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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵-30-

2008年10月03日 | 投稿連載
 こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ     
             30
 シンちゃんと呼ばれた若い男は、その夜「もうアパートへ帰りな。」と言わ
れても帰らず二階の元子供部屋でマンガ本やDVDの積み重ねられた中の縫い
目が破れてスポンジが飛び出しているソファで死んだように寝た。
ここは、安田夫婦の間では、『ネコ部屋』と呼ばれていた。猫トイレと木登り
を置いて売りネコの遊び場にしていた。
だから真一の寝ている本の山の天井スレスレの隙間には五六匹の洋ネコが身を
潜めていたし、ソファやテーブルの足の下にも三毛猫の子供が数匹走り回って
いた。
いつもだったらネコを蹴散らして大暴れする真一が今日は、余程疲れたのか
夕食どきあれだけ親にはげしく当り散らして暴れたあと電池が切れたみたいに
コトンとかつての自分の部屋に入って大人しく寝てしまった。
ただ彼は、そのすうっと眠りに落ちる寸前に天井に貼り巡らされた煤だらけの
ガンダムのシールを見つけた。あれは、幼稚園のときにチューインガムについて
来たおまけだった。
母親に犬の散歩の手伝いをすると必ずお駄賃に貰えたガムだった。うれしくて
その度に脚立によじ登って天井に貼ったものだ・・・夜電気を消すとガンダム
の姿だけが青く光った・・・今そのガンダムは黒い埃に覆われてもう闇の中でも
光らない・・・オレは、百年も生きた気がして・・・あのときの幼い自分の顔
を思い出せない・・・
彼がこの部屋で眠るのは、まさしく2年ぶりだった。高校生で別にアパートを
借りて親と別れて気ままに暮らし出してから一二回しか親の家では泊まっていない。
 それから二日たったが息子は帰らなかった。
安田美貴は、禿げ頭に最近シミが目立ってきた夫の次郎に、いったいあいつ
はどうしたんだろ?と心配そうに尋ねた。
すると次郎は、禿げのシミをぽりぽりと掻きながらまるで特ダネを握った芸能
記者みたいに唇の先を尖らせて小声で美貴に囁いた。
「駐車場のあいつの車見たか。」
「ううん。」
「今朝ミニワゴンを覗いてびっくりした。」
「何がよ。早く言ってよ。」
「中によ。いっぱいあいつの所帯道具が入ってるんだ。服からパソコンまで
びっちりよ。」
「小金井のアパート、出る気?」
「さあー。わからん。」
「どうすんだって、さっき犬の散歩の時にあいつに聞いてみたら・・・」
「別にって。いつもの調子で。」
「まさか都心のマンションに住みたいとか言うんじゃないだろうね。冗談じゃ
ないよ。いくらお金があったってたりゃしない。」
「まったくあいつの考えてることはさっぱりわからんよ。」
「本当に子供があんなモンスターになるなんて想像もできゃしなかったよ。
キレイな蛹がいきなりある日毒蛾になるんだもん。」
「へへへ、モンスターになる前に猫の子みたいにビニール包んで川に捨ててりゃ、
こんな傷だけになるような苦労しなくてよかったのによお。」
「やめてよ。こっちがいつ切り刻まれて川に捨てられるか気が気じゃない。同じ
屋根の下で寝てると。」
ヴヴヴヴヴヴっ・・・
『犬小屋』から地響きのような声が聞こえてきた。
 午後遅くなると連日つづいている真一によるオシオキの業の声だった。
「シンちゃん。あんまり手荒なことはやめてよ。」
美貴は、心底不安になって廊下の奥のモンスターに声をかけた。
「オレの眼を見るな。見るなって言ってるだろ。見たらオシオキだっつうてるだろ」
『犬小屋』の扉越しに真一の甲高い叫びとともにバールで肉を殴る音が数回した。
ヴヴヴヴヴヴヴヴっっっっつ
次郎は、部屋に駆け寄って扉を開けた。
「頼むよ。シンちゃん。もういいかげんやめてくれよ。殺しちゃ駄目だよ。」
『犬小屋』の床で鎖につながれて健太が転がっていた。ヴヴヴヴっと苦しい
呻き声を漏らして体をくの字に折り曲げていた。
「うっせえなあ。」
と真一は、バールを犬のケージに投げつけて飛び出して行った。
そのとき何か彼が叫んでいたが、一斉に『小屋』の犬たちが吠えたので聞き取
れなかった。犬を次郎がなだめていると、ダイニングで電話が鳴って美貴が出た。
「はい。ワンニャン天国堂ー。・・・ああ。警察?・・はい。息子のアパートで
すけど・・・いませんか。・・・ああ。はい。最近というかここ二年ぐらい会って
ないんです・・・どうかしたんですか・・真一。」

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アリスのチュー~シーちゃんのおやつ手帖65

2008年10月03日 | 味わい探訪
パティスリー・クイーンアリスはフレンチの鉄人・石鍋裕シェフが
プロデュースするお店。
他にキャンドル型のショートケーキなどが有名です。
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