愛し合うものたちは
きまって
一冊のノートを持たされている
しかし若すぎる彼らは
とても気がつかない
お互いに夢中だから
カバンの中を
ごそごそ探すよりも
その手をつかって抱き合う
たとえば
入道雲の空の下
向日葵に
アゲハがとまっても
とまったとは
書かない
お互いに夢中だから
スケッチする時間がなくて
キスばかりする
さて
残酷なことに
愛し合うものたちが
一緒になるとは限らない
そんな彼らは
さよならする時でさえ
「ありがとう」
と書く時間がなかった
泣きじゃくるだけで
精いっぱいだったから
それから十年たって
さらに十年たったころ
カバンの底の
ノートに気づくだろう
そこには
誰が書き込んだのか
奇蹟が刻まれている
きょう
入道雲の空の下
向日葵に
アゲハがとまった
目の前で