砂漠の民
咲き急ぐ桜を笑ふ鳩時計
春帽子投ぐ名画座の空席へ
島影の百重なしたる卯波かな
「民族の祭典」冷房効きすぎる
桑の実やくに境まで橋二本
手に馴染む石を拾うて夏の川
まぐはひも人の手を借る蚕蛾かな
橋裏を仰ぐ白雨の過ぐるま
にんげんの声に驚く山の秋
仏具屋の夜寒を金のほとけさま
月天心裸身を反らすボレロかな
すめろぎはそこに御座すや浮寝鳥
月蝕はラルゴのやうに神の留守
憂国忌さくら餡ぱんはんぶんこ
青纏ふ砂漠の民や寒昴
(「俳句大学」7号 2022年掲載)
青き踏む
春帽子祈りの時は胸にあて
青き踏む風にいちまい鳩の羽
おろしやの火酒割りたる雪解水
あしあとは裏の森より木の根明く
蹼に淡き血の脈水温む ※蹼:みづかき
コンセントに生かされてゐる熱帯魚
片影を教会の影突き出して
ひぐらしや露人ミハエル眠る墓地
琅玕の闇のはずれを秋灯
昆虫の貌してむくろ法師蟬
御射鹿池の深き縹(はなだ)や緋衣草 ※縹:はなだ
いとど鳴く切腹最中腹いつぱい
二度聞いてまた聞き返す夜長かな
不器用な男とあたる焚火かな
(俳句大学8号掲載 2023年3月)
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