防衛費、過去最大の概算要求
防衛省が財務省に対して2023年度の予算要求をする概算要求額が判明した。5兆5947億円で、2021年度の5兆4898億円を上回って過去最大となる。防衛力を抜本的に強化するため、敵の射程圏外から攻撃する「スタンドオフ防衛能力」の強化や、ドローンなど「無人化装備」の充実などが大きな柱となる。また具体的な金額を示さない事項要求分は年末の予算編成までに検討し、最終的な防衛予算が決定する。
飯田)過去最大ということが、8月23日の朝刊の見出しに出ています。
青山)過去最大はおっしゃる通りなのですが、元が少なすぎて弾もない、どんなに暑くてもクーラーも付けられないというのが現実です。昔から自衛官は名刺を自分でつくっていましたけれども、自分でどうにかできる範囲を超えて、お金が長年、足りなかったわけです。「アメリカに守ってもらうからいいや」という話になっていました。
「過去最大の防衛費」と言ってもそれまでが少なすぎただけ
青山)それをまともな形にしなくてはならない。少なくとも自国を自国で守るということをしないと、アメリカと対等な話もできません。中国やロシアに対する抑止力にもならないということです。「過去最大」とメディアが言うのはわからなくはないけれども、少なすぎたものに対して過去最大と言っても意味がありません。
飯田)少なすぎたものに対して。
青山)ただし、概算要求について防衛省から説明に来られます。政(まつりごと)の世界は面白くて、私は政府に入るのは全部お断りしているし、国防部会でも私は役員ではありません。国防部会の平場で自由に発言していると、「この人は厄介な人だ」と思われているのか、民間時代から防衛省のことはよく知っていますけれども、頼んでいないのに概算要求をきちんと説明に来られるのです。
防衛省・自衛隊は防衛費を倍以上にすることへの「理念と現実」を持たなければならない ~ミサイルを収容していないイージス艦
青山)その努力をありがたいと思いつつも、私が防衛省・自衛隊にいま申し上げているのは、防衛省・自衛隊が「なぜ防衛費を最終的には倍以上にしなければいけないのか」ということを自分で説明する以前に、「自分の理念」を持たなければいけないということです。
飯田)自分の理念を。
青山)そもそも自分が「必要だ」と思っていなくてはいけないのです。その必要性ですが、弾がない問題……弾がないということをもっとシビアに言うと、イージス艦はVLSと言われる形で、縦にミサイルを収容しています。
飯田)垂直に撃てる。
青山)V(vertical)ですから、垂直という意味です。甲板を見ると蓋があるだけですが、なかにミサイルが入っていて、すごい戦力なのだと思うでしょう。しかし、蓋を開けたら空だということがあるわけです。
飯田)空?
青山)名前と役職は伏せますが、ある政府高官の方が、いきなり私に「青山さん、行ってみて蓋を開けさせたら空だった」と大声で笑うのです。「どうして笑うのですか?」と聞くと、「これはもう笑うしかないですよ」と言っていました。
飯田)笑うしかない。
青山)陸上自衛隊の演習で、弾がないから実弾を使えない。実弾に慣れていないということは前から知っていたけれども、例えば海に浮かんでいるイージスを見たら、強そうで「大丈夫だろう」と思っていたのに、蓋を開けたら空だったということです。本当に大声で笑うわけです。
飯田)なるほど。
青山)大きな意味では分野に入っていますが、分野の違う政府高官にそういうことを気付かせる前に、防衛省・自衛隊が国民に対してはっきり言うべきです。
飯田)国民に対して。
青山)どうして弾を持たなくてはいけないのか。普段、実弾演習をまったくせず、イージス艦もミサイルを発射できなくて、「いざというときに守れるのか」ということです。それを中国もロシアも北朝鮮も見抜いているのです。
飯田)見抜かれている。
青山)一見、無駄なように見えるかも知れませんが、子どもの幸せを守り、家族を守り、日本の未来を守るためには普段から実弾で演習し、「本当に備えているのだ」ということを見せる必要があるのです。それに加えて日本は宇宙、サイバー方面が極めて弱い。中国は発達しているから、それに備えなくてはいけないということを理念として、あるいは現実の改革として、防衛省・自衛隊が自覚して初めて説明できるのです。
飯田)現実の改革として。
青山)概算要求の中身を見ていると、それが足りていません。事項要求の話が出ていますが、金額を詰めない要求というものを、私はあまり認めていません。いまのところ検討中だというのは、その通りなのです。ただし、それがつじつま合わせのお金になるのではなく、防衛省・自衛隊として現場でまず、「理念と現実」の両方を自分で持っていなくてはいけない。残念ながら、いまはそれがないのです。