マハーバーラタの英雄ユディシュティラ王は
「世の中でいちばん不思議なことは何でしょう」と問われて、
「自分のまわりにこれほど死を見つづけているにも関わらず、人々が
自分自身の不死を信じていることだ」と答えた。
― 正木高志 「木を植えましょう」より
メキシコシティの中心街を歩いている時だった。
けっしてきれいとは言えない道には屋台の雑貨屋、本屋などが並んでいた。
その屋台にはその日の新聞が吊されていたが、新聞の表紙にはゾッと
するような写真が載っていた。
その新聞に大きく取り上げられた写真は殺害された首の無い男の死体の写真だった。
僕にはそこに死が写っていたように思えた。
一方、日本では殺人事件が起きても新聞に殺害された死体が写ることが無い。
僕は死体の写真を載せることにこだわっているわけではなくて、淡々と言葉を並べた
だけで殺人事件を伝える方法にリアルさがない。
そこには死が見えないのだ。
死を見せないことで、永遠を見せている。