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早朝、太陽が昇り徐々に眩しい朝日が海と基地を照らす。
まだ鶏と夜間哨戒から帰ったばかりのサーニャぐらいしか起きていない時間帯であったが、
鳴り響く警報のサイレンで強制的に起床した。
(最近不規則になっているけど今回は予想の範囲内ね)
基地全体が慌しい雰囲気の中、
ネウロイ襲来の報告を受けたミーナの第一感想であった。
欧州大陸よりネウロイ襲来、この報告は別に珍しくもなんともない。
欧州が陥落して以来、欧州圏では島国であるブリタニアが最後の防波堤としての役割を担っている。
ネウロイは海や河といった地形に弱く、空を飛ぶタイプを除けば進行は限られる。
だから大抵わざわざ海を渡ってでも来るのは単騎で大型のものか、少数の編隊を組んだ小型と相場は決まっている。
最短距離を目指すならドーバー海峡を渡らざるを得ず、その時は自分たちの出番だ。
(でも、なぜかしら。いやな予感がするわね)
珈琲を急いで胃に注ぎながら考える。
総司令部から送られてきた情報によれば、
「大型ネウロイ、1ガ接近中」と一見すると何とでもないが、
問題はその航路である、見事にここ第501統合戦闘航空団を通過するルートである。
「いつもの航路はロンドンなのに、ここ最近の不規則性といいネウロイに変化が?」
ネウロイは金属を取り込む習性から、
多くの金属を有する都市や工場地帯へ好んでやってくる。
そのため距離的な問題もありロンドンはよく狙われる場所である。
無論ロンドンへの航路とは別に中小の都市や村を通過するルートを通ることもあるが、
大抵ブリタニアに近づく前に501を筆頭にブリタニアのウィッチ部隊が迎撃、そして撃破している。
「ミーナ、ネウロイはどうなっている?」
執務室に坂本少佐が駆け込んできた。
かなり急いで来たようで後ろに纏めた黒い髪がやや乱れている。
しかし、汗ひとつさえかいていない様子を見ると流石ね、とミーナは思った。
「大型ネウロイ1、航路は東から真っ直ぐこちらへ向かっているものよ」
「真っ直ぐににか?珍しいな」
坂本少佐が懐疑的に呟く。
しかし、直ぐに表情を引き締め言葉を続けた。
「編成はどうする?」
「そうね、今回はトゥルーデとエーリカが前衛。
シャーリーさんとルッキーニが後衛――――そして美緒、
いいえ坂本少佐はその指揮を執り、直援にはペリーヌさんを配置します」
「後は?」
「私とエイラさん、サーニャさんは予備として待機。
宮藤さん、リネットさんも同じく基地で待機してもらいます」
ミーナの上官としての命令を一通り聞き終えた後、坂本少佐が口を開いた。
「やはり、あの2人はまだ出せないか」
「ええ、流石にまだまだ早いし」
2人とは宮藤芳佳、リネット・ビショップのことである。
宮藤芳佳はその膨大な魔法力と、高い学習能力で日々成長を遂げているが、
ついこの間まで民間人でウィッチとしての訓練が不足しており、危ういところがある。
対してリネット・ビショップは訓練校から来たとはいえ、
メンタルが不安で、またこれまで散々ネウロイと戦ってきた者からすればまだまだお荷物だ。
「バルクホルンは最悪の事態には2人を出撃させる事も考えるべき、と言っていたが出来ればなりたくないものだ」
「そうね、軍人なら例えどんな状況でも命令に従うもの、それがどんなに未熟であっても。
私は出来ればあの2人を出したくないけど、トゥルーデに言われなくても最悪の際にはあの2人を出撃させるわ」
いつか芳佳、リーネの2人は実戦に投入せねばならない日が来る。
しかし、それは可能ならば先の話であってほしい。
それはミーナ、坂本少佐の一致した意見であった。
「わかった、なら私は先にブリーフィングルームに行って来る。詳しい話は後で」
「ええ、分かったわ。行ってらっしゃい」
そして、言い終えて間を空ける暇も無く坂本少佐は踵を返し部屋を後にした。
一人執務室に残されたミーナもまた直ぐに移動するため、飲み終えていない珈琲を香りを堪能する余裕も無く口にする。
一口で飲み終え、必要な書類を手にして立ち上がりこれから移動するさい、ふと言葉を発した。
「杞憂、ならいいのだけど……」
不安と共に窓の向こうの蒼い空を見上げた。