尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

奇術師

2010年04月21日 00時55分17秒 | 「新詩集準備α」
 「奇術師」


あれもこれも
掴んできたはずの掌を
奇術師のように
ぱっと開くと
ハトも飛ばないので
ついに私には
何もないと分かる
その代わり
空には雀が飛びかい
となりでは花が咲き
遠くの小学校から
歌声が響いてくる
これは誰の掌だろう
何という奇術師だろう

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鳥(決定稿)

2010年04月06日 20時56分29秒 | 「新詩集準備α」
  「鳥」


ひとりに一羽
いるのです
どんなに
あなたが可愛いか
そのことだけを伝えるために
夜の海を渡る鳥が
一生に一羽
来るのです

それとも
どんなにあなたが可愛いか
それを伝えに
たったひとり
夜の海を渡ったことがありますか?

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「悪魔の作り方入門―エジプトの悪魔」

2010年01月30日 03時50分39秒 | 「新詩集準備α」
「悪魔の作り方入門―エジプトの悪魔」

 寓話で語れるほど、「人生」や「世の中」は単純ではないかもしれません。しかし、そういった複雑怪奇な人生を我々が歩んでいるとしても、その経験の全体からはとうてい語りつくせないところの、単純な「寓話」も希にあるのです。万有引力の法則のような単純に真実で、しかも怪奇であるような寓話が存在するのです。
 アラビアをはじめ全国各地に、これとよく似たお話が伝わっています。ですから、もともと核になるような、ほんとうにあった事かもしれません。たくさんある話から、エジプトに伝わる一番怖いと思われるお話を、あなたにしてみます。
 いわば悪魔の作りかたの入門です。きわめて簡単で、あなただって、今夜から実践できるかもしれません。ただ時間だけがとてつもなく、かかってしまうそうです。
 
 太古のエジプトの海には、一人の乱暴な巨人が出没していました。どんなに深い海を歩いても、首から上は海面に出るという大きな巨人です。たくさんの船を襲っては積荷を奪い人々を殺していました。
 見かねたエジプトの神様は、魔法を使って、
巨人を人間の手首から上ぐらいの小人に変えました。お酒の入っていた、空のガラスのビンの中に閉じ込めました。そして、二度と悪さをしないように、そのビンを大海の真ん中に沈めたのです。
 海の底は、お日様の光りが全く届かないので真っ暗です。想像してください。昼も夜も現実も夢も、区別できない暗黒の中で、自分の心だけと向き合うことは、とんでもない心の拷問でしょう。
 
 その拷問のために、巨人は反省の日々をおくりました。
「ほんとうに悪いことをした。罪滅ぼしをしなくてはならない。もし、俺を見つけてここから助け出してくれる人がいたなら、どんなお礼をしたらいいだろうか。そうだ、彼の三つのお願いを聞いて、それを魔法で叶えてあげよう」
 こう決心したのです。しかし、百年たっても、ビンはピクリとも動きませんでした。改めて反省しなおしました。
「三つのお願いなんて、けちな考えはよそう。
そうだ、俺は救ってくれた人の奴隷になって、
その願いを全部叶えてあげよう」
 巨人がそう思いなおしてから、百年、二百年、三百年と過ぎていきました。それでもビンはピクリともしません。
 彼の体は次第に闇の黒に染まりはじめました。その闇の暗さといったら、僕等だって死なないとわからない暗さです。とうとう死よりも黒くなりました。
 また、闇の中は気が狂うほど退屈です。何も見えないから何かを見ようと目をこらしました。
 そのために目は血走り、異様に膨らんで玉になって飛び出しました。目の妖怪になりました。
 静かすぎる海の底です。何か聞こえるものはないかと耳を澄ませました。彼の耳は蝙蝠のように先が尖り大きくなりました。目と耳の妖怪になりました。
 食べるものはありません。来る日も来る日も、ビンの内側のガラスをペロペロなめていました。キイキイ嫌な音がするのは、その時指の爪でガラスをかきむしるからです。
 飢えた狼より長くて赤い舌になり、指先はハゲタカのように鋭くなりました。永遠、ひもじいだけの体は、針金みたいに痩せこけました。
 ビンは狭くて、寝転ぶこともできません。
あたりまえですが、ビンの中には椅子がありません。椅子の代わりにバネのようなそった尻尾が生えました。
 ・・・そうして、千年が経ち、悪魔のできあがりです。

 その日、海上はとても天気のよい日でした。運が良いのか悪いのか、イスラエルの漁師が一人、小舟の上で魚をとる網を引き上げていました。
 気味が悪いほど海は凪いでおり、静まりかえっていました。音といったら、網の目から滴る海水の音だけでした。網を引いても引いても、魚は一匹もかかっていませんでした。
 猟師は退屈で欠伸までしました。
「これじゃあ、帰ったら女房におこられてしまう。魚がとれないなら、大昔の宝物でも引っかかっていないかな」
 なんて独り言をいっていると、網の最後のところに、一本の酒ビンがかかっていました。酒飲みの漁師はそれを引き抜きました。
 手にしたビンの中では、真っ黒で奇形の小動物が、なにやら泣きわめいていました。
「ご主人様、コルクの栓を抜いて、外へ出してください。お礼に、あなたの願いを全部叶えて差し上げます」
 漁師はそのグロテスクな動物に恐怖を感じていましたが、女房の方がもっと怖かったのでしょう。
 (願いを叶えてくれるだと。女房のお土産だ!)
 コルク詮に指をかけ、力を込めました。
 ポン!
 臭い匂いとともに、ビンの口から黒い煙がもくもくと立ち上がりました。漁師は驚いて船底に尻餅をつきました。煙が消えると、腰から下を海に沈めた裸の巨人が現れました。
 巨人は魔法の呪文を唱えて、漁師を小人に変えました。天まで届く笑い声を発しながら、自分の千年住んでいたビンの部屋に、今度は彼を閉じ込めてしまいました。
「約束が違います。どんな悪いことを私があなたにしたというのですか?」
 憐れな漁師は巨人に必死で訴えました。漁師の質問にしばらくの間、まじめな顔をして巨人は考えていました。
 「なるほど、君はとてもよい事をした。君のしたことは、間違いなく善行だ。俺は悪魔だから、褒めるわけにはいけない。それは神に褒めてもらうがいい」
 と、答えました。
 晴天に、巨人の不気味な笑い声にあわせて、稲妻が走っています。空が青、黒、白と点滅しているみたいです。
 漁師は助けてもらいたい一心で、手を合わせ泣きながらお祈りしました。神のように拝まれている巨人は、千年ぶりの、いい気持ちだったかもしれません。ですから、ほんとうのことを漁師に言いました。覚えていてください、このほんとうのことを、悪意というのです。
「もし、海の底に沈められてから百年以内に、君が俺を救い出してくれていたなら、君の願いをきいてあげただろう。しかし、今は違う。心境の変化というものだ。これから言うのは悪魔の心だ、よく聞いておけ」
 巨人はお人好の眼をじっと見つめながら言葉を続けました。
「悪魔の心というのは、善い人、善い心、善い行いを、心から憎むものだ。善い人よ、解るか?」
「とても解りません」
 漁師の返事に、巨人はにやりと笑いました。
ビンのガラス越しに、善い人にキスしながら
次のように言い放ちました。
「なるほど、今は解らないだろう。君は若すぎるのだ。そして、善い人すぎるのだ。善は悪を理解しない。悪が善も悪も理解する。それでは千年かけて解らせてあげよう。千年かけて、ゆっくり…」
 巨人は、大海の真ん中に、小ビンを投げ込みました。そして言ったのです。
「ゆっくり、ゆっくり、悪魔になれ!」
 あとは、静かで美しい、夏のエジプトの海です。


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「あ」

2010年01月30日 00時29分13秒 | 「新詩集準備α」
尾崎まこと

 
 あ

おしゃべりな人々の間では
むしろあなたは「沈黙」と
呼ばれてしまうけれど
今日を始める私のために 
明日を語ろうとして最初が出ない
思いのみ溢れて 
あなた咳き込んでしまった

ランチの後で
友への私の嘘を
あなたの耳は
優しく数えていたね
百 百一 百二
陽だまりの猫など見ながら
百と三

友よ 
せめて黄昏には
「あい」を歌おう
けれどあなただけ
あ のところで
いきなり失語した

茄子紺の
空に張り付く
永遠
あ!
 
みんな大好きなのに 
魚のように 
木のように
一日誰とも喋らなかった
あなた
は失意?

いいえギリシャ語の第一音
αに
十字架を背負わしてごらん
それは
もだえる希望の


わたしたちの
母語のはじめ


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一日(決定稿)

2009年11月09日 09時45分36秒 | 「新詩集準備α」
「一日」


ダビンチもピカソも
そこに描いた

一日が明けていくとき
その一日は私たちへの
なんと白く美しい
答案用紙なのだろう

一日が暮れていくとき
その一日が たとえ
金釘文字であっても
私たちそれぞれの
けなげな答えである

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空の駅

2009年10月30日 10時10分39秒 | 「新詩集準備α」
 「空の駅」


空から地上へ
投げ込まれた独楽のように
突然
荒ぶることがある
やがて
シンと静まることがある
心は
僕らのさびしい皮膚が抱える
もうひとつの自然であろう

耕すにしろ
蒔くにしろ
植えるにしろ
刈り入れるにしろ
だから
その時を
待たなければならない
なにも
待たないものを
心と
呼んではいけない

あるときは雨を
あるときは光を
あるときは風を
はたまた嵐さえも
ずっとずっと
あなたを

心は
昨日から明日へと
果てしなくつづく大空の
いつも
今日の駅


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真珠貝の唄

2009年09月15日 08時14分40秒 | 「新詩集準備α」
真珠貝の唄
尾崎まこと


わたしは
片方の耳の形で 
深い海の底に ひとつ
小石のように
置かれています

それは閉ざされた瞼の形
でもありますから
自分の吐き出す砂粒でさえ
見ることはないでしょう

シュルラ シュルラ リルリルリルリル

遠い遠い
母の呼吸のような 
繰り返される潮騒の音に
耳を澄ませています
果てしない昼と
果てしない夜と
果てしない夢と

果てしなく
広がってゆく
気持ちのその真んなかで
たった一つ
痛みとともに結晶していく 
小さな星があるのです

シュルラ シュルラ リルリルリルリル

地球は
こんな形じゃないかしら
あなたは
こんな形じゃないかしら

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パントマイムの花束

2009年07月21日 22時10分05秒 | 「新詩集準備α」
やがて
果てしなく遠く
美しい国の夢を見るために
明かりを消してまぶたを閉じて
さらにひとには
どれほどの深い暗闇が
必要であったのだろうか

ふたたび
まぶたを開き窓を開け
今ここという国に
目覚めるためには
さらにひとには
どれほどのまぶしい忘却が
必要であったのだろうか

海のような暗闇と
空のような忘却と
あとは
汗を撒き散らす激しい
パントマイムの終わりに
そっと咲かせた
バラの花束
40センチの
痛い
希望さえあれば

ひとが
あなたのために
とびきり上手に
歌うためには
ひとが
あなたのために
とびきり上手に
踊るためには

海のような暗闇と
空のような忘却と
ああ
ひとよ
胸に抱える
見えないバラよ

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空の駅(決定稿)

2009年06月02日 22時55分01秒 | 「新詩集準備α」
「空の駅」



突然、荒ぶることがある
あるいは投げられた独楽のように
シンと静まることがある
心は
僕らの皮膚が抱える
もうひとつの自然であろう

蒔くにしろ
植えるにしろ
刈り入れるにしろ
だから
その時を
待たなければならない
なにも
待たないものを
心と呼んではいけない

あるときは雨を
あるときは光を
あるときは風を
あるとき嵐さえも
ずっとずっと
あなたを

心は
明日へと
果てしなくつづく大空の
いつも
今日の駅

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サクランボと大男(決定稿)

2009年05月14日 00時52分17秒 | 「新詩集準備α」
「サクランボと大男」



むかし大男がいた
今でいうと背丈は
三階建ての家ぐらいはあった
悪いことでなければ
頼まれたことは何でもしたので
優しいだけの男
だと村人はバカにした

踏んづけられると怖いので
近寄らなかった
遠巻きにしながら
池を掘ったり運河をひいたり
しんどいことを手伝わせた
戦争のときには彼を盾にした
そのせいでもあるまいが
サクランボぐらいのほんのり朱い
とても小さな悲しみを
大きな体は抱えてしまった

大男が死ぬとき
疲れてしまったのだろう
海のむこうまで聞こえる
すごいいびきをかいたそうだ
神様がやってきて
 そんな痛いのを持ったままでは
 天国へはいけません
 わたしによこしなさい
 小さなものの面倒をわたしがみましょう
と夢のなかでおっしゃった
しかし大男は神様に口答えをした
 僕一人で天国なんか行くものか!
とうとう握った手を開けなかったんだ

だから、大男は天国へ行ったさ
地上から持ってきた
サクランボの種を蒔き大切に育て
今じゃ平和な桜の園
小鳥がいっぱい鳴いているよ



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哲学

2009年05月08日 16時23分16秒 | 「新詩集準備α」
「哲学」



スカートを
ふわりとさせて
少女は少年の僕を
またいで跳んだ

落書きはだめよ
答はここに書くのよ
あなたの生涯をかけて
 …バイバイ!

それからは
どんなものにも股があった
消しゴムにだって股がある
世界は股という無数の鳥に
覆われていた

またまたまたまたまたまたまたまたまたまたまたまた
またまたまたまたまたまたまたまた
またまたまたまた

見上げれば
また
いつも空にまたがれていた
空はそれだけで立派な
宇宙の股である

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キューブリック・ハウス

2009年05月05日 23時07分26秒 | 「新詩集準備α」
『キューブリック・ハウス』 



恋人たちが去ったあと
冬の公園の日だまりを
見知らぬ鳩が埋めていた
ノアの放った鳩の末裔だろう
噴水が高くなると水を怖れ
噴水の形で飛び去った

私の部屋
キューブリック・ハウス

その夜 
見知らぬ詩の一行目が降りてきた
音符のように咥えられている
オリーブの葉を探したけれど
見出し得ないまま
終わりの行が
ふんわり着地した

私の部屋
キューブリック・ハウス

灯りを消すと
丸い思い出の日だまりでは
すくめる首でリズムをとって
昼間の鳩が遠ざかっていく
そうさ男まで
糧を求めてさまよう一日の終わりには
平和の象徴の鳥と同じ大きさに
縮んでしまう

その名前のない男の物語を
僕は今日も生きた

羽ばたきのかわりに
寝返りをうって
彼の一行を明日へと改行すると
私の部屋
キューブリック・ハウス
ここはなお
古代の方舟(はこぶね)の底ではないか
お前こそノアの末裔
とばかりに闇が揺れるのだ

陽はまた昇り
ふたたび
自分をまぶしい空へ
放つだろう

おおい鳩よ




※鳩は夕方になってノアのもとに帰ってきた。  
見よ、鳩はくちばしにオリーブの葉をくわえていた。
ノアは水が地上からひいたことを知った。  
彼は更に七日待って、鳩を放した。
鳩はもはやノアのもとに帰ってこなかった。
    (創世記八章十一~十二節)

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名人

2009年04月15日 22時55分18秒 | 「新詩集準備α」
音のない屁
などを漏らしながら
誰にも悟られず
ゆっくり死んでいくこと
こんなふうに

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空の空を抱えて、詩を書くな詩を生きろ

2009年03月17日 01時09分43秒 | 「新詩集準備α」
 空の空を抱えて、詩を書くな詩を生きろ


 言っておくが、君、これは詩ではないぞ。実験である。口語の時代は冷えるのだ。饒舌から失語へ落ちてゆく、この切実さはなんだろう。詩はたちまち殺されている。信じるに足りない太陽と資本の代わりに、僕らの空の空をつくろう。
 二本の腕を前にさしだし輪をつくる。輪の平面は水平でなければならない、指先と指先の間に隙間があってはならない。その奇妙な円の姿勢こそ、君の現在の位置だ。一分、一時間、一年、あるいは一生、風が来るまで待て。運がよけりゃ、風は腕の内輪を循環しはじめる。結果、幾分青みがかった気体の円筒が現象するだろう。頭を差し入れごくりと飲みたまえ。このうまさが君の空だ。
 君が抱える空、すなわち垂直のチューブは、
二方向に直進しついには交わる。断言しよう、この疑似的円還が君の空ではないとしたら、そもそもこの世には空がない。虚無と交接するような君の姿勢に、『影』が近寄る。君が何度も夢で聞いたとおりの事を、影は囁くだろう。「君の空はどこにもない」。ゆっくり振り返れば、鏡のように奴も振り向くだろう。実験は終わった。詩は君の変わりに黙って殺されてやる。こうして再び夢から覚めるように、あるいはラザロのように僕らは生き返る。
 時代とは詩が死んで僕らが生き延びること。すなわち非詩を生きること。国が敗れるとはこういうことだ。見よ、携帯電話を位牌のように抱え、僕らの顔も生活も、まるで立方体の中の昆虫のように縮こまっている。
 空の空の代わりに、軽トラックのハンドルを抱える。500円の青い汁を売るために尾崎は走らねばならない。そしてこんな夜、こんな雨だ。ワイパーが窓をキュッキュッ、キュッキュッと掻き鳴らす。言葉でも音楽でもない。石英とゴムの摩擦音に失語の悲哀を発見する。
 この時代、人が詩を厭うのではない。詩が言葉を憎悪している。僕はますます饒舌で、君はますます黙り込む。見えなくなったのはモノである。なるほど口語の時代はかように寒い。君、詩を書こうとするな。あのひとのように、詩を生きてみろ。

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水の走る道

2009年03月02日 22時55分38秒 | 「新詩集準備α」
「水の走る道」


野を
森を
峠を
小さな村を
水のような
道が走っている
誰でもない
道自身が
ひた走りに
走っている

 それって擬人法?

なんて聞かないでほしい
いつかわかるよ
走り続けておれば
道だけが
道を
走られるってこと
道だけが
道を
超えられるってこと

 ではもう一度はじめよう

人も馬もいなくなった
車も並木も消えてしまった
一本道を
水のような
道だけが
ひたひたと
走っている

道を
ほんとうの道を
生まれたままの道を
足音をたてずに
道だけが走り抜けているのだ
いま
あなただけが
あなたを
密やかな水のように
駆け抜けている
その方法で



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