平成14年頃から食育と称して次のような説を頻繁に耳にします。「動物の歯にはそれぞれ固有の役割がある。犬歯は肉を食いちぎるために生えており、臼歯は穀物をすりつぶすために生えている。人間は臼歯がたくさん生えているので、穀物をたくさん食べて肉類を少なくするのが理にかなっている。」
一見もっともらしい説ですが、学問的にはまったくの勘違いなのです。
臼歯は、草食動物では草をすりつぶすために生えています。大きな博物館や動物園では、キリンやシマウマなどの頭骨を見せてくれるところもありますので、機会があればぜひ観察してください。キリンは高い木の枝に付いている葉が主食です。穀物なんてまったく食べません。シマウマも草などの繊維をすりつぶすために臼歯が発達しています。
同じく草食動物のカバには、立派な犬歯が生えていますが、肉を食べるためではなく、草を短く切るはさみとして使用されます。オス同士の場合は力を誇示するディスプレイにも使用されます。犬歯は草を食べるためにも利用されるのですから、「犬歯=肉の歯」というのも勘違いです。
(ちなみに、カバのイラストやマンガではカバの犬歯が平らに描かれた物が多数見かけられます。しかし、動物園で観察すると、とがっている個体が多いことが確認できます。カバの前歯には土を掘り返す役割があります。そのため、だんだん前歯の先端が平らになってしまうのですが、その前歯の印象があまりにも強いので、絵を描く人はつい誤って犬歯も平らに書いてしまうのかもしれません。)
逆に、肉食獣のライオンには、臼歯が生えています。とがっていますが、臼歯の変化したものです。つまり、臼歯は肉を食べるためにも生えているのです。雑食動物である熊には平らな臼歯が生えていますが、餌は小動物と木の実と虫などであり、穀物はほとんど食べません。
人間はどうか。タミアは10年前に佐倉の国立歴史民俗博物館で、とても興味深い展示を見ました。農耕を始める以前の日本人の臼歯は極端にすり減っており、すり減り具合を専門家が分析した結果、動物を狩猟して皮を臼歯で噛んで「皮なめし」していたためと分かったそうです。つまり、人間の臼歯も「穀物のため」とは言えないのです。
以上をまとめると「犬歯は肉を食べるための歯で、臼歯は穀物を食べるための歯だ。」という説は、まったく根拠がないわけです。
最近は糖質制限食がブームで、これに反対する人たちが「糖質制限食は疑似科学である」と唱えています。糖質制限食が本当に体に良いのかどうか、専門家でも様々な意見があり、今後の研究の進展が待たれますが、疑似科学説を唱える人たちの中には「人間には臼歯がたくさん生えているから、穀物をたくさん食べるのが自然の摂理だ。」と言う人もいて、残念です。疑似科学批判のつもりが疑似科学に陥ってしまうことのないように、気を付けなければと思うこの頃です。
一見もっともらしい説ですが、学問的にはまったくの勘違いなのです。
臼歯は、草食動物では草をすりつぶすために生えています。大きな博物館や動物園では、キリンやシマウマなどの頭骨を見せてくれるところもありますので、機会があればぜひ観察してください。キリンは高い木の枝に付いている葉が主食です。穀物なんてまったく食べません。シマウマも草などの繊維をすりつぶすために臼歯が発達しています。
同じく草食動物のカバには、立派な犬歯が生えていますが、肉を食べるためではなく、草を短く切るはさみとして使用されます。オス同士の場合は力を誇示するディスプレイにも使用されます。犬歯は草を食べるためにも利用されるのですから、「犬歯=肉の歯」というのも勘違いです。
(ちなみに、カバのイラストやマンガではカバの犬歯が平らに描かれた物が多数見かけられます。しかし、動物園で観察すると、とがっている個体が多いことが確認できます。カバの前歯には土を掘り返す役割があります。そのため、だんだん前歯の先端が平らになってしまうのですが、その前歯の印象があまりにも強いので、絵を描く人はつい誤って犬歯も平らに書いてしまうのかもしれません。)
逆に、肉食獣のライオンには、臼歯が生えています。とがっていますが、臼歯の変化したものです。つまり、臼歯は肉を食べるためにも生えているのです。雑食動物である熊には平らな臼歯が生えていますが、餌は小動物と木の実と虫などであり、穀物はほとんど食べません。
人間はどうか。タミアは10年前に佐倉の国立歴史民俗博物館で、とても興味深い展示を見ました。農耕を始める以前の日本人の臼歯は極端にすり減っており、すり減り具合を専門家が分析した結果、動物を狩猟して皮を臼歯で噛んで「皮なめし」していたためと分かったそうです。つまり、人間の臼歯も「穀物のため」とは言えないのです。
以上をまとめると「犬歯は肉を食べるための歯で、臼歯は穀物を食べるための歯だ。」という説は、まったく根拠がないわけです。
最近は糖質制限食がブームで、これに反対する人たちが「糖質制限食は疑似科学である」と唱えています。糖質制限食が本当に体に良いのかどうか、専門家でも様々な意見があり、今後の研究の進展が待たれますが、疑似科学説を唱える人たちの中には「人間には臼歯がたくさん生えているから、穀物をたくさん食べるのが自然の摂理だ。」と言う人もいて、残念です。疑似科学批判のつもりが疑似科学に陥ってしまうことのないように、気を付けなければと思うこの頃です。