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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

小道をゆけば

2011年02月26日 | 写真コラム
冬の日差し
公園の小道
冷たい空気
そして
吐く息
本のページをめくるように
一日のはじまりを
めくる
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さすらいー森の王者23

2011年02月26日 | 投稿連載
森の王者  作者大隅 充
      23
 その夜名寄の飲み屋で純平は、客で来ていた営林
署の村上さんからも大きなオオカミと小さなオオカ
ミの話を聞いた。
 隣り町のポロヌプリの原生林に去年自衛隊のヘリ
コプターが事故で不時着した時捜索に入った消防隊
員と営林署の職員とが燃えるヘリコプターの周りに
集まっていた大きな野犬を見たとUFOに遭遇した
みたいな興奮した顔で話していた。そしてそれがエ
ゾオオカミではないかとみんなが言っているという。
エゾオオカミー。
 そういえばそんな話は、大昔子供のころに聞いた
ことがある。エゾオオカミの話をサロベツ原野の番
屋に住んでいた時、にしん漁でやって来た漁師から
聞いた。
 大昔開拓が入る前からこの北海道の大地に本州の
ニホンオオカミより一回り大きなオオカミがいた。
系統的にはシベリアのシンリンオオカミに近い。た
だそれこそ明治期に全滅したとされている。以来大
正、昭和、平成とその姿を見た者はいない。伝説の
エゾオオカミがこの北の大地で生きていた。それも
集団で家族を形成して。まったくの驚きだ。
 そうそのときの漁師は、まるで今見て来たような
口ぶりで言った。まだ小学生だった純平は、二日お
きしか帰って来ない父とのふたり暮らしだったので
その皺の深い漁師の話には夢中になった。
 もし絶滅しそこなってたった一匹だけ生き残った
痩せたオオカミがこのサロベツにいたら、それは自
分と同じくらい孤独な奴だと子供ながらに思ったも
のだった。
 北見農場の社長の言う通り三日後。純平はあのト
ウモロコシ畑の奥でついにそのエゾオオカミを見た。
 もう一日の積み込み作業が終わって畑の丘を国道
へ越えようとしたとき、丘の上のポプラ並木を三匹
のオオカミが歩いていた。
一瞬きつねかと思ったがその腰のくびれといい、大
きさといい明らかにオオカミだった。ただ違ってい
たのは、びっくりするぐらい大きなオオカミの間に
小さなオオカミがいたことだった。しかもそいつは
子供ではなく、飛びぬけて精悍で堂々としていた。
 純平は、トラックを停め、運転台から飛び出ると
ポプラ並木へそっと足を進めた。
大きなニ匹がじゃれて遊んでいるとその小さな黒毛
のオオカミがそのニ匹の鼻を噛んでたしなめた。す
るとニ匹は、シッポを丸めて大人しくなった。チビ
の黒毛は、夕日に胸毛を輝かせて林の方へ歩き出し
た。
 純平は、思わず惹きつけられるようにその三匹の
後を走って追いかけていた。それこそ自分もそのオ
オカミの一員に加えてほしいという思いで。そして
気が付いたら純平は大きな声で叫んでいた。
おーい。わおおおおおー。
 三匹のエゾオオカミは、丘の畝道を猛スピードで
駆けて行った。
おーい。うぉぉぉぉぉぉー。
 林の中へ三匹が駆けこむ時、最後のチビの黒毛の
王様がこちら振り向いた。そして純平の声に応えて、
美しい叫び声を轟かせた。それからじっと純平の目
を見つめてから林の中へ消えた。
きっとあれは王者だ。エゾオオカミのリーダーだ。
小さいけど立派で威厳と矜持をもち、何人にも頼ら
ず媚びず、きれいな佇まいで立っている新しい王者。
仲間を家族を守り正しい道へ導くリーダー。それが
あの黒毛だ。純平は、なぜか警察に捕まる前室蘭へ
行く途中で遇った仔犬のチャータを思い出していた。
似てないのにどこか似てる。
犬とオオカミの差こそあるが何か同じ匂いがした気
がした。純平は、訳もなく涙があふれて来た。それ
もきれいな涙が。
 白樺林が傾いた夕日に黒々と映えている。赤い夕
陽は木々の梢の中でキラリと輝いて無口になった。
そのときもう一度チビの、黒毛の、エゾオオカミの、
かつてコロと呼ばれた王者が林の向こうで叫び声を
あげた。
美しい旋律が大地に鳴り響いた。
     
               おわり
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