帰り道だった
舗道の向こう側
むかし葡萄畑であったところから
今年はじめて
暗闇を刻みながら
昇ってゆく水玉の
秋虫の声を聞いた
ラジオから流れてくる
人間の未来の言葉のように聞いた
草と草のあいだの見えないコオロギに
人間の未来の鉄仮面の顔を見た
舗道の向こう側
むかし葡萄畑であったところから
今年はじめて
暗闇を刻みながら
昇ってゆく水玉の
秋虫の声を聞いた
ラジオから流れてくる
人間の未来の言葉のように聞いた
草と草のあいだの見えないコオロギに
人間の未来の鉄仮面の顔を見た
真珠貝の唄
尾崎まこと
わたしは
片方の耳の形で
深い海の底に ひとつ
小石のように
置かれています
それは閉ざされた瞼の形
でもありますから
自分の吐き出す砂粒でさえ
見ることはないでしょう
シュルラ シュルラ リルリルリルリル
遠い遠い
母の呼吸のような
繰り返される潮騒の音に
耳を澄ませています
果てしない昼と
果てしない夜と
果てしない夢と
果てしなく
広がってゆく
気持ちのその真んなかで
たった一つ
痛みとともに結晶していく
小さな星があるのです
シュルラ シュルラ リルリルリルリル
地球は
こんな形じゃないかしら
あなたは
こんな形じゃないかしら
尾崎まこと
わたしは
片方の耳の形で
深い海の底に ひとつ
小石のように
置かれています
それは閉ざされた瞼の形
でもありますから
自分の吐き出す砂粒でさえ
見ることはないでしょう
シュルラ シュルラ リルリルリルリル
遠い遠い
母の呼吸のような
繰り返される潮騒の音に
耳を澄ませています
果てしない昼と
果てしない夜と
果てしない夢と
果てしなく
広がってゆく
気持ちのその真んなかで
たった一つ
痛みとともに結晶していく
小さな星があるのです
シュルラ シュルラ リルリルリルリル
地球は
こんな形じゃないかしら
あなたは
こんな形じゃないかしら
生きている人が
どんなに暗い顔して
死んだ言葉をしゃべり続けていることだろう
死んだ人だけが
生きている人を使って
生きている熱い言葉をしゃべるのは
なぜなのだろう
亀山君の口元を見ながら
唾を飛ばして
しゃべり続けているのは
亀山博士だと確信した
ちょうどラジオでは
美空ひばりが
リンゴノハナニオウ
と歌った
その歌声の遥かに遠いこと…
私たちが共に失なわねばならなかった
抒情ということ
それから私たちはみな生きてはいないという観念が
夕立ちのように私たちの間を過ぎ去って
鳥肌を立てた
どんなに暗い顔して
死んだ言葉をしゃべり続けていることだろう
死んだ人だけが
生きている人を使って
生きている熱い言葉をしゃべるのは
なぜなのだろう
亀山君の口元を見ながら
唾を飛ばして
しゃべり続けているのは
亀山博士だと確信した
ちょうどラジオでは
美空ひばりが
リンゴノハナニオウ
と歌った
その歌声の遥かに遠いこと…
私たちが共に失なわねばならなかった
抒情ということ
それから私たちはみな生きてはいないという観念が
夕立ちのように私たちの間を過ぎ去って
鳥肌を立てた
愛は
ある
とかないとか
ではない
愛は
いつも
花よりも無防備に
愛してしまった
ということである
人はそれを
失うことさえできないだろう
わずかに
忘れることだけができる
その人は
忘れたままで生まれてきて
ある瞬間
夢のなかで蜃気楼のように思い出し
ふたたび
生活に戻り
愛の忘却の
すなわち砂漠のような一生を生きる
われわれの宇宙は
この体のように
いつしか果ててしまうだろう
しかし
われわれは
花よりも無防備に
ウサギや野ネズミよりも
もっと裸になって
愛してしまったのである
あなたを!
それだけが
宇宙の意味である
ある
とかないとか
ではない
愛は
いつも
花よりも無防備に
愛してしまった
ということである
人はそれを
失うことさえできないだろう
わずかに
忘れることだけができる
その人は
忘れたままで生まれてきて
ある瞬間
夢のなかで蜃気楼のように思い出し
ふたたび
生活に戻り
愛の忘却の
すなわち砂漠のような一生を生きる
われわれの宇宙は
この体のように
いつしか果ててしまうだろう
しかし
われわれは
花よりも無防備に
ウサギや野ネズミよりも
もっと裸になって
愛してしまったのである
あなたを!
それだけが
宇宙の意味である
映っているのは
私ではない
むしろ鏡が根源的な私である
なるほど私は
鏡のように世界を映しだしている
鏡のなかの男は
何も見てはいない
私ではない
むしろ鏡が根源的な私である
なるほど私は
鏡のように世界を映しだしている
鏡のなかの男は
何も見てはいない
鏡を見つめていると
鏡が見つめている
消えたわたしを
なぜ鏡は気が狂わないのだろうか
そんなに見つめて
鏡を星だと思うことがある
わたしを星だと感じるように
今日の青い空にも
キラキラキラ
さびしい鏡の粉でいっぱいだね
鏡が見つめている
消えたわたしを
なぜ鏡は気が狂わないのだろうか
そんなに見つめて
鏡を星だと思うことがある
わたしを星だと感じるように
今日の青い空にも
キラキラキラ
さびしい鏡の粉でいっぱいだね
6時過ぎに撮影。このあとダルマ屋できつね肉うどんを食べてから、事務所に戻り一休み。7時半から東天満一丁目の喫茶「閑花」で行われた、木下和子さんの朗読を聴きに行きました。浜田 廣介の「泣いた赤鬼」で、感じ入りました。朗読の勉強と童話の勉強と、いろいろ勉強になりました。11月は太宰を取り上げるとか、また寄せていただきます。
クラブの戸を
まぶしく開いて
入ってきた
高松塚クンは
投げられたばかりの独楽のように
不安定でブンブン唸っていた
とても人間がしゃべっているとは思えなかった
つまり高松塚君が言葉をしゃべっているのではなくて
言葉が高松塚君をしゃべっているのだと
(無意識は言語として構造化されていると、…
亀山博士はラカンをしばしば引用されたのだが)
私は直観した
彼の体を
まったく
占領しているナチスのような
言葉の一群があるに違いない
彼の回転を止めるために
「人間というのは
嘘しかしゃべれないようにできていると
女を喜ばすことのできる男なら
知っていてよいはずだ」
亀山博士の声色をつかって
松塚の目を男のように見ながら
(一生処女かもしれないくせに)
私は言ってしまった
それから彼は7秒から8秒
夜のように黙って
夕方帰れなかったカラスのように
尖った唇で笑ったのである
(蜩が鳴く九月が来るたびに、
ふとそのまねをしてしまう、
とても悲しい気持ちでね)
言葉が無力なのではない
人間が無力なのである
人間が言葉に圧倒されちまっているのだ
…と涙を浮かべて彼は言った
彼は言葉に抗議していた
そしてその時
私は言葉だった
まぶしく開いて
入ってきた
高松塚クンは
投げられたばかりの独楽のように
不安定でブンブン唸っていた
とても人間がしゃべっているとは思えなかった
つまり高松塚君が言葉をしゃべっているのではなくて
言葉が高松塚君をしゃべっているのだと
(無意識は言語として構造化されていると、…
亀山博士はラカンをしばしば引用されたのだが)
私は直観した
彼の体を
まったく
占領しているナチスのような
言葉の一群があるに違いない
彼の回転を止めるために
「人間というのは
嘘しかしゃべれないようにできていると
女を喜ばすことのできる男なら
知っていてよいはずだ」
亀山博士の声色をつかって
松塚の目を男のように見ながら
(一生処女かもしれないくせに)
私は言ってしまった
それから彼は7秒から8秒
夜のように黙って
夕方帰れなかったカラスのように
尖った唇で笑ったのである
(蜩が鳴く九月が来るたびに、
ふとそのまねをしてしまう、
とても悲しい気持ちでね)
言葉が無力なのではない
人間が無力なのである
人間が言葉に圧倒されちまっているのだ
…と涙を浮かべて彼は言った
彼は言葉に抗議していた
そしてその時
私は言葉だった