このブログを今年の1月末に更新してから8か月ぶりの記事である。この間、なんとなく記事を書く気がしなかった。その理由の一つは、勤め先の同僚にこのブログを読んだと言われたことである。公開しているので誰に読まれても全然構わないはずなのに、自分のことを良く知っている人に読んだと言われると、まるで自分の恥部を覗かれたような感じがしてやる気が萎んでしまった。ただし、それだけではない。
もっと大きな要因は、私が家畜感染症を専門とする獣医師でありながらもう10年近く家畜や家禽の感染症と接することができない立場にいるからである。長期期間入院してベットで過ごした方の、特に足の筋肉が細くなるのと同じで、心に期するものがあったとしても周りからの刺激がないと気持ちが萎えてしまうのである。それがなぜ復活したか。
実は、先週、大学時代の同級生の同窓会が催された。集まったメンバーは同級生の半分足らずの13名であったがかなり盛り上った。特に、加計学園の獣医学部新設については、“一人一説”で酒の肴として実に面白かった。動物病院を開業している者を除けばいずれも定年まで残り少なくなったが、それでも生涯現役を貫こうという連中ばかりで、彼らから大いに刺激を貰った。そんなことでまたブログに何か書きたくなった。我ながら実に単純なものである。
ところで、標題にあるマイコプラズマ(M)であるが、獣医学関係者であれば、マイコプラズマは生きた細胞に寄生しなくても、言いかえれば合成培地で増殖できる最小の微生物であうことをご存じであろう。大きく分類すると細菌に含まれるが、より厳密に言うと細菌とは異なる。ただ、分類学は面白くないのでこれ以上はパス。
何故、今回は牛のマイコプラズマ病かと言うと、先日読んだ牛のマイコプラズマ病の文献情報が私の認識を一変させたからである。実は、私が学生時代に研究室で格闘していたのが牛のマイコプラズマだった。当時のマイコプラズマの培養や検査は現在に比べてはるかに手間が掛かっており、特に培地の添加物は、市販品で僅かな予算で買えるものには不純物が多くて使えず、自前で作製しなければならなかった。そんなこんなで扱いが難しかった牛のマイコプラズマには愛着がある。ただし、その病原性は弱くて日和見感染菌の一つ、数ある牛の感染症の中ではマイナーな存在という立場であった。
ところが、現在、肉牛、乳牛の区別なくマイコプラズマ病が大きな問題になっている。その疾病は、子牛の肺炎、中耳炎、関節炎、乳牛の乳房炎で、幾つかある牛のマイコプラズマのうち、 マイコプラズマ・ボビス( M.bovis)の感染症の被害が大きい。他にも、肺炎ではマイコプラズマ・ディスパー(M. dispar)やマイコプラズマの1種であるウレアプラズマ・ディヴァーサム(Ureaplasma diversum)、乳房炎ではマイコプラズマ・ボビゲンニタリウム(M.bovigenitalium)やマイコプラズマ・カリフォニカム(M.californicum)も原因菌として上げられる。
上のマイコプラズマのうち、M.bovisは、私の学生時代にすでに肺炎や乳房炎から分離されたとの報告がなされており、その頃からM.bovisだけは他のマイコプラズマと違って僅かではあるが注目はされていた。しかし、ここ10~15年間の研究でM.bovis他の牛のマイコプラズマが肉牛農場や酪農場の生産性悪化に重要な役割をしていることが証明されてきた。さらに興味深いことは、本来マイコプラズマは細胞寄生細菌であり、呼吸器に感染したマイコプラズマは白血球のうちの単核細胞(リンパ球や単球)に感染して牛の全身の臓器に移行できるということである。なるほど、体外から完全に隔離された関節にもマイコプラズマが感染して病気を起こせるわけである。
以上、私が大学を卒業してから、肉牛農場や酪農場において牛のマイコプラズマ病は最大の悪役の一つになったことを書いた。大した病原性もなく世間から殆ど無視されたような牛のマイコプラズマに大変な思いをしながら取り組んでいた学生時代を思うと、牛のマイコプラズマが、“ある意味でメジャーになった”ことに何となく誇りを感じてしまう。
もっと大きな要因は、私が家畜感染症を専門とする獣医師でありながらもう10年近く家畜や家禽の感染症と接することができない立場にいるからである。長期期間入院してベットで過ごした方の、特に足の筋肉が細くなるのと同じで、心に期するものがあったとしても周りからの刺激がないと気持ちが萎えてしまうのである。それがなぜ復活したか。
実は、先週、大学時代の同級生の同窓会が催された。集まったメンバーは同級生の半分足らずの13名であったがかなり盛り上った。特に、加計学園の獣医学部新設については、“一人一説”で酒の肴として実に面白かった。動物病院を開業している者を除けばいずれも定年まで残り少なくなったが、それでも生涯現役を貫こうという連中ばかりで、彼らから大いに刺激を貰った。そんなことでまたブログに何か書きたくなった。我ながら実に単純なものである。
ところで、標題にあるマイコプラズマ(M)であるが、獣医学関係者であれば、マイコプラズマは生きた細胞に寄生しなくても、言いかえれば合成培地で増殖できる最小の微生物であうことをご存じであろう。大きく分類すると細菌に含まれるが、より厳密に言うと細菌とは異なる。ただ、分類学は面白くないのでこれ以上はパス。
何故、今回は牛のマイコプラズマ病かと言うと、先日読んだ牛のマイコプラズマ病の文献情報が私の認識を一変させたからである。実は、私が学生時代に研究室で格闘していたのが牛のマイコプラズマだった。当時のマイコプラズマの培養や検査は現在に比べてはるかに手間が掛かっており、特に培地の添加物は、市販品で僅かな予算で買えるものには不純物が多くて使えず、自前で作製しなければならなかった。そんなこんなで扱いが難しかった牛のマイコプラズマには愛着がある。ただし、その病原性は弱くて日和見感染菌の一つ、数ある牛の感染症の中ではマイナーな存在という立場であった。
ところが、現在、肉牛、乳牛の区別なくマイコプラズマ病が大きな問題になっている。その疾病は、子牛の肺炎、中耳炎、関節炎、乳牛の乳房炎で、幾つかある牛のマイコプラズマのうち、 マイコプラズマ・ボビス( M.bovis)の感染症の被害が大きい。他にも、肺炎ではマイコプラズマ・ディスパー(M. dispar)やマイコプラズマの1種であるウレアプラズマ・ディヴァーサム(Ureaplasma diversum)、乳房炎ではマイコプラズマ・ボビゲンニタリウム(M.bovigenitalium)やマイコプラズマ・カリフォニカム(M.californicum)も原因菌として上げられる。
上のマイコプラズマのうち、M.bovisは、私の学生時代にすでに肺炎や乳房炎から分離されたとの報告がなされており、その頃からM.bovisだけは他のマイコプラズマと違って僅かではあるが注目はされていた。しかし、ここ10~15年間の研究でM.bovis他の牛のマイコプラズマが肉牛農場や酪農場の生産性悪化に重要な役割をしていることが証明されてきた。さらに興味深いことは、本来マイコプラズマは細胞寄生細菌であり、呼吸器に感染したマイコプラズマは白血球のうちの単核細胞(リンパ球や単球)に感染して牛の全身の臓器に移行できるということである。なるほど、体外から完全に隔離された関節にもマイコプラズマが感染して病気を起こせるわけである。
以上、私が大学を卒業してから、肉牛農場や酪農場において牛のマイコプラズマ病は最大の悪役の一つになったことを書いた。大した病原性もなく世間から殆ど無視されたような牛のマイコプラズマに大変な思いをしながら取り組んでいた学生時代を思うと、牛のマイコプラズマが、“ある意味でメジャーになった”ことに何となく誇りを感じてしまう。
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