当事務所では、構造躯体は集成材と接合金物を使用した在来工法としています。
材料の断面欠損が少ない等、設計上のメリットがありますが、最大のメリットは現場での施工性です。
在来工法は、羽子板ボルトやホールダウン金物で全ての継ぎ手、仕口を補強しなければいけません。(同じ補強ではありません。構造計算を行い、各部分に見合った補強を行います)
1現場に数百か所あるはずですが、柱や梁を釘で留めるだけではだめなんです。この補強金物を取り付ける事で、柱が土台から抜ける事を防いだり、梁が筋かいや柱に突き上げられるのを防ぐのです。
ところが、接合金物を使用すると、接合金物が補強金物を兼ねているので、通常の建て方工事を行えば、補強工事も同時に終える事が出来るんです。
また、接合金物の場合、ほとんどの金物が工場で取り付けられるので、誰が組み立てても施工精度に差が出にくいのも特徴です。
一方、通常の在来工法における補強金物工事の場合、精密機械並みの精度が現場で求められるんです。
この図は、筋かいを?印の様に組んだ時に、ホールダウン金物をどの位置に入れるかを描いたものです。
ちょっと読みにくいですが、赤字の箇所に注目して下さい。左の柱に取り付けるホールダウン金物は外部側に5mmずれた位置にホールダウン用のアンカーボルトを取り付けて、右の柱に取り付けるホールダウン金物は室内側に5mmずれた位置にホールダウン用のアンカーボルトを取り付けなければいけません。
基礎工事の時にアンカーボルトを土台の芯に埋めてしまうと、建て方の時にホールダウン金物が筋かいに当たってしまって取り付ける事が出来なくなります。アンカーボルトは、コンクリートに埋め込んでしまいますから、間違いに気が付いた時にはもう手遅れです。
筋かいを?印の様に入れる事なんてよくあることなのに、こっちは、こっちにずらして、あっちはあっちにずらしてなんて、1つ1つ注意しながら設計しないといけないんです。
事実、その作業を怠るとわざわざ筋かいの一部を欠きとって、補強金物を取り付けると言う本末転倒な現場が出てくるんです。(*私の現場ではありません。とある相談を受けた方の現場です)
補強工事じゃないですね。
補弱工事です。お金と手間を掛けて建物を弱くするって、どういう事なんでしょう。
少なくともこの段階にたどり着くまでには、設計者が基礎伏せ図にアンカーボルトの位置を作図する。基礎工事前に工事管理者が職人さんに指示を出す。アンカーボルト設置時に工事監理者が現場で施工状況を確認する。と言った3つの確認作業があったはずですが、その3つ全てがスルーされた結果です。
そして、建て方工事が終わった今もスルーされたままです。
(スルーと表現しました。これらの作業をするとコストが上がるばっかりだから、見ないふりしてスルーしているという意味も含んでいます)
まぁ、ある意味設計なんて、空調の効いた部屋でパソコンに向かって数値を入力するだけなので、計算さえ注意すれば問題ない話ですが、現場の職人さんは猛暑でも、雨の日も風の日も現場で5mmの間違いも許されない精度が求められる訳です。
それが基礎工事だけで数十か所もあって、建て方時には柱や梁にボルト穴をあけて、ボルトを通して、ナットを締めてなんて作業が数百か所も出てくるんです。
とてつもなく気が遠くなる作業です。
ですから、気が遠くなりたくないのと、施工費を上げない為に補強工事をきちんと行なわないケースもでてきちゃうんです。
実際、きちんと図面に描いて現場で指示を出すと「なんで、こんなことしなきゃならないんだ」と、基礎屋さんや大工さんから言われた(むしろ怒られた)事もあります。
大工さんが言うのも一理あって、そもそも在来工法はその名の通り「在来」で、建築基準法や構造計算が確立される前から存在していた工法です。
実験や計算で確認された必要な強度を、元々あった工法に後から付け足したので、施工方法をほとんど無視して机上の話でデコレーションされたのが現代の在来工法なんです。
(むしろ昔のままの技術が受け継がれた工法は、今では伝統工法と呼ばれていますね。)
だから、机上の話でなく、現場の施工性に合わせた工法が接合金物による工法だと思うんです。
先ほど、精密機械並みの精度が現場で求められると書きましたが、そんな精度を求める設計はほとんど設計ミスです。
ある程度の許容範囲を作っても問題ないようにしたり、工事を簡略化する工夫等、施工性を上げる設計が現場では必要とされています。
単に材料費を下げる事がローコストの全てではありません。
現場での施工性を上げる事もローコストに繋がるんです。
ましてや補強工事を行わない手抜き工事は、コストダウンとは言いません。
見積もりは総額だけで比較しないでください。そして、見積もりは材料費だけではありません。工事費、設計費、管理費も含まれています。
しかし、お客様ではその比較は難しいかもしれません。施工店と別な立場にある設計事務所が見積もりをチェック出来るのも設計と施工が分離されたメリットの一つです。
上記の様に、現在進行中の現場が心配になってきた方からの相談も受けています。一時の心配を第3者が見る事で住んでからの数十年を安心する事が出来ますので、お気軽にご連絡ください。
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