Let It Be
不覚にも涙がこぼれそうになった。
夕暮れ時、車が一台ほどしか通れない路地。除雪がされず、前日まで吹雪いた雪で地面はがたがた。息子の言葉を借りれば、ディズニーランドのアトラクションのような揺れ。歩行者は一列になって歩かなければならない上、更に道の悪さにハンドルをとられた。
とそこに見つけた娘の友達Aちゃんとお母さん。彼女たちはこの不況の煽りをもろに受け、引越しを余儀なくされた。転校を避けるため、隣の学区へ移り保護者の送迎つきで登下校していた。足を滑らせれば、車のタイヤの下敷きになりかねないほど狭く、条件の悪い道。せっせと二人で歩いていた。思わず私は手を振った。お母さんが見つけて手を振り返してくれた。
その姿がバックミラーに小さく写っていくにつれ、彼女たちの懸命さと自分の置かれている今が重なってどっかと構えていたはずの前向き思考がもろくも崩れていくのがわかった。何のことはない、BGMが良かったのだ。偶然車のラジオから聞こえてきたビートルズの Let It Be。懐かしいはずなのに、今の自分への励ましに聞こえてきた。気持ちという器がいっぱいでこれ以上何かあればこぼれるしかない、そんな精神状態。そこをツンツンとつつかれてしまったのだから、あふれるしかない。
中学生の時だった。(うわつ、古っ!30年も前のことになってしまう。)ビートルズが特別好きだったわけでもなかったが何となく買ったカセットテープ。聞き覚えのある曲が沢山詰まっていた。英語では何を歌っているのかわからないが、添付の歌詞と訳詞を見てわかった気になっていた。訳詞には「なすがままに」とあったことを思い出す。子供といえども悩みは一杯。そのときに聞いたこの曲が励みになったかどうかは記憶にないが、繰り返し聞いたことだけは覚えている。それが今、また甦ってきた。
「現実を受け入れて、頑張るしかない。娘を大きくしてくれるのを手伝ってくれてありがとう。」とAちゃんのお母さんが引越しの挨拶に来た。その言葉に先に涙したのは私の方だった。私は3回連続の退場(リストラ)を言い渡され、いい加減へこんでいた。そこへわが身に降りかかった惨事に向き合っているそんな彼女が私を励ました。
彼女たちが足を取られながら前を向いて歩いている。私はがたがたと揺れる雪道を進むためにハンドルを握っている。日は沈もうとしている。そして流れるLet It Be。
その時思った。あるがままを受け入れ、進めばいい。今まで苦しくてもどうにかなってきた。今回だってなるようなる、と。
時間というものはありがたいもので、すっかり今の私は変貌した。
間違いなくやってくる春、そんな気配を感じさせる柔らかな日差し、私はそれをいっぱいに浴び、昼寝が日課となった。今しか味わえない与えられた至福のときとばかりに。
『果報は寝て待て』というではないか。
追伸:上記のお宅は現在平穏を取り戻した。嵐は時が来れば止むものね。
不覚にも涙がこぼれそうになった。
夕暮れ時、車が一台ほどしか通れない路地。除雪がされず、前日まで吹雪いた雪で地面はがたがた。息子の言葉を借りれば、ディズニーランドのアトラクションのような揺れ。歩行者は一列になって歩かなければならない上、更に道の悪さにハンドルをとられた。
とそこに見つけた娘の友達Aちゃんとお母さん。彼女たちはこの不況の煽りをもろに受け、引越しを余儀なくされた。転校を避けるため、隣の学区へ移り保護者の送迎つきで登下校していた。足を滑らせれば、車のタイヤの下敷きになりかねないほど狭く、条件の悪い道。せっせと二人で歩いていた。思わず私は手を振った。お母さんが見つけて手を振り返してくれた。
その姿がバックミラーに小さく写っていくにつれ、彼女たちの懸命さと自分の置かれている今が重なってどっかと構えていたはずの前向き思考がもろくも崩れていくのがわかった。何のことはない、BGMが良かったのだ。偶然車のラジオから聞こえてきたビートルズの Let It Be。懐かしいはずなのに、今の自分への励ましに聞こえてきた。気持ちという器がいっぱいでこれ以上何かあればこぼれるしかない、そんな精神状態。そこをツンツンとつつかれてしまったのだから、あふれるしかない。
中学生の時だった。(うわつ、古っ!30年も前のことになってしまう。)ビートルズが特別好きだったわけでもなかったが何となく買ったカセットテープ。聞き覚えのある曲が沢山詰まっていた。英語では何を歌っているのかわからないが、添付の歌詞と訳詞を見てわかった気になっていた。訳詞には「なすがままに」とあったことを思い出す。子供といえども悩みは一杯。そのときに聞いたこの曲が励みになったかどうかは記憶にないが、繰り返し聞いたことだけは覚えている。それが今、また甦ってきた。
「現実を受け入れて、頑張るしかない。娘を大きくしてくれるのを手伝ってくれてありがとう。」とAちゃんのお母さんが引越しの挨拶に来た。その言葉に先に涙したのは私の方だった。私は3回連続の退場(リストラ)を言い渡され、いい加減へこんでいた。そこへわが身に降りかかった惨事に向き合っているそんな彼女が私を励ました。
彼女たちが足を取られながら前を向いて歩いている。私はがたがたと揺れる雪道を進むためにハンドルを握っている。日は沈もうとしている。そして流れるLet It Be。
その時思った。あるがままを受け入れ、進めばいい。今まで苦しくてもどうにかなってきた。今回だってなるようなる、と。
時間というものはありがたいもので、すっかり今の私は変貌した。
間違いなくやってくる春、そんな気配を感じさせる柔らかな日差し、私はそれをいっぱいに浴び、昼寝が日課となった。今しか味わえない与えられた至福のときとばかりに。
『果報は寝て待て』というではないか。
追伸:上記のお宅は現在平穏を取り戻した。嵐は時が来れば止むものね。