日本経済新聞の木曜夕刊の中川恵一先生(東京大学病院准教授)のコラム、「がん社会を診る」は毎回勉強になる情報が載っています。例えば「菜食主義者が特にがんにかかりにくいというデータも、長生きするというデータもないこと。」など、はっとする指摘が多く、毎回参考にさせてもらっていました。
しかし、申しあげにくい話ですが、今回、2015年10月1日号の「長寿県・沖縄に異変」だけはいただけません。統計の誤読と思われる箇所や論理的矛盾が目立つからです。
先生の今回のコラムの趣旨は「沖縄県男性の平均寿命はファストフードとクルマ社会による運動不足で下がってしまった。沖縄の肥満は男女とも激増しており、将来心配な状況にある。」との内容ですよね。
このコラムで先生は「近年、急速に平均寿命を下げているのが沖縄県です。」と述べてますが、前回の私のこのブログに書いた通り、沖縄で下がったのは「順位」であり、寿命は伸びているのです。
マラソンに例えれば、1990年代まで日本一の記録を誇っていた「オキナワ・ケン」さんが、最近の試合で自己ベストを更新したものの、ライバルの「ナガノ・ケン」さんらがそれよりもよいタイムだったために、オキナワさんは日本一の座を譲ることになった、という話です。このことを指して、「オキナワさんは足が遅くなった。」などと批判する人は居ないでしょう。
ところが、中川先生のコラムでは、順位が下がったことを指して、「ファストフードの影響などで」伝統食を食べなくなったのが主因と論じてます。この指摘が正しいなら、「ファストフードを食べることで寿命が延びる」という結論になります。
先生のコラムではさらにこうも続けています。戦後米国の施政下に置かれて伝統食の代わりにファストフードを食べる様になったことやクルマ社会による運動不足が原因で、沖縄県の肥満者の割合は増え、特に女性では40代の肥満率が全国平均の2倍です、と。ところがこの文章の前段では、沖縄県女性の40歳の平均余命は全国トップだと記されています。この2つの文章を素直に読めば、「ファストフードとクルマ社会で女性が太ると、日本一平均余命が長くなる。」ということになります。
しかも、沖縄男性の平均余命の順位が下がったのに、女性はそれほど順位を下げていないことについて、先生は「(女性は)環境の変化があっても、生活習慣が乱れにくいためと思います。」と述べています。つまり、沖縄では男性はクルマに乗りファストフードを沢山食べ、女性は徒歩で暮らしてファストフードをほとんど食べずに伝特食を守っている、との主張のようです。これって常識に反しているじゃありませんか。テレビや雑誌で「美味しいと大評判のお店」「ご褒美デザートのお店はコレ!」などと言われると真っ先に飛びつくのはむしろ女性の方ではありませんか。沖縄では男性ばかりクルマにのっているというデータや、男性ばかりファストフードを食べており女性は伝統食に固執しているということを確実に示すデータがあるならば見たいところです。もし仮にそのようなデータがあったとすれば、女性の肥満率が全国の2倍なのはなぜでしょう。
元「栄養と料理」の編集長、佐藤達夫氏は著書「食べモノの道理」の中で、「沖縄県の寿命が縮んだ」説を、各種統計データに基づき詳細に分析しています。その結論はというと、「食の欧米化によってむしろ沖縄は長寿県になった」という意外な結果でした。そして、長野県など他県に順位で追い抜かれたのは、他県も沖縄に遅れて洋風化が進んだためでしょうと指摘しています。ちなみにこの「食べモノの道理」は池上彰先生もご推薦されていることも、付け加えたいと思います。このブログをご覧の読者の皆様も、ぜひ一度、この本に目を通してください。
中川先生、申しあげにくい話ですが、先生の今回のコラムはどうも統計の読み違いではないかと思うのですが、いかがでしょうか。今までのコラムはとても楽しく読ませてもらっていました。次回からまたいつもの鋭い分析が復活することを、心より願っています。
しかし、申しあげにくい話ですが、今回、2015年10月1日号の「長寿県・沖縄に異変」だけはいただけません。統計の誤読と思われる箇所や論理的矛盾が目立つからです。
先生の今回のコラムの趣旨は「沖縄県男性の平均寿命はファストフードとクルマ社会による運動不足で下がってしまった。沖縄の肥満は男女とも激増しており、将来心配な状況にある。」との内容ですよね。
このコラムで先生は「近年、急速に平均寿命を下げているのが沖縄県です。」と述べてますが、前回の私のこのブログに書いた通り、沖縄で下がったのは「順位」であり、寿命は伸びているのです。
マラソンに例えれば、1990年代まで日本一の記録を誇っていた「オキナワ・ケン」さんが、最近の試合で自己ベストを更新したものの、ライバルの「ナガノ・ケン」さんらがそれよりもよいタイムだったために、オキナワさんは日本一の座を譲ることになった、という話です。このことを指して、「オキナワさんは足が遅くなった。」などと批判する人は居ないでしょう。
ところが、中川先生のコラムでは、順位が下がったことを指して、「ファストフードの影響などで」伝統食を食べなくなったのが主因と論じてます。この指摘が正しいなら、「ファストフードを食べることで寿命が延びる」という結論になります。
先生のコラムではさらにこうも続けています。戦後米国の施政下に置かれて伝統食の代わりにファストフードを食べる様になったことやクルマ社会による運動不足が原因で、沖縄県の肥満者の割合は増え、特に女性では40代の肥満率が全国平均の2倍です、と。ところがこの文章の前段では、沖縄県女性の40歳の平均余命は全国トップだと記されています。この2つの文章を素直に読めば、「ファストフードとクルマ社会で女性が太ると、日本一平均余命が長くなる。」ということになります。
しかも、沖縄男性の平均余命の順位が下がったのに、女性はそれほど順位を下げていないことについて、先生は「(女性は)環境の変化があっても、生活習慣が乱れにくいためと思います。」と述べています。つまり、沖縄では男性はクルマに乗りファストフードを沢山食べ、女性は徒歩で暮らしてファストフードをほとんど食べずに伝特食を守っている、との主張のようです。これって常識に反しているじゃありませんか。テレビや雑誌で「美味しいと大評判のお店」「ご褒美デザートのお店はコレ!」などと言われると真っ先に飛びつくのはむしろ女性の方ではありませんか。沖縄では男性ばかりクルマにのっているというデータや、男性ばかりファストフードを食べており女性は伝統食に固執しているということを確実に示すデータがあるならば見たいところです。もし仮にそのようなデータがあったとすれば、女性の肥満率が全国の2倍なのはなぜでしょう。
元「栄養と料理」の編集長、佐藤達夫氏は著書「食べモノの道理」の中で、「沖縄県の寿命が縮んだ」説を、各種統計データに基づき詳細に分析しています。その結論はというと、「食の欧米化によってむしろ沖縄は長寿県になった」という意外な結果でした。そして、長野県など他県に順位で追い抜かれたのは、他県も沖縄に遅れて洋風化が進んだためでしょうと指摘しています。ちなみにこの「食べモノの道理」は池上彰先生もご推薦されていることも、付け加えたいと思います。このブログをご覧の読者の皆様も、ぜひ一度、この本に目を通してください。
中川先生、申しあげにくい話ですが、先生の今回のコラムはどうも統計の読み違いではないかと思うのですが、いかがでしょうか。今までのコラムはとても楽しく読ませてもらっていました。次回からまたいつもの鋭い分析が復活することを、心より願っています。