人事異動があって新部署に放り込まれた。ちょっと年上のTさん(男)と席を並べて働くことになった。みんなが面白がって見に来て、「ちょっとちょっと。若い男女をこんな狭い部屋に閉じこめるってどうよ?!何か間違いがあったらどーするの!?」などと口を揃えて勝手なことを言う。正確にはもうあんまり「若い」男女とは言えないかもしれないけれど、そんなことをしてしまいそうな軽ーい遊び人的雰囲気がTさんにはあるし、おとなしそうでいて陰で何やってんだかわからない得体の知れなさが私にはある、らしい。
ふーん。私ってそういうキャラなんだ。
奥行き2mの部屋に、互いに背を向け合うように70cmの机を2台入れた。通路兼チェア置き場は60cmの幅しかない。背を向け合うというよりはモロ真横に座っているというドキドキなレイアウトだ。
そんなレイアウトになって3日目の朝、後ろを向くTさんの姿を目の端にとらえながら仕事をしていたとき、ズキッと胸が痛んだ。
最初は深呼吸をすると痛む程度。ところがその痛みが驚く速さで進行した。
息を吸うと肺が痛む、息を吐くと肺が痛む…。その痛みがだんだんひどくなり、呼吸が浅くなり、とうとう自分の我慢の限界を超えるところまできた。1時間後、息が全くできなくなり、あえぎあえぎ助けを呼んで、救急センターに運びこまれた。
胸部レントゲン、心電図と検査をされ、医師がどんな病気を想定しているのか考えると怖かったが、まっすぐ立つことも背を伸ばして寝ることもできないので、検査にとても手間取った。
ところが、
「心臓も、肺も、異常ないです。骨折でもないです。血圧が高くなっている他は脈も安定しているし…。一応、気胸とかエコノミー症候群とか心筋梗塞みたいなのを疑ってみましたけど、これはストレスですね。」
だと。肋間神経痛という、肋骨の中のどこかで神経が痛がっているというゴミみたいな診断名をもらって、鎮痛薬を飲まされ、「しばらく休みなさい」と経過観察室に寝かされた。
一緒についてきてくれた上司が「あぁ、こりゃTさんのせいだわね」としたり顔でうなずいていた。Tさん、ごめん。私そんなにTさんのこと嫌いってワケじゃないのに。
心臓や肺の病気ではなかったと判り、苦しいながらも安心して薬が効いてくるのを待ちながら、いやぁ大変だったなぁとこれまでを思い返していた。
あのとき、息がどうにもできなくなり、
「…Tさん、胸が苦しいんです…」
と隣のTさんにうったえた。Tさんも驚くよね。突然そんなこと言われても。
「息ができないの…。どうしたら、いい…?」
Tさんはしばらくおろおろしていて、他部署に声をかけるのをためらっていた。
あのときは苦しいし意識は薄れてくるし「早く助けてぇ」としか思ってなかったけれど、よく考えてみれば、コイツ、私が愛の告白でもしたと勘違いしたんじゃないだろうか。
いや、絶対そうだ。Tはすぐそっち方面に考える奴だ。
そんなことを考えていたら、笑いが止まらなくなり、小刻みに胸が震えて激痛が走った。
「ど、ど、どうしたんですかっ?!」
看護師さんが飛んできたけど、悶絶しながら「いえ、なんでもありません」と言うものの、あの痛さはただ事ではなくて、もう死ぬかと思った。
ああ、Tさんに確かめたいけど、野暮だよなぁ。
ふーん。私ってそういうキャラなんだ。
奥行き2mの部屋に、互いに背を向け合うように70cmの机を2台入れた。通路兼チェア置き場は60cmの幅しかない。背を向け合うというよりはモロ真横に座っているというドキドキなレイアウトだ。
そんなレイアウトになって3日目の朝、後ろを向くTさんの姿を目の端にとらえながら仕事をしていたとき、ズキッと胸が痛んだ。
最初は深呼吸をすると痛む程度。ところがその痛みが驚く速さで進行した。
息を吸うと肺が痛む、息を吐くと肺が痛む…。その痛みがだんだんひどくなり、呼吸が浅くなり、とうとう自分の我慢の限界を超えるところまできた。1時間後、息が全くできなくなり、あえぎあえぎ助けを呼んで、救急センターに運びこまれた。
胸部レントゲン、心電図と検査をされ、医師がどんな病気を想定しているのか考えると怖かったが、まっすぐ立つことも背を伸ばして寝ることもできないので、検査にとても手間取った。
ところが、
「心臓も、肺も、異常ないです。骨折でもないです。血圧が高くなっている他は脈も安定しているし…。一応、気胸とかエコノミー症候群とか心筋梗塞みたいなのを疑ってみましたけど、これはストレスですね。」
だと。肋間神経痛という、肋骨の中のどこかで神経が痛がっているというゴミみたいな診断名をもらって、鎮痛薬を飲まされ、「しばらく休みなさい」と経過観察室に寝かされた。
一緒についてきてくれた上司が「あぁ、こりゃTさんのせいだわね」としたり顔でうなずいていた。Tさん、ごめん。私そんなにTさんのこと嫌いってワケじゃないのに。
心臓や肺の病気ではなかったと判り、苦しいながらも安心して薬が効いてくるのを待ちながら、いやぁ大変だったなぁとこれまでを思い返していた。
あのとき、息がどうにもできなくなり、
「…Tさん、胸が苦しいんです…」
と隣のTさんにうったえた。Tさんも驚くよね。突然そんなこと言われても。
「息ができないの…。どうしたら、いい…?」
Tさんはしばらくおろおろしていて、他部署に声をかけるのをためらっていた。
あのときは苦しいし意識は薄れてくるし「早く助けてぇ」としか思ってなかったけれど、よく考えてみれば、コイツ、私が愛の告白でもしたと勘違いしたんじゃないだろうか。
いや、絶対そうだ。Tはすぐそっち方面に考える奴だ。
そんなことを考えていたら、笑いが止まらなくなり、小刻みに胸が震えて激痛が走った。
「ど、ど、どうしたんですかっ?!」
看護師さんが飛んできたけど、悶絶しながら「いえ、なんでもありません」と言うものの、あの痛さはただ事ではなくて、もう死ぬかと思った。
ああ、Tさんに確かめたいけど、野暮だよなぁ。