ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

超混雑「オルセー美術館展」よりきっと楽しい「マン・レイ展」

2010年08月09日 | 絵画
 六本木の新国立美術館で開催されている「マン・レイ展 知られざる創作の秘密」を観てきた。夏休みの日曜日、同じ場所で「オルセー美術館展」も開催されていて、こちらは入場するのに45分~1時間待ちという状況。印象派好き日本人の長蛇の列を横目に見ながら、「マン・レイ展」の方は楽々入場、余裕で鑑賞できることの幸福感を味わったのだった。

 アンディ・ウォーホルがシルクスクリーンで著名人のポートレートを制作したとき、マン・レイのポートレート写真のことが頭にあったのではないだろうか。二人のアーチストの成功のきっかけはポートレートであったが、マン・レイは当時の先端技術である写真、しかもわれわれが、ついこの間まで写真プリントとして使っていたゼラチン・シルバー・プリント、いわゆる銀塩写真で制作していたという点で、先端技術とアートを融合させたモダンアートの先駆者なのだ。そもそも、絵画作品の記録のため写真を撮っていたのだから、写真で売れるようになっても本人は、あくまでも絵画がアートで、写真は生活の糧と思っていたらしい。1920年代のパリ、当時、カフェにたむろしていた数多の芸術家と接し、そのポートレートを撮るうちに、不本意かどうか分からないが、あれよあれよと第一線のカメラマンとして賞揚されてしまった。だが、生活の糧としての写真ではなく、偶然できたレイヨグラフなど新たな技術で絵画としての写真を追求し始める。マン・レイの加工写真は、写真のリアリズムを追求する人たちからは批判も受けただろうが、むしろ、今日の画像処理につながる写真の新たな可能性を開いた。結局、そして実際、マン・レイの作品は絵画より写真の方がはるかに魅力的だし、自身その技術の開発にも貪欲だった。

 今回の「マン・レイ展」では、代表作といわれる著名人のポートレートやヌード写真はあまり含まれていない。「恋人たち」の空中の唇は、写真として、さらに金のオブジェとなって再生産されている。これまでとは違った「マン・レイ」を紹介するのがねらいのようだ。実に多作の人だったことに驚く。マン・レイは、自ら作品をカード形式で記録しており、これらをもとに写真という複製技術を使って、かつての作品を再構築している。レイヨグラフ、ソラリゼーションなどの技法を駆使した前衛的な作品、晩年の伴侶となったジュリエット・ブラウナーをモデルとしたプライベートな写真、立体のオブジェ、自らデザインしたチェス盤と駒、スケッチ、下絵、油絵、さらに実験的な映画などなど、実に400点に及ぶ作品が展示されている。

 展示は、ニューヨーク、パリ、ロサンゼルス、パリと居住していた場所で4期に分けてその創作活動を紹介している。やはり、シュールレアリストたちとコラボしたパリ時代の作品は圧巻だ。1920年代のパリで活躍していたアーチストのほとんどをカメラに収めたといわれるが、その一瞬の表情をとらえる知性と技術はやはりしばらしい。ピカソ、マックス・エルンストらとのコラボ。なかでも、詩人ポール・エリュアールの詩と、その妻ヌッシュのヌードをマン・レイが撮影した写真とで構成された詩集が美しい。晩年に取り組んだポラロイド写真や独自の色彩定着技法によるカラーポジフィルムによる作品もあり、これらは本邦初公開だ。ジュリエット・グレコのポートレートは、マイルス・デイヴィスが惚れたというその魅力を十分伝えている。写真に関しては実に多彩な技法を試みており、前衛の名に恥じないし、独自の色彩定着方もカラープリントの退色を防ぐための方法だったというから、フォトアーチストの先駆者としての面目躍如だ。

 図録3,000円、青いハートのストラップを購入。見ごたえもあり楽しい展覧会だった。


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