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時雨より

2022年06月08日 | 俳句

ふくみ笑ひ                    

 

トルソーの大胸筋や風光る 

朧夜を蹴り上げ踊るタンゴかな

花曇身の上話とめどなく

阿部定のふくみ笑ひや心太

夏の蝶水の匂ひのただ中に

蚊遣火の向かふ三軒一斉に

ステテコに黒革靴で回覧板

秋の蚊や往生際に妻を刺す

裏返すジャズのレコード秋の風

頬杖の石の菩薩や秋の声

言の葉の満つる白露のインク壷

よろめきと不倫のあはひ憂国忌

漱石忌湯船の妻はオフィーリア

雪原を踏むバルザックバルザック

冬椿心字の池に迷ひゐる

(「俳句大学」2号/2016年掲載)

 

福耳

                     

江戸文字のはためいてをり寒四郎

咆哮の舌に溶けゆく六花

戦ふな抱き合へそこに置炬燵

春立ちぬシュークリームをはんぶんこ

在りし日へあとずさりせり春嵐

料峭の夜はG線上にをり

口笛は夜にひよろろと啄木忌

福耳の女のつがふ月朧

夏蝶を追へばニライカナイヘと

戦ありし夏野を鳥はピースピース

風死すや二重らせんの交はらず

白桃の傷つかぬうち手紙書く

西瓜切るための包丁研がれをり

もういいかい風の花野に隠れたる

秋愁のティッシュペーパーへなへなと

(「俳句大学」3号/2017年掲載)

 

霧深し

 

墓守と名に負ふ枝垂桜かな

花の雨ひとつずらしてミサの席

いま生きてゐれば二十歳か鳥帰る

字幕長きゴダール映画亀鳴けり

すめろぎのろくよん分けや聖五月

堅魚木を腹光らせて夏燕

榕樹の月の重さや夏岬  ※榕樹=ガジュマル

鳳梨の熟れて島唄爪弾けり  ※鳳梨=あななす 

目打ちまでうの字うの字の鰻かな

ぐわんぐわんと非常階段雁渡る

秋天へ飛び出してゆく握り飯

霧深し電信柱ぬうと立ち

常念岳の尾根より晴れて根深汁

着膨れて昭和の夜を恋しがり

薬喰して月光を浴びにゆく

(「俳句大学」4号/2020年掲載)

 

 

時雨より

 

時雨より棒のやうなるをとこ来る

温燗といへば熱燗置かれをり

落ちかかる月の遠さよ薄氷  

青狼の声か木霊か冴返る

花の雨ラヂオに雨のやうな音

深呼吸みな青になる聖五月

ががんぼやびんずるさまの膝撫でて

キュクロプスの眼球落ちて昼寝覚

雛罌粟酒場にルドンの眼球かな  ※雛罌粟=アマポーラ

群衆の次第に解けて送舟

野分来て電信柱といふ孤独

磨かれて林檎一つの影もてり  

鶏頭花微熱の残る硝子窓

無花果を割る腑分するやうに割る

はららごを抜かれし腹の赤くあり

(「俳句大学」5号/2020年掲載)

 

裏声のアリア

      

はやぶさの棲まう森へと青田波

神といふ文字を紙魚の喰ひ散らし

蛍狩デウスを祀る村と聞く

金盥尻から沈む蕃茄かな

おいしいつくだにおいしいと蝉鳴けり

脱衣婆が胸をはだけて神の留守     

マスクして姿勢正しく泣いてをり 

大蒜を叩きつぶして虎落笛   

裏声のアリア駆けゆく冬銀河

生憎と妻は留守です竃猫  

転生の世界はからつぽ憂国忌 

寄鍋の進化論めく大家族  

凍月の魚吐く泥のあぶくかな  

花街のいしぶみ牡嵩かな

ピアニスト死す二ン月の空真青

(「俳句大学」6号/2021年掲載)


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