なな色メール 

シュタイナーの勉強会の仲間と始めたニュースレター。ブログでもその一部をご紹介していきたいと思います。

10年後の日本は?『自分を守る経済学』から

2011年02月01日 | S.S.
12月末に駅前のジュンク堂書店に行きました。お目当ての本は、ジャレド・ダイアモンド著 『銃・病原菌・鉄』。朝日新聞の調査によると、ここ10年で一番良いと評価された本です(新聞記事参照)。目につく場所に置いてあったその本は、上下2冊でかつ分厚く、とても購入できるものではありません。後で図書館で借りることにして、代わりに新書を1冊買いました。

 『自分を守る経済学』徳川家広著 ちくま書房の新書です。帯には、「徳川宗家19代目が説くサバイバル戦略!経済破綻の日はすぐそこに」とあります。読んでみると、将来に対する不安をあおる本ではなく、不安を打ち消す為にも経済・社会について学び、将来に備えて心の準備をしておこうという気持ちになるものでした。この本で学んだことを少しご紹介したいと思います。

 始めの部分では、経済の仕組みを一般向けにわかりやすく説明してくれています。経済関連の用語がたくさん出てきますが、現在の社会の動向を知るために知っておくと良い知識(何故インフレになるのか、金融引き締めとは何かなど)を一度まとめて勉強するのに最適だと思いました。

続いて、経済や金融の観点から見たギリシャ・ローマ時代に遡る世界の歴史について、および日本についても、関が原時代から現代に至るまでの歴史の考察が行われています。お金や労働などを軸に見ているのが面白く、なるほどなるほどと、どんどん読めます。著者の徳川氏は俯瞰的な見方が得意なようで、従来からの歴史認識を改めさせてくれるような新しい見方を示してくれました。


 本の後半で、彼は現代の日本、世界について分析をしているのですが、なかでも私が気に留めたのは以下の2点でした。

◎エネルギーと人々の生活の関係
 徳川氏は、エネルギーと経済の関係について特に着目しています。石炭に続いて登場した石油のエネルギーとしての利用のしやすさが、20世紀に入ってからのアメリカの急速な経済成長を可能にしたと言います。衣食住足りてはじめて人々は幸福になりますが、国民の生活を豊かにするべくさまざまなモノをすごい勢いで生産し、飛躍的な経済成長を遂げたアメリカは、世界の冠たる超大国(政治、軍事、経済ともに)になっていったのです。世界中の人々がアメリカの豊かな生活に憧れ、アメリカは人類史上初めて国民の大多数が豊かになる国を築きました(1950年頃)。

日本もアメリカをモデルとしてモノ作りに励み、1980年頃国民全体が豊かな暮らしを得たと実感できるようになったと、徳川氏は述べています(なな色シスターズの皆さんも実感できるでしょう)。その豊かな暮らしを今、中国やインドを初めとして、アジアの国々が獲得しようと頑張っているわけですね。

 しかし、この豊かさは大量のエネルギーに依存していることを、もっと実感すべきだと徳川氏は示唆します。具体的には、石油。大量の石油を消費して達成される先進国の豊かな暮らしです。しかし、石油は必ず枯渇します。代替エネルギー(風力、原子力など)は、開発コストや管理・維持コストを考えると、石油に比べずっと割高。そのため著者は、近い将来(10年後と言っていましたが)、エネルギー価格が高騰し、世界の人々が今のように自由にガスや電気を使えなくなる日が来ると予測しています。

 彼の主張は、当たり前のことなのに、私も含めて多くの人が、見ようとしていない現実だと思いました。中国やインドがこの勢いで経済成長しているのですから、今のままでいられるわけがない。エネルギーだって、足りなくなるのはわかっています。でも、徳川氏が言うほど早くやってくるなんて。10年後は、正直言って早すぎる!これからもエネルギーの動向をしっかりウォッチして、来るべき時に備えて、心の準備だけはしておかないと、という気になりました。

◎先進国病
 徳川氏は、平成に入ってからの日本の停滞状態を『先進国病』と名づけ、世界中のどこの先進国でも見られる現象であると述べています。先進国病って一体何でしょうか?

①低成長・・・早い話が、衣食住が足りるためのものは全て作ってしまったと言うことです。これから作って売れるものは、技術革新によりさらに豊かになることを極めるモノか、気まぐれな消費者のニーズに合ったものでしかない。大量生産の必要はないため、成長率は低くなる。

②国際化・・・安い賃金を求め、また需要を求めて、企業は海外に進出し、国内でモノを生産することが減る。国際化は日本国内の産業の空洞化につながる。

③情報化・・・人々の労働がコンピューターによって代替される。

この3つの問題ゆえに、国内では就職先が減少。対策のために、労働の規制緩和が行われ、いわゆる派遣労働者の問題が起きました。アメリカでも、日本でも、政治家に雇用の増大が求められていますが、そうそう打つ手はないことがうかがえますね。

④少子高齢化・・・いわずと知れた日本の社会問題です。世界の最先端を行く日本の少子高齢化社会の行く末を見ようと、ドイツから調査チームが来ているそうです。

⑤子どもの学力低下・・・先進国ほど学力は落ちるのだそうです。理由は、商品として提供される刺激的な娯楽が多すぎるため(ゲーム、テレビなど)。学校の勉強は、退屈で、単調そのもので、子ども達には、その退屈さを我慢してまでしなければいけない勉強へのモチベーションがないとの分析でした(就職難で、高学歴が将来の幸福を保障しないことも誘因)。また、携帯電話の普及により、仲間内以外の世界に関心が向かないことも学力低下の原因になっているそうです。

子どもの数が減り、取り巻く多くの大人たちに大事にされ過ぎているというのが、日本の子どもの実態なのでしょう。先進国ほど学力が落ちるという話も、就学前や小学生の子ども達と接している私としては、妙に納得できる気がしました。1才過ぎれば、アンパンマン。4才過ぎれば、男の子は戦隊もの、女の子はテレビのキャラクターに夢中になり、その後はゲームや携帯電話へ。昔から受け継がれてきた絵本のお話は、簡単には受け入れてもらえません。幼い時から刺激的な映像や音楽に慣れてしまった脳には、素朴な絵や語りは色あせて見えるのでしょう。

最後に徳川氏は、今後10年の間に日本がどうなるのかを大胆に予測しています。低成長によって収入が落ち込む一方で、医療保険と年金支出、国債の利子払いと償還のために政府の支出は増加し続け、日本の財政は破綻すると言います。日本は、過去、明治維新時と、第二次大戦後に財政破綻しています。財政破綻については、戦後の日本を想像すればイメージがわくかも知れません。
10年後に日本の財政が破綻するかどうかはわかりませんが、10年後まで今の豊かな生活を維持するのは、難しいでしょう。将来に不安を抱えながら暮らす、私達の心構えって何でしょうか?

今の豊かな日本の暮らしは、たまたまの歴史の巡り会わせで経験できたこととして、その豊かさに感謝しながら暮らすというのはどうでしょうか。失っても当然のモノの豊かさとして。そして、日々の暮らしの中で、その時その時に出会える小さな幸せを大切にしていけたら、素敵だなと思います。

社会学者見田宗介氏が『現代社会の理論-情報化・消費化社会の現在と未来』岩波書店の中で語っている「語られず、意識されるということさえなくても、ただ友だちといっしょに笑うこと、好きな異性といっしょにいること、子供たちの顔を見ること、朝の大気の中を歩くこと、陽光や風に身体をさらすこと・・・」というフレーズのように、何気ない日常のひとコマだけれども、心が動かされるきらきらした瞬間が、私達の生きる糧なんだなと思って暮らしていけたらいいですね。


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3 コメント

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これからのエネルギー (ひょうどうともこ(ドルフィンスマイル))
2011-09-15 22:45:02
エネルギー問題は思わぬ出来事で注目の的となっています。原発、推進派と、反対派に別れるのでなく、皆で考えて行きたいですね。

薪ストーブや、電気自動車、メタンガス燃料のバス、レンタル自転車、路線バス、憧れの世界です。スイスや北欧を見本にしたエネルギー源の見直しをしなくては、ですね。
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感想です。 (くどうせいこ)
2011-09-19 23:10:15
徳川家広さんのメッセージが現実のものとなり驚いています。
来るべきときがこんなに早く来るなんて、今を生きていることの重大さを感じています。
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Unknown (点滴)
2011-10-24 21:38:54
人間は、不可能を可能にする生き物。
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