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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵-33-

2008年10月24日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
          33
「ごめんなさい。お食事中。」
と焼けたシラネの前の鉄板の上に甲高く可憐な少女の響く言葉を
春がコロコロところがすと、慌てて入ってきた入口へ引き返して
振り返らずに走り出した。
「すいません。お邪魔しました。」
と葦の狭い通路を駆け出しながら付け加えた。
「そんなに、慌てて帰らんでも・・・」
シラネは呼びかけたが、鉄板にモヤシとキャベツを乗せたの
でジュッと水蒸気が上がって『天国の部屋』の主のあとの言葉
がかき消された。
 春は、入ってきたときより薄暗い葦の曲がりくねった通路
をシューズの紐が解けて跳ね上がってくるのも構わず歩調を
速めて進みながら、ふとこれは、夢の中で雲の中を走ってい
るのではないかという感覚に襲われて足の筋肉に力が入らなかった。
振り返ればあの、歯の抜けたシラネという浮浪者
が追いかけて来そうで怖くて後ろを見ることが出来なかった。
どのくらい走ったのか、どうも帰り道の通路がどんどん狭く
なっていって、天井も行けば行くほど低くなって来た。
そんな筈はない。来た道と違う。
たしかあの部屋の扉の付いた入口はひとつしかなかった。
間違える筈がない。
しかし出口に辿りつくどころか、明らかに入ってきた通路
より狭くなってほとんど両手で行く手の張り出した葦の壁を
掻き分けるように進まないと前へ行けなくなった。
この道は、違う。
そう思った瞬間春の目の前に小さな竹編みの扉が現われた。
こんな扉は『天国の門』の入り口にはなかった。
この道は、間違っている。
春は棒のように突っ立って考えた。
しかしシラネのいた『天国の部屋』には入口はひとつしか
なかった。どうして入ってきた入口に又戻れなかったのだろう。
もう一度あの部屋を出たときを巻き戻して思い出してみると
竹の扉が出る時右に見えた。
入った時は、そういえば左にあった。
もしかして通路の出口がふたつあってその真ん中に扉が一つ
付いていて、片方を閉めるともうひとつの出口が塞がれて見
えなくなる仕掛けになっていたのかもしれない?
ガサガサ追いついてくる足音が通路の奥から響いてきた。
春は、竹の扉を開けようとしたが鍵がかかっていて開か
なかった。汗だらけで葦の咽るような青い匂いに囲まれて立ち
尽くしている春の方へガサガサと葦を揺らす音がさらに近づい
て来た。そしてそのガサガサがすぐ後ろに迫ったかと思うと葦
の上へ走って、遠退いて行った。
春は、一瞬心臓を掴まれた気になった。
あああああー!
と叫んでその竹の扉に体当たりした。
飛び出した春の眼に陽の傾いた青空が映った。出た?
いや、そこは小さな円形の屋根のない広場だった。
ちょうど四人も入れば一杯になるミステリー・サークルのよう
になってぐるりが葦の壁で囲まれていた。
「逃げても無駄だ。」
シラネの声がしたが姿が見えない。うつ伏せで辺りをキョロ
キョロ見回しながら春は葦の刈られたサークル広場で立ち
上がった。
「ここから出してくださいっ。」
シラネの声は、押し黙って返事をしない。川風が頭の上を
唸って駆け抜けて行った。春は、サークル広場の葦の壁を
こじ開けようと手を差し込んでみたが葦壁の中に鉄の柵が
ぐるりとあり、ここに閉じ込められたということがわかった。
「せっかく来たものを逃がさないよ。」
破れた竹の扉の暗い通路からシラネの声が近づいてきた。
春は、ゆっくり後ずさりサークル広場の中央へ下がった。
カアカアと頭上をセイコちゃんが飛んで来て旋回した。
「セイコちゃん。」
と叫んで飛び上がった瞬間、春の体が地上からぷっつりと消えた。
激しく鳴くセイコちゃんの声と羽ばたきとが小さな空の中
で見えた。ドンドンとつづいてピストルの音がして、セイコ
ちゃんが急上昇して小さくなり見えなくなった。
春は、深い穴の底からそれらを見上げていた。ここは、サー
クル広場の中央に掘られた穴だった。その穴の入口までの
距離は、落ちた春の背丈の三倍はあった。
「出してー・・・」
春の声には力が入らず裏返った叫びになった。すると頭上
の丸い入口に模造銃を持ったシラネの顔が出てきたかと
思ったら、鉄の板でガラガラと出口を塞がれてしまった。
春は真っ暗な世界に取り残された。
視界ゼロの闇は、春の叫びも悲鳴もべったりと呑み込んで
しまって声が出なくなった。それでも恐る恐る寡黙な一歩を
踏み出すとすぐに何かに躓いた。
春はコトンと濡れた地面に倒れた。
そのとき咄嗟に手を突いて何か生暖かくて長いモノを片手
に掴んだ。そしてそれがグニュと動いた。
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マンハッタン・デリ~シーちゃんのおやつ手帖68

2008年10月24日 | 味わい探訪
東京ミッドタウンの中にある、アメリカンな雰囲気のデリ・カフェ。
簡単な食事からデザートまで、イートインもテイクアウトも出来ます。
oluoluクッキーのデザインは多様で、春なら桜の花、秋ならお月見ウサギ…
といった具合に、季節ごとに変わります。
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