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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
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井上総本舗の貝最中~シーちゃんのおやつ手帖115

2009年11月13日 | 味わい探訪
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さすらいー地球岬 16

2009年11月13日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
     16
 そして夜が明ける頃、オレは、窓の外で遠吠えを
聞いた。チャータだった。オレの体から痛みがひい
ていたのでなんとか上半身を起こして窓のカーテン
を開けることができた。
窓ガラスにミミズが這いずり廻ったような氷のシワ
ができていてその外は、夜の壁が落ちて朝のスノー
ダストで輝いていた。オレは、かなりぐっすり寝た
おかげで足も腰も軽くなって力が頭の真ん中からす
るりとつながった。
一歩ベットから踏み出し、窓枠に右手をかけてギブ
スの左腕で窓を開ける。指も肘も痛みのしっぺ返し
はなかった。昨日あれだけ体中が痛んだのがウソみ
たいだ。
太陽は、性懲りもなくまだオレに生きているんだな
と笑っているように照り付けてきた。
張りつめた冷たい風が頭から足先まで包んだ。
すると今度は、遠吠えなんかじゃなくはっきりとワ
ンワンワンとチャータの鳴く声がした。それはちょ
うど病室のテラスと中庭との間の低い木製の柵の向
こうの雪だまりの中でチャータが尖った鼻を突き出
してオレに向かって呼びかけていた。
あいつは、オレを求めている。こんなくだらないオ
レでもまだつながりをつけようとしている。なんだ
かオレは、涙が溢れてきて脹れ上がった顔でおいお
い泣いた。
そしてオレは、ベッド脇の机の下にビニール袋に入
れられて置いてあった服と靴を取り出して急いで身
に付けると外へ出た。
チャータは立ち上がってクンクンと低い声でオレが
テラスから中庭へ出てくるのを見守って出迎えた。
そしてペロペロとオレの口を舐めた。
おまえがオレの体が電車に真っ二つにされるのを救
ってくれた。それが余計なお世話だったかどうか別
としてオレはこうして生き残った。いや、こいつが
何かをオレに教えているかもしれない。そんな虫け
ら以下のオレなんかを命がけで助けてくれたことに
は、何かきっと意味があるはずだ。
オレをもう少し生かして何かしろということではな
いか。
それは何か。やはり地球岬へ、オレの生まれた室蘭
へ、海に突き出た先端へ行かなければならないんだ。 
 チャータは、苫小牧駅の待合室では病院の守衛室
から盗んだリックサックの中で大人しくじっとして
くれた。
オレは、病院を抜け出して歩いて駅まで来ると履い
ていた靴の中敷の裏に隠していた一万円札を取り出
して駅中の売店で朝飯のパンや牛乳を買ってその残
りで室蘭行きの電車の乗車券も買った。腫上がった
顔の半分にガーゼを当てて買ったマスクで外れない
ようにとめることも忘れなかった。そして背中のリ
ュックにチャータを入れて改札をうまく通り終えた
時一気に汗が吹き出てきた。
 下りの急行列車だったが朝にも関わらず客が少な
かった。オレは、余裕でボックス席の窓側に座った。
平行して走っている国道も車の数が少なかった。そ
うか。日曜日か。今日は。
どうりで病院の門の脇の守衛室がのんびり交代要員
もなく手薄だったのかと納得した。
オレは、座席の横でリュックからチャータの顔を出
して、売店で買ったパンをやった。
チャータは、貪るようにガツガツと平らげた。
オレは、五百ミリリットルパックの牛乳をがぶ飲み
してからチャータにも直接牛乳を飲ませた。
チャータは、鼻筋が黒く、ぐんぐん牛乳を飲んで波
打っているお腹を手で触ると思っていたより筋肉質
で背中から後ろ足にかけてのモモ肉が馬のように硬
くハリがあった。これなら鉄橋から飛び降りても平
気なわけだ。仔犬と言っても顔が幼いだけでイッパ
シの小さなオオカミだった。クリクリした黒目がう
れしそうにオレを見つめると可愛くてつい抱きしめ
たくなってしまう。
オレは、ほとんど回りに乗客がいないのを確認して
リュックからチャータを抱え出して、鼻と鼻をすり
つけた。チャータは、ぽっこりしたお腹をぶら下げ
ながら両脚をバタバタさせて舌を突き出してオレの
口の中まで押し込んで喜びを表していたが、急に牙
を剥いて唸り出した。
オレは、びっくりしてフェルトの座席に下ろしてや
ると、敵意をオレに向けているのではなく他にある
んだと言わんばかりにオレの手の甲を申し訳なさそ
うに舐めて自分からリュックの中に入った。
どうしたんだ?とチャータの頭を撫でつけていると
後ろの車両のドアから乗務員が入って来た。
チャータは、すばやくリュックの奥へ潜り込んだ。
オレは、慌ててリュックのチャックを閉めた。
切符を拝見します。
乗務員は、丁寧に言って室蘭行きの切符を確かめて
再びオレの右手の平に差し戻した。
左のギブスの手の下でチャータが動くのを心配して
息を呑んだが、乗務員は、ガーゼの当たった頬を哀
れむように見つめて、すぐに見ないふりをして制帽
のツバを一つまみして礼をすると次の車両へ移って
行った。
ううううぐわんー。
 チャータがリュックの中で吠えた。
まさかと思ったが、線路に寝かされていた時の昨日
のオレのことをもう一度思い出して少し鳥肌がたっ
た。もしかしてこいつは、予知能力があるのか。少
なくとも危険が差し迫って来るほんのチョイ前には、
その危機を察して行動する。
 オレは、震える手でリュックから顔を出したチャ
ータの首を撫でた。
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