ACM初体験~後編

『それではお客様のお名前・住所・電話番号をお教え下さい』

そう来たか。
該当データが無ければいっそもう手動でデータを入力してしまえ、という最終手段に出ようというのか。

…よしわかった。いいだろう。
君のやりたいようにやったらいいよ、おねいさん。
『何故該当データが無かったのかを考えてみる』よりも、
『自動入力されるはずの空欄を手動で強引に埋めてしまう』という
思い切った方法を選んだ君に乾杯。
もうこうなったら、どこまでも着いて行きますよ。
言いましょ、言いましょ。住所でも電話番号でも何でも。

…と、ちょっと面倒臭いなぁとは思いつつも、おねいさんに問われるがまま、まず住所を答えると、画面上に一文字一文字住所が入力されていきます。

う~む、やはり入力が遅すぎる。
でもおねいさんの顔が一生懸命だから、まぁ許しちゃう。
あくまで笑顔を崩さないよう努めながらも、眉間にちょっと皺が寄っちゃったりなんかして、一生懸命入力しとる顔がたまらんのぉ。
しかしあれだな。リアルタイムで、しかも一文字一文字タイプして変換して決定される模様まで実況されちゃうのは、ちと笑えるな。

あっ。高円寺は『公園時』じゃないっちゅぅのねん。
なんで『こうえん』で先に変換しちゃうの?
あっ。消えた。…おぉぉぅ打ち直しとる。
『こうえん』待て!まだそこで変換しちゃいかーん!
『こうえんじ』よし、そこだ!そこで変換だ!

…よし。直ったよ。ふぅ。焦ったじゃないか。

『次はお電話番号をお願いします』
『はい。03の××××の△△△△です』
『あ?ち…ちょっとお待ち下さい』

…ん?おねいさんの身に何が起きたんじゃ?
と画面を見てみると、電話番号入力欄に

『03-××××-△△△△』

とちゃんと入力しようとしてるらしいのだが、途中で数字が消えてしまう。何度もやり直してるらしいが、それでも数字は途中で消えてしまう。

子画面の中のおねいさんのデコが、再び輝き始めている。

…お…おねいさーん!
待てーい!落ち着け!
画面をよく見て!
電話番号入力欄は3つあるんだぞ!
っちゅうことは、『市外局番』『市内局番』『下4桁』に分けて入力する筈だぞ?
な…なぜに君は無理矢理1つのブロックに詰め込もうとしているのだ?…しかもハイフンまで使って。

『…あっ!』

という呟きと共にやっと真相に気付いたおねいさんは、隣のブロックに移動して数字を入力し始めた。

…ふぅ。よかったよかった。自分で気付いてくれたよ。
顧客から指摘されたんじゃ、おねいさんのプライドずたずただもんなぁ。
よかったよかった。まぁこうやって一つ一つ仕事覚えていくんじゃろ。
それにしても、社員教育がなってない銀行だなぁ。
これじゃぁ、おねいさんが可哀想じゃないか。
操作マニュアルとかないのかなぁ?
こんな行き当たりばったりで大丈夫なのかしらん?
分からない事だらけで、このおねいさん、毎日辛い思いをしてるんじゃないだろうか?

『優子ぉ~。今日もミスしてお客様に怒られちゃったのよぉ~』

とトイレで同僚の胸でさめざめ泣いてたりしないだろうか。

…などというわしの心配をよそに
『それでは再度検索しますのでしばらくお待ち下さい』
と言い残し、またおねいさんの子画面がフッと消える。

…そうか。今わしが言った住所や氏名なんかを元に、逆に顧客番号を検索しておるのだな。
そんな回りくどいやり方するより、顧客番号をわしに聞き直した方が手っ取り早くなかったかい?
という思いはそっと胸にしまい、ひたすらおねいさんの再登場を待ちます。
ひたすら。ただひたすら…。

と、おねいさんが画面にフッと現れました。
激しくホッとした表情です。激しく嬉しそうです。
そして心なしか、目が誇らしげです。

『お客様のデータが見つかりましたぁぁぁぁ♪』

と、受話スピーカーが割れるほどの大声で叫ぶ愛しい人よ。
あぁ…よくやった。おねいさん、よくやったねえ。
頑張ったね。さっきは泣きたい気分だったでしょう。
こっちも泣きたかったけどね。
これでひと皮剥けたねぇ、おねいさん。
この数々の試練を乗り越えたんだもの、きっと次からはサクサク操作できるねえ。
次のお客様も、わしみたいにおねいさんの顔が好みか、恐ろしく気の長い人かどっちかだといいねえ。うんうん。

その後は結構スムーズにやり取りが進んで、なんとか無事に取引終了。
途中、『金利区分』と入力すべき箇所が何度やっても『禁裏九分』になってしまい、どうやったらそんな変換になるのか小一時間問い詰めたい衝動に襲われましたが、なんとか無事終了。

ほひぃ…と全精力を使い果たした脱力感で個室ブースを出ると、そこには順番待ちの長蛇の列が。
…しかも。出て来たわしを、全員が非難轟々の眼差しで睨んでいるではないか。

ち…違います違うんです!
時間がかかったのは、
わ、わしのせいじゃないんですぅぅ(泣)
うぁぁそんなに睨まないでぇぇぇ(泣)


などと小心者のわしが言えるはずもなく、ひたすら長蛇の列に向かって
『すびばせん、すびばせん』とぺこぺこ謝りながら小走りでその場を去ったわしだったのでした(泣)

長文になりましたが、『ACM初体験の巻』おわり(泣)
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