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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー地球岬 18

2009年11月27日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
     18
オレは、しばらく疎らに車が駐車しているだだっ広い
アスファルトの空間を歩き回った。そして唯一かつて
C号棟の外水道のあった場所に並木で植えられていた
プラタナスが一本だけ駐車場の外れに残っていた。
それは海風に疲れてぽつんと辛そうに立っていた。
 チャータは白線だけで敷石のない広い駐車場をぐる
ぐると走り回ってその老プラタナスの根元におしっこ
をした。
オレは、パチンと両手を叩いてチャータを呼び寄せた。
チャータは思い切り走ってオレの胸に飛び込んで来た。
そしてペロペロ狂ったようにオレの顔を舐めた。
「糞は、ちゃんと取ってくれよ。」
ドテラを着た鼻の頭に黒子のある婆さんが松葉ボウキ
を持って駐車場の入り口から声をかけた。
オレは、そんなことたあ、わかってるよとイラっとき
たがその婆さんがマンガのキャラクターみたいに皺く
ちゃで滑稽だったのでグウっ堪えて静かに頷いた。
「あんた。誰か探しに来たんだろ。」
図星だった。この婆ばあは、顔に似合わず鋭いなあと
一瞬ひるんだら、こんな死にかけた婆さんがセントラ
ルパークに集まった全世界のラッパーの誰よりもクー
ルな顔でオレを睨んだ。
「このアパートはね。通称人探しアパートと言って、
一年に何人もかつて住んでいた人の消息を尋ねて来る
んでね・・・おまえもそんな顔で掲示板を見とったさ。
さっき。」
タダもんじゃねえ。この婆ばあ。
「もうここもわしらがじきくたばって取り壊しじゃい」
「あの、宮沢という人。C号棟にいたんですが・・知
ってます。」
オレは、できめだけ丁寧に聞いた。
婆さんは又クールに空を睨んだかと思ったら、またまた
ふうっとマンガの間抜けな表情にカメレオンのように
戻った。
「はい。宮沢さん。確かに一昨年までいたけど出て行っ
たよ。」
「そうっすか・・・・」
「製鉄所の圧延工場で火傷して働けんようなってC号棟
が壊される前に母恋へ引越して行った。」
「母恋?」
「ああ。妹さんがいるとか言うとった。」
チャータが何もない空に向かって急に吠え出した。
「イモウトサントコ、イッタンジャロ」
入れ歯が抜けそうで空気の漏れた発音で付け加えてしゃ
べった。
オレは一瞬婆さんが何を言っているのか日本語が理解で
きない状態に陥った。
何かこのクールマンガの婆さんが聞いたこともない外国
語でしゃべっている。
母恋。
妹ー。
「港の向こうにある地名じゃて。」
「地名?」
「母恋ってとこがあるべさ。」
「妹って・・・母さん?」
最後の母さんはきれいな発音にならなかった。
チャータは、オレのズボンの裾を咥えて、行こうとワンワ
ンと鳴きたてた。
「うるせい。犬だよ。やかましい。」
と婆さんは、松葉ホウキを振り回してチャータを追い立
てた。チャータは、婆さんに関わっても仕方ないとばか
りにホウキを軽々と避けてオレを早くこの崩れかかった
人探しアパートから出て行こうと表通りへ走り出た。
「宮沢さんは生きているかどうか・・酷い火傷だったか
ら。もう行っても妹さんのことにいないかもしれないよ」
「あの、母恋のどこかわかります?」
「さあ。そりゃわからんよ。」
とホウキを担いでA号棟のモルタル壁のハゲハゲの階段
口へ背中を向けて歩き出した。
オレは、チャータが先頭に走り出した後を追って港へ走
り出した。
母恋ー。
そこにもしかしたら母さんがいるかもしれない。
母さんは死んだと聞いていた。しかし伯父さんには妹は
母さんしかいない。
あの、クールマンガの婆さんがボケて勘違いで言ってい
るのか、それとも本当に母さんがひっそりと生きていた
のか。頭の中がぐるぐる木漏れ日のような想像の光の輪
が回って目が回りそうになった。
そしてオレは、坂道を転がるように足がもつれて前へ前
と急いだ。
前をしっかり見て足をすすめても頭の中はいつまでも止
め処ないひとつの言葉が洗濯機のドラムが回るようにく
るくる絶え間なく巡って離れない。
母恋。
チャータは、まるで競争しているようにうれしそうにぴ
ょんぴょんオレの行く手で跳ねた。
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CADOT~コショネ~シーちゃんのおやつ手帖116

2009年11月27日 | 味わい探訪
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