追われている彼は
世界が敵なので
私しか信じない
私の半生は
彼の無実を証明するために
費やされた
ついに私は彼の無実を立証する
証拠を手に入れたのだ
ホテルの一室で密会した
その日のことは忘れないだろう
テーブルの上に私は証拠品を並べた
血糊のついた地図とか
色あせた彼のほんとうの母の写真とか
さび付いた金槌とか
真犯人の下着の断片とか…
彼は怒ったサルのように
白い歯をむいてそれらを見やった
それから私を見て
哀しげな驚愕の表情をした
それからほんとうの
彼の逃亡が始まったのである
無実そのものから
つまらないゲームが開始された!
と知りながら私は彼を追いかけてしまった
意外なことに
ホテルを飛び出し太陽のまぶしい光を浴びた私は
泣いていたのである
生まれてはじめて泣いた気がした