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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロー20-

2007年08月03日 | 投稿連載
      愛するココロ  作者 大隈 充
           
         20
 桜吹雪がコンクリートの校舎と校舎の間の谷底をピンクの巨大な
竜が花びらの渦を巻き散らしながら通り過ぎるように目も開けられ
ないぐらいに激しく吹きぬけて行った。
銘菓ひよこの手土産を抱えた村上刑事が、帽子が飛ばされない
ように手で押さえながら前屈みに歩を進めていた。
まさか又音声ロボットを持って行った九理大へ戻ってくるとは思っても
見なかった。
一週間で今度は博多の末永教会へフィルム盗難の件で九州
に二度も行ったり来たりするなんてよっぽど村上刑事は
ついてないと思った。
ついてない次いでに加藤先生の研究室に寄ってみたくなった。
「いや。地元のひとに地元のお菓子をお土産というのも芸が
なくてすいません。」
 加藤研究室のテーブルにそう言いながら村上は、ひよこの
お菓子の箱を置いた。
「とんでもない。気を使わんでんよかったとにぃ。すいまっせん。」
甘いものに目のない加藤教授は、遠慮せず有り難く受け取って包み紙
を破き箱を開けると、テーブルに広げて、飢えた子供のように
ひとつのひよこの頭にがぶりと噛み付いた。
「どうぞ。刑事さんも。」
「はい。甘いものだめで・・・」
と出されたお茶を啜った。
「そうですかぁ。」
と二個目に食らいついてお茶を飲んで
「いやー。ずっと徹夜つづきやもんで。甘いものが身体に染みます」
「ご研究中に時間をとって頂いて恐縮です。」
「いや、いや。ちょうど息抜きでよかったとですよ。末永牧師さんから
栄一君の本当のお父さんの話、聞かれたとですか?」
「それが、よく判らないんです。ただ不動産屋から悠悠自適で
趣味人として昔の映画フィルムを集めるようになって東京じゃ
結構有名だったとは、牧師さんも栄一君が中学生になった頃
知ったみたいですけど・・・」
「どこで知ったとやろね?」
「末永牧師の話だと福岡の選挙ポスターで知ったみたいですけど・・」
「はい。はい。知事選。十年ぐらい前変わった泡沫候補で伏見建二
という名前、あった。
覚えとる。映画で愛を!義務教育に無声映画の授業を!なんて連呼
して笑われとったな。」
「末永栄一は、わかっていたみたいですけど決して会いたいとか
言わなかったそうです。二十歳になって、牧師さんから父親の
ことを切り出そうとしたら、ぼくのお父さんはここにいます、
ぼくのお父さんは一人です、ってはっきり言ったそうです。」
「そうですかあ・・・」
加藤教授は、三個目のひよこを食べ終えて、四個目に手を伸ばした。
するとトランペットの音が突然鳴り出した。
村上が慌てて湯呑み茶碗をひっくり返した。「な、な、なんですか?」
加藤教授の後ろでエノケン一号の胸が点滅して
トランペット音を奏でていた。
「ああ。データ入力が終わった。」
と教授は、エノケン一号のお腹からケーブルで繋がれている
カセットレコーダーのスウィッチを切った。
今度は、エノケン一号、オーボエの低い和音を奏でた。
「びっくりさせてすまんです。こいつのせいで徹夜がつづいて
おりましたんです。」
「これ、レイゾウコじゃないんですか。」
「ロボットです。ちょうど手伝ってくれていた卒業生の男の子が、
一週間前に逃げ出しましてね。助手の眞鍋くんとエノケンの
データ入力を不休不眠でやっとりまして・・・」
「はあ、あの末永の惚れこんだ美人の眞鍋由香さんですかぁ。」
「今日は朝家に帰って今頃寝てるでしょ。」
「エノケン?・・・・」
と村上は、エノケン一号に近づいた。
エノケン一号、ガクンと頭を上げて目がぽおっと青く光りだした。
「きれいな青い目ですね。」
「今ロボットが意識を持ち出したところですたいね。」
村上は、足が止まったまま動かなくなった。
「わ・た・しは、エ・ノ・ケ・ン一号!」
ロボットの丸い目がますます透き通るようなブルーに変化していく。
「博多の海の中道で見た玄界灘の荒波のブルーみたいだ。」
と村上は、見つめたままパイプ椅子に座り直して呟いた。
エノケン一号は、村上のすべての言葉をじっと聞いていた。
そしてゆっくりと目を閉じた。
窓の外は、桜吹雪がピンクの竜となって、吹き荒れていた。 
 エノケン一号は、広島のビジネスホテルで目覚めた。
レースのカーテンから朝陽が照りつけ、エノケン一号の目は、
ブルーから赤にスライドした。
すぐ脇のベッドで由香が寝息をたてていた。
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ベッカライ~エルちゃんシーちゃんのおやつ手帖7

2007年08月03日 | 味わい探訪
桜新町のパン屋ーベッカライ
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