24 日本最大(=世界最大)のキヌガサソウ群生地
この群生地は冒頭の白馬大雪渓に較べると、面積は明らかに狭かった。
しかしキヌガサソウの密度が濃く、生育本数は白馬を上回ると聞いた。
翌2018年は焼石岳の小群生地を訪ねてみた。
ここは神室山のように難儀しなくても生育地に達する。
と言っても、登山口から二時間強かかる。
2018/06/23 焼石岳の小群生地
2018/06/23 2018/06/23 かざぐるまのようなキヌガサソウ
ここで閑話休題。
キヌガサソウは花が大きく、鑑賞に堪えることから、園芸利用も試みられたようだが、
耐暑性が無いため、我が国の下界での栽培はかなり難しい。
だから山盗りすべきではない。
「野に置け蓮華草」ならぬ「山に置け衣笠草」だ。
以前、ヨーロッパの山野草グループfbに自生地の写真を投稿したところ、
今までに経験したことのないほど多数の「いいね!」と多言語によるコメントを頂いた。
夏季冷涼な彼の地では栽培が可能で、とても人気のある植物だと知る。
キヌガサソウは非常にユニークな草姿だが、ちょっと紛らわしい植物もある。
クルマバツクバネソウ Paris verticillata
葉は6-8枚輪生し、キヌガサソウによく似た草姿だが、花(外花被片)は緑色で通常4枚。
日本全国の他に中国やシベリアにも分布。山地の林下に生える多年草でけっして高山植物ではない。
東北ではあまり多くないが、姫神山の林内や真昼岳の稜線には豊富だった。
焼石岳ではキヌガサソウのすぐ近くで咲いており、実に紛らわしかった。
2021/05/26 クルマバツクバネソウ。姫神山にて。
2015/05/01 クルマバツクバネソウ。七座山にて。 2021/06/02 クルマバツクバネソウ。真昼岳にて。
2017/07/08 クルマバツクバネソウ。焼石岳にて。 2017/07/08 ツマトリソウ。焼石岳にて。
ツマトリソウ Trientalis europaea ; Lysimachia europaea
はサクラソウ科ツマトリソウ属、
キヌガサソウとは縁もゆかりも無い植物だが、花や草姿は不思議とよく似ている。
ただしサイズはとても小さく、間違えることはないと思う。
最後に、2019年に見た八幡平秋田側某所のキヌガサソウ群生。
2019/06/09 八幡平秋田側某所にて。
ここの群生地は神室山ほど数は多くないが、コンパクトにまとまっている。
自動車道から比較的近いせいか、よく盗掘されているとのこと。
よって生育地の詳細は伏せさせて頂く。
以上。
(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。今回はその十編目です。)
東北にはスミレがとても豊富な山がある。それは秋田駒ヶ岳だ。
この山の花はコマクサが有名で、私もそれを見るために若い頃から何度も登っていたが、
スミレの花を見た記憶はほとんど無かった。
スミレの存在を知ったのは約25年前。
いがりまさし氏の著作、山渓ハンディ図鑑6「日本のスミレ」に
タカネスミレが一面に咲く素晴らしい花風景が紹介されていた。
何故、その時まで知らなかったのか。
それは駒ヶ岳に登るのはいつも七月以降だったから。
その頃にはタカネスミレの花はほぼ終わっている。
登山を再開したばかりの2015年、
この花を見ることを第一目的に、六月中に秋田駒ヶ岳へ向かってみた。
2015/06/21 タカネスミレの群生。秋田駒ヶ岳大焼砂にて。
2015/06/21 タカネスミレの群生。秋田駒ヶ岳大焼砂にて。
2015/06/21 タカネスミレの群生。秋田駒ヶ岳大焼砂にて。
タカネスミレはその後、訪ねた岩手山にも多かったが、秋田駒のような群生ではなかった。
2018/07/02 タカネスミレ。岩手山山頂部にて。 2018/07/02 岩手山中腹にて。
2021/09/01 タカネスミレの秋姿。秋田駒ヶ岳焼森にて。コマクサも混生。
2015/06/21 タカネスミレとコマクサの混生エリア。秋田駒ヶ岳大焼砂にて。
秋田駒ヶ岳ではタカネスミレとキバナノコマノツメの生育地も隣接していた。
2021/06/17 上の方にキバナノコマノツメ、下の裸地にタカネスミレ。
タカネスミレはコマクサ同様、火山礫裸地へのパイオニア植物だが、
キバナノコマノツメは他の草や矮性低木に有る程度覆われた風衝地や雪渓跡に生育する傾向が有った。
秋田駒ヶ岳では広範囲に生育するので、量的にはキバナノコマノツメの方が多いと思う。
場所によっては黄色の絨毯になるほど密生していた。
2021/06/17 キバナノコマノツメの群生。秋田駒ヶ岳阿弥陀池付近にて。
2015/06/21 キバナノコマノツメをアップで。秋田駒ヶ岳にて。
他の山のキバナノコマノツメ。
2018/06/16 笊森山にて。 2017/06/29 早池峰山にて。
2021/06/30 キバナノコマノツメ。月山にて。
オオバキスミレは低山に多い種類で、ふつうは高山植物とはみなされないが、
一部の山では1500mを超える高所にも現れていた。
雪渓と笹藪が接するような場所に群生する傾向があった。
2015/06/21 オオバキスミレ。秋田駒ヶ岳にて。
2018/06/16 オオバキスミレ。笊森山にて。
東北の高山のスミレはご覧の通り、黄色ばかりだ。
黄色以外のスミレを少し探してみた。
ミヤマツボスミレは鳥海山では登山道の石畳の隙間などに多い。
その他の場所、例えばキバナノコマノツメがよく生えているような草地などには進出しないのは不思議だ。
2020/07/30 ミヤマツボスミレ。鳥海山にて。
こちらは名前がわからないスミレだった。
スミレに詳しい友人からツルタチツボスミレではないかと教えていただく。
2016/07/02 ツルタチツボスミレ。鳥海山にて。
ウスバスミレは小さな白花のスミレ。奥羽山系の亜高山帯、針葉樹の林床でよく見かけた。
2021/06/07 ウスバスミレ。三ツ石山にて。
ミヤマスミレは高山では貴重な紫色のスミレ。
しかし「ミヤマ」を冠する癖に高山帯ではほとんど見かけない。亜高山帯やその下、山地帯に多い印象だ。
2021/06/07 ミヤマスミレ。三ツ石山にて。
ムシトリスミレはスミレのような紫花を咲かせるが、スミレ科ではなく、縁もゆかりも無いタヌキモ科の食虫植物。
したがってここに載せるのは場違いかもしれないが、スミレ繋がりでどうかご容赦頂きたい。
東北各所のムシトリスミレ。
2017/07/20 早池峰山にて。 20180714 八幡平大深湿原にて。
2018/06/16 ムシトリスミレ。笊森山にて。
2018/06/16 ムシトリスミレ。笊森山にて。
2017/07/10 ムシトリスミレ。秋田駒ヶ岳にて。
2017/07/10 薄色の株。秋田駒ヶ岳にて。
2021/06/25 ムシトリスミレ。栗駒山にて。
ムシトリスミレは高山ならばどこにでもあるものと思っていたが、
不思議と日本海側の鳥海山や月山では見た記憶がない。
量的には八幡平から乳頭山、秋田駒ヶ岳までが豊富な印象だ。
イワウメしか生えないような岩場の隙間や雪渓跡地の湿原などにも進出していた。
以上。
(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。今回はその九編目です。)
ウィキペディアによれば、
「コマクサは、美しい花と、常に砂礫が動き、他の植物が生育できないような
厳しい環境に生育することから『高山植物の女王』と呼ばれている。」との書き出し。
また登山情報サイトYamakei Online(植物写真家の高橋修氏)では、
「『高山植物の女王』コマクサ、荒涼とした場所に咲く孤高の花。高山に可憐に咲くコマクサは、
「高山植物の女王」と称され、人気の高い花だ。可憐な姿の一方で、その生き方は力強い。」と始まっている。
2018/07/02 岩手山のコマクサ
私も同感だ。コマクサの女王としての称号は荒涼とした生育地環境と対になっているものだと思う。
その分布域は千島列島・樺太・カムチャッカ半島・シベリア東部の東北アジアと日本の北海道から中部地方。
東北では岩手山、秋田駒ヶ岳、蔵王連峰の三ヶ所(尾瀬の燧岳も加えると四ヶ所)とのこと。
本記事では東北の三ヶ所の山で生育する様を報告してみる。
まずは私の住む秋田の秋田駒ヶ岳。
この山ではコマクサはマップ上の大焼砂と焼森の二箇所で見られるが、今回はメインの大焼砂を訪ねてみる。
大焼砂は横岳の南側稜線上にあり、黒っぽい火山礫に広く覆われている。
2017/07/10 秋田駒ヶ岳・大焼砂のコマクサ群生地
ぱっと見には何も生えていないようだが、薄青ピンクの点々はこれ全てコマクサなのだ。
2017/07/10 秋田駒ヶ岳・大焼砂のコマクサ群生地
2017/07/10 秋田駒ヶ岳・大焼砂のコマクサ群生地
植物保護のため、この群生地に立ち入ることは出来ない。
しかし何か所か、登山道からこのように間近にコマクサの姿を見ることが出来る。
2017/07/10 秋田駒ヶ岳のコマクサ
2017/07/10 秋田駒ヶ岳のコマクサ
とても楚々とした姿だが、それは地上部だけの話。
地下部は凄い。根っこの長さはなんと100 cmにも達するとのこと。
それを知っていたら安易に生育地に踏み込むなんて出来ない。少なくとも1m以上は離れて見るべきだ。
2015/06/21 秋田駒ヶ岳のコマクサとタカネスミレ
コマクサはこのような礫地に単独で生えることが多いが、
秋田駒ではタカネスミレやオヤマソバなど限られた植物と混生するエリアも有った。
なお開花期はタカネスミレは六月いっぱい、オヤマソバは八月以降とずれがある。
2015/06/21 秋田駒ヶ岳のタカネスミレ群生とコマクサ
2015/08/16 秋田駒ヶ岳のオヤマソバとコマクサ
2015/08/16 秋田駒ヶ岳のイワブクロ
2015/08/16 終盤近いコマクサの大株
2015/08/16 孤高のコマクサ。背景は田沢湖と女岳、男岳。
岩手山では、コマクサは山頂付近にもあるが、北側の焼走りルート途中にある群生地が凄い。
その地の標高は1250mから1300mくらいだろうか。
こんな低い場所なのに登山道の上にも下にも斜面はコマクサばかり。
特に上の方ははるか山頂まで続いてるように見える場所も有った。
2018/07/02 岩手山焼走りルート、コマクサ群生地
秋田駒ヶ岳大焼砂よりも群生の規模はこちらの方がずっと大きい。
ひとつひとつの株も大きく、花数も多かった。それを登山道から間近に眺められる点も凄い。
大株、多花のクマクサ
登山道はザクザクの火山砂礫なのでとても歩きにくいが、
おそらく日本一立派なコマクサがうじゃうじゃ咲いてるのを見られるのだから文句は言うまい。
このような登山道が数百メートル続く。
正式名称ではないが、仮に「コマクサロード」としておく。
2018/07/02 岩手山山頂付近のコマクサ
山頂付近のコマクサ(右上)はとても小さく疎らで、咲き出したばかりだった。
なお下の群生地(仮称コマクサロード)は、以前に較べるとミネヤナギなどの低木が増えて来たとのこと。
2018/07/02 仮称コマクサロードにて。ミネヤナギやヤマハハコが侵入した場所。
すると土壌が安定するのか、他の草花も続々と侵入してくるようになる。
花はまだ咲いてなかったが、ヤマハハコやマルバキンレイカ、クサボタンなど低山性の種類も多く生育していた。
また秋田駒同様、タカネスミレも混生している。
更にコミヤマハンショウヅルのようなつる草や鮮やかな色合いのハクサンチドリなども咲いていたのは意外だった。
コミヤマハンショウヅル ハクサンチドリとミネヤナギ穂花
やがてこの場所はスッポリと他の植物に覆われ、コマクサは消えるかもしれない。
しかし岩手山が噴火し、新たな噴出物に覆われた荒地が広がると、
いつのまにかコマクサがまた生えだし、新たな遷移が始まる。
コマクサは遷移の先頭に立つ植物だ。
こういう植物のことを先駆植生(パイオニア)と呼ぶと以前習った記憶が有る。
女王様の本当の姿は荒地の魔女、いや勇猛果敢なる切り込み隊長だったのだ。
2018/07/02 仮称コマクサロードにて。裸地のコマクサ。
東北で三ヶ所目のコマクサ生育地、蔵王山は秋田市から遠いので一度しか行ってない。
2008年8月9日、蔵王エコーラインを走る機会が有ったので、一応、報告しておく。
2008/08/09 蔵王山駒草平
2008/08/09 刈田岳山頂付近のコマクサ ちらりと御釜が見えた。
コマクサの生育地として知られる駒草平や刈田岳山頂では疎らにしか生えていなかった。
この山のコマクサの花色は秋田駒に較べると、白っぽい感じがする。
山はガスに覆われ、景色はほとんど見えなかった。でも、一瞬、御釜が見えたのでよしとしよう。
以上。
(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。今回はその八編目です。)
晩夏から初秋にかけて、北東北の高山を歩くと、
登山道沿いの草地や湿地などで花の大きなリンドウがいっぱい咲いている。
下の写真は昨年、鳥海山で見た株だが、この素晴らしいリンドウ、
少し前(私にとっては10年前頃)までは名前がわからなかった。
当初は北国なのでエゾリンドウかと思ったが、花は茎頂(茎の先端)だけにしか付かないし
(エゾリンドウは茎頂の他に上部の葉腋にも付く)、背丈もあまり高くない(1mを超えない)。
手持ちの図鑑をあたったら、オヤマリンドウも花は茎頂だけにしか付いてないことがわかった。
絵合わせでこれかなと思ったが、誰もそうは呼ばなかった。
更に分布域を見ると、どうも自信が無くなる。
何故ならば、ある図鑑(後述のA)には、オヤマリンドウは「本州の東北~中部」、
また別の書(後述のB)には、本州の中部以北、後述のCには東北南部~中部とあった。
北東北ではこんなによく目立つリンドウなのに名前がわからないままでいた。
ところが10年前頃だったか、ひょんなことから「エゾオヤマリンドウ」の名前が浮上した。
2021/09/03 鳥海山賽の河原にて。
ここで愚痴めいた話を少し。
私自身が高山植物の同定で長年使っていた図鑑は次の三冊だ。
原色新日本高山植物図鑑(Ⅰ)(清水建美・著、保育社・発行)(Aとする)には、
エゾリンドウ、エゾオヤマリンドウともに掲載されていなかった。
著者は信州大学の教授だった。たぶん中部地方の高山植物で手いっぱいで、北東北の植物には関心がなかったのだろう。
山渓カラー名鑑 日本の高山植物(豊国秀夫・編、山と渓谷社・発行)(Bとする)
は個人的にはたいへん重宝していた書籍だった。
こちらには一応、両方とも載っていたものの、その生育地は、
エゾリンドウが北海道と福井県以北の山地帯~亜高山帯の草地や湿地周辺、
エゾオヤマリンドウが北海道(大雪山、夕張岳、羊蹄山など)と東北では岩手山などに分布とあり、
後者の特徴は「エゾリンドウの高山型で高さ13~30センチと小さい。花つきも悪く、茎の先にだけつく。」との記載。
くだんのリンドウは岩手山以外の北東北の高山にも極めて多く、背丈はもっと高く、花つきはけっして悪くない。
同じく山と渓谷社・発行の
山渓ハンディ図鑑8増補改訂新版 高山に咲く花(清水建美・編、門田裕一・改訂版監修)(Cとする)には、
エゾオヤマリンドウのみ掲載されており、分布は北海道とあった(清水先生が絡むと、この花の扱いは雑になるのか)。
ならば北東北の高山にうじゃうじゃ咲いている立派なリンドウはいったい何なのか。
ここ十年ほどは皆さん、エゾオヤマリンドウと呼んでいるようなので、私もあまり深く考えず、それに合わせていた。
最近購入した改訂新版・日本の野生植物(平凡社)(2018年発行の第2刷)(Dとする)によると、
エゾオヤマリンドウ Gentiana triflora var. japonica f. montana は、
北海道、本州(山形・宮城県以北)に産する。エゾリンドウの高山型で、茎は高さ20~30cm、
花が茎頂だけにつき、花冠はやや短い。外観はオヤマリンドウに似るが、生育環境が異なり、花冠裂片が平開する。
とあった。
やっとこの花が『岩手山以外の北東北にも有る』ことが正式に認知されたような気がした。
しかし多少、不満が残る。
1.「茎は高さ20~30cm」という点。
北東北の高山で実際に見かけるものは多くが40~60cmと高山植物としては比較的大柄である。
2.花が茎頂だけにつくものが圧倒的に多いが、場所によっては葉腋にも数段にわたって花をつけるタイプ、
いわゆるエゾリンドウ Gentiana triflora var. japonica と混生しているケースも有った
(個人的には三ツ石山、乳頭山、栗駒山秣岳などで遭遇)。
愚痴めいた前置きが長くなってしまった。
以降、北東北各所のエゾオヤマリンドウを列挙してみる。
エゾオヤマリンドウは秋田駒ヶ岳にも多いが、自らの撮った写真がイマイチだった。北隣の湯森山のもので代替。
2014/09/15 湯森山にて。
乳頭山では各所に湿原が点在し、一足早い草紅葉をバックにしたリンドウを愉しめた。
2019/09/17 乳頭山にて。
八幡沼で見た株は大きいのに花がとても貧弱だった。
たぶん廻りの湿原が高層湿原で栄養状態が良くないせいかなと思った。
2014/09/03 八幡平八幡沼にて。
三ツ石山は紅葉の素晴らしいお山。花は少ないが、リンドウは豊富だった。
2021/09/11 三ツ石山にて。バックは岩手山。 2021/09/11 三ツ石山にて。白花タイプ。
三ツ石湿原には葉腋にも花がつくタイプが数本混生していた。背丈も1m近く、これは典型的なエゾリンドウだと思った。
2021/09/11 三ツ石山荘付近にて。 葉腋にも花がつくタイプ。 2014/09/06 森吉山にて。薄色のタイプ。
エゾオヤマリンドウは他の花との混生はあまり好まないようで、いつも単独シーンばかりだったが、
森吉山ではミヤマアキノキリンソウと仲良く?混生していた。
2014/09/06 森吉山にて。
焼石岳では標高900mの中沼から山頂直下まで連続的に分布していた。
草丈は湿原のものは1m近く、山頂直下のものでも30cm以上あった。
2020/09/16 焼石岳山頂直下にて。
栗駒山ではあまり多くなかった。秣岳では、葉腋にも花が付き、丈が高いタイプが混生していた。
2019/09/28 栗駒山秣岳にて。2019/09/28 栗駒山秣岳にて。葉腋にも花がつくタイプ。
エゾオヤマリンドウの分布南限は月山のようだ。
2016/08/20 月山にて。
次のリンドウは月山の南、朝日連峰稜線で見たもので、エゾオヤマリンドウにそっくりだが、別種だった。
オヤマリンドウ Gentiana makinoi だ。
Dには、花冠は2-3cmと小さく(エゾリンドウは3-4.5cm)、茎の頂部に付き、裂片は直立し、平開しないとあった。
2019/08/05 オヤマリンドウ。朝日連峰オツボ峰にて。
2019/08/05 オヤマリンドウ。朝日連峰オツボ峰にて。
トウヤクリンドウ Gentiana algida は中部山岳ではありふれた高山植物のようだが、東北では珍しい。
以前、何かの本に東北では尾瀬の燧岳と月山だけと書いてあったが、私自身は月山でしか見たことが無い。
月山では山頂台地の風衝地にパラパラと咲いていた。
世界的には北アジアから北米にかけて広く分布する種だと知った。
2016/07/23 トウヤクリンドウ。 月山にて。2014/08/02
2016/07/23 トウヤクリンドウ。月山にて。
ミヤマリンドウ Gentiana nipponica はあちこちの高山で見かけるが、生育場所は湿った場所が多い。
丈が低いので、背の低いイネ科やスゲ類の草地や登山道沿いの裸地を好むようだ。
開花時期は先のエゾオヤマリンドウより早く、七月から咲き出すものもある。
2020/07/30 ミヤマリンドウ。鳥海山にて。
2016/08/11 ミヤマリンドウ。乳頭山にて。
タテヤマリンドウ Gentiana thunbergii var. minor
はハルリンドウ Gentiana thunbergii var. thunbergii の高山型変種とされる。
高山や亜高山帯の湿地で見られるが、東北ではそれほど多くない。
開花時期はミヤマリンドウよりも早く、六月から咲き出している。
2010/06/15 八幡平大場谷地にて。
2021/06/25 栗駒山にて。
以上。
(冬場は山には行きません。夏場の回想記事が主体となります。
その一環で「高山植物」のカテゴリーを創設、山の花について語って行きます。今回はその七編目です。)
ニッコウキスゲは日本の高山植物の中では最も大きな花を咲かせる植物かもしれない。
花の色は橙黄色でよく目立ち、また群生することが多く、見ごたえのある花風景を作る。
全国的には、日光の霧降高原や尾瀬、信州の霧ヶ峰などに咲くものが有名だが、
東北の山(一部、海岸)でもよく見かける。
今回は鳥海山や八幡平、和賀山塊のものを紹介したいと思う。
鳥海山では西側、長坂道稜線に大きな群生地が有る。
この花は三、四年くらいの周期で花の多い年が巡って来るが、最近では2020年が当たり年のようだった。
2020/07/17 バックは鳥海山本体
2020/07/17 ニッコウキスゲ群生。左上に飛島。
2020/07/17 ニッコウキスゲ群生。
2020/07/17 バックは笙ヶ岳。紅紫の穂花はヨツバシオガマ。
2020/07/17 バックは月山。
ほぼ同じ場所だが、2018年の様子。ニッコウキスゲは終盤モード。次に咲く花が目立っていた。
2018/07/20 バックは鳥海山本体。
鳥海山の他の場所。
2020/07/30 扇子森南斜面にて。
2020/07/30 千畳ヶ原にて。
2016/06/27 滝の小屋登山口付近。ここは本数が少ないが、山をバックにした花風景が愉しめる。
ニッコウキスゲは、図鑑等によれば、ゼンテイカ(禅庭花)が正式和名で、
長年呼び慣れたニッコウキスゲは別名扱いとなっている。
また分類学的にはずっとユリ科だったが、現在はススノキ科とされている。
ススキノキとは日本人にはなじみの薄い植物だが、
科全体の特徴として、『葉が線形でロゼットになり、そこから花茎が立ち上がる』とあった。
そう言われれば確かにそうかもしれない。狭義のユリと花はそっくりだが、咲き方がだいぶ違う。
しかし、私自身、残りの人生で、ゼンテイカという名前と科の移動を受け入れることが出来るものやら。
次はドーンと北に飛んで八幡平。ここではニッコウキスゲは中腹から山頂にかけて点在する湿原でよく見かける。
八幡平西部にある大場谷地の2009年、七月上旬の様子を四枚。
ワタスゲと一緒。
レンゲツツジと一緒。
この花の仲間は、一日花なので「ディ・リリー」とも呼ばれる。
こんな立派な花の寿命が僅か一日とは随分と勿体ない話だ。
自庭に植えている園芸改良品種ヘメロカリスで確認したところ、
完全に一日花ではなく、二日間にわたって咲くものが多かった。
と言っても、あれだけ立派な花を、暑い季節に次々と咲かせたら、さぞかし大量のエネルギーを使うことだろう。
豊作年の後に二、三年続く不作年はエネルギーを蓄える期間との位置づけか。
八幡平のその他の場所でのスナップ。
2019/07/20 黒谷地湿原のニッコウキスゲ
2018/07/14 大深湿原。ニッコウキスゲと奥にコバイケイソウやハクサンボウフウ。
ニッコウキスゲの芽出し風景。
2013/06/10 大場谷地にて。左端はミズバショウ。
和賀山塊、薬師岳にもニッコウキスゲの群生地が有った。
2018/07/09 薬師岳にて。 2018/07/09 薄色のニッコウキスゲ。
2018/07/09 薬師岳にて。バックは小滝山。
2018/07/09 薬師岳にて。
2018/07/09 薬師岳にて。一緒に咲くのはイブキトラノオ。
ニッコウキスゲのお花畑は美しい。しかしこの時期の山は暑いし、カミナリ雲も湧きやすい。
この日は熱中症寸前だった。しかもこの後、雷雨にも見舞われた。
以上。