今回の旅はボイスレコーダーを持って行ったんだよ。始めのうちは、旅の記録を残すつもりで、あえて独り言を試みていたんだが、道を間違えてあわてたり、上り坂がいよいよ厳しくなってきたりするうち、本当の独り言になってしまったんだ。人間追い込まれてくると、気取っちゃいられない。まさしく格好悪い独り言が出てくるんだよ。“みみ爺の独り言旅”と言った方がいいかな。
(高尾→道志みち起点)
8時45分に中央線高尾駅を出発したよ。路地を抜けて、間もなく都道47号に出たんだ。ものすごい車の量だったよ。驚いたねえ。大型ダンプが何台も続いて追い越して行くんだ。怖いねえ。ずっとこんな調子かねえ。
コンビニを目で探しながら、緊張気味で道の隅っこを走って行くよ。車の量もすごいが、爆音もすごい。背後から爆音が迫ってくるとハンドルを握る手に思わず力が入るよ。
しばらく走ってようやくコンビニを見つけることができたよ。レトルトのカレーとご飯は家から持ってきたから、ここでは水とアンパンを買うんだ。アンパンは絶対に買わなけりゃね。
それにしても今日はずいぶん曇っているよ。雨が降らなければいいがね。八幡宮前を過ぎてしばらくすると、道志みちに続く国道413号線に出たよ。ここもやっぱり車が多いね。道志みちに入ってからもこんな具合じゃいやだね。そうでないことを祈るよ。
城山町久保沢というところを過ぎると下りになったんだ。
ずっと下りだな。どこまで下るんだ。下るということは上りがあるんだよね。この下りは何だろうね。
下り坂の気持ちよさで、みみ爺は知らず知らずに鼻歌が出てしまったけれど、一抹の不安はあったんだね。ナビの音声案内が“方向転換して下さい”なんて言うんだ。道が違ってるのかなあ。
ここは何処だろう。ずいぶん下って来たね。あれっ、なんとか書いてあるね。小倉橋って書いてあるよ。ルートにはこんな橋はなかったはずだ。この橋を渡るのかなあ。わからないなあ。まいったね。道が違っちゃったね。こっちかなあ。どこで間違えたんだろう。
…こっちだ。ああ、危なく間違えるとこだった。フウ、危ないとこだった…ハアハア。小倉橋を渡っていたら、どこへ行っちゃうんだろう。こっちだ、こっちだ、ああ、危ないとこだった、フウ。
崖下に幅1メートルくらいの細い道が上へ続いていたんだ。どうやら上は車が走っているらしい。自転車を押して狭い急坂を上ると、元の道に出た。2キロほど無駄に走って、久保沢に戻ったよ。時間と体力のロスだ。気を付けよう。
30分くらい損したかな。まっ、そういうこともあるさ。ちょっとスピードを上げて取り返すか。ここをまっすぐ行くと城山ダムだ、きっと。
みみ爺ここでまた鼻歌が出たよ。やがて前方にダムの姿が見えてきたんだ。
城山公園の前に“三界萬霊塔”というのがあったよ。三界とは欲界、色界、無色界の三つの世界をいうらしいよ。この世に生きとし生けるもの全ての霊を供養するための塔なんだとさ。
もうすぐ10時だ。ああ、3時までに峠まで行けるかしら。名手橋パスしちゃおうか。でも、名手橋行きたいなあ。
…すごいなあ、車が、車が多いなあ。いやだねえ。おっと、もっと離れて追い越せよ。…こんなに車の多い国道はほんとにいやだなあ。
ロードがものすごいスピードで追い抜いて行ったよ。すごいなあ。…こっちは旅だからのんびりさ。
三井大橋渡ることに決めたよ。名手橋を絶対に渡るんだ。どこまで走れるかわかんないけど。…なんせ道志みちに入らないことにはなあ、まったく。…道志みちに辿り着かないことには“道志ようもない”なんて…ハアハア(これは上り坂で息が荒くなっている息づかい)。
あっ、見えた。やった。三井大橋だ。いいなあ。右側に吊り橋があるね、吊り橋の方を行こう。
あ~、津久井湖だ。ずいぶん曇ってるね~。…さて、ちょっと水を飲んでと。10時ジャスト。三井大橋だね。さあ、名手橋目指して出発だ。三井大橋を渡るよ。うわ~、きれいだねえ~、津久井湖。お~、いいねえ~。
あんまりのんびりしていられない。さて、名手橋まで行くよ。…上り坂だ。ずいぶん急だなあ。10パーセントかな、15パーセントかな。
…速いなあ、ロードが坂道を下って来た。下りでもペダルを回してるよ。すごいなあ。…こっちは、下りはペダルを休めてジェット・コースターだ。
なんとしても山中湖まで行くぞ、今日は。予定の3時まで5時間か。…まだまだ上るよ。この坂はどれくらい上るんだろな…ハアハア。道志みちはこんなに急な坂じゃないだろうなあ、これはかなり急な坂だよ。
お~、津久井湖が下に見えるよ。あれが名手橋だよ、きっと。
小鳥の声が聞こえるよ。ここは国道じゃないから車が来なくていいな。津久井湖の北側を走ってるんだね、ふ―ん。対岸の斜面は家がいっぱいだ。
左手の下の方に津久井湖を眺めながら、みみ爺はまた鼻歌を歌い出したよ。林道みたいな雰囲気の道を行くね。落石注意なんて書いてあるよ。…天気予報では、午前中は晴れマークだったけど、日差しが全然出て来ないんだ。
津久井湖があんなに下の方だ。いいね、この道。でも、けっこう急な上りだよ、こりゃあ。…おっ、あれが名手橋かな。あ~、ずいぶん下の方だね、津久井湖は。…かなり上って来たんだ。道志みちに入る前に、こんな上りで力を使い果たしちゃったらダメだなあ。どのくらい上るんだろな。国道走っていれば、もうとっくに道志みちの起点に着いているだろうなあ。でも、これはこれでいいんだ…ハアハア。かなりきつい坂だね、これは。15パーセント前後ありそうだ…ハアハア。…あの辺がピークだな、下が見えないのが残念だね。
水場があったよ。たしか片山右京さんのテレビ番組“自転車つれづれ旅日和”でこの場所が紹介されてたな。冷たい水だよ。気持ちがいいね。…水場でのんびりもしていられない。先を急ぐことにするよ。上った分一気に下っていく。
名手橋だ。ああ、いいなあ、名手橋だ。
名手橋は水面からの高さが180メートルくらいあるらしいよ。高い吊り橋だね。名手橋を渡ると、また国道まで上り坂だ。…そう言えば、名手橋の上から下の水面を覗くのを忘れてしまったね。惜しいことをした。でも、覗いたらさぞかし怖いだろうね。
再び国道に出たよ。相変わらずダンプカーが通るよ。…遅い車は登坂車線と標示してあるね。それでは遠慮なく。…ロードが追い抜いて行ったよ。立ちこぎでね。頑張ってるね。
あの辺がピークだね、ガンバレ、ガンバレ。これはまたきつい坂だね。でも、もうすぐ登坂車線が終わりだね。…よし、下りだ。
さあ、もうすぐ道志みち起点だ。へェ―、へェ―、疲れるねえ。ガンバレ、ガンバレ。413号か。あ~、やっと起点に辿り着いた。
10時45分か。ずいぶん遅くなったね。1時間で来られると思ったのに、2時間くらいかかっちゃったね。道を間違えたり、名手橋に寄り道したからな。…ここから道志みち、OK。
(道志みち起点→山伏峠)
車多いね、相変わらず。道志みちに入ったよ。ここから道志みちだ。ちょっと一口水を飲むか。ずいぶん走ったな。
…38キロ先だ。山伏峠まで38キロ。さあ頑張ろう。38キロ、3時間。無理だろうなあ。4時間かな。すると、やっぱり到着は3時、山伏峠に3時か、きついね。頑張ろう。
牧馬峠方面への分かれ道に着くころ、峠付近崖崩れと標示が出ていたよ。ゆっくり走ろうなんて書いてあった。今日は方向が違うから大丈夫だ。
何々、山中湖46キロ?へえ―。いきなり急勾配ですか。たしか両国橋を過ぎるとまた急勾配があるんだよなあ。ハアハア…よし、ガンバレ、ガンバレ。
あ~、左足のトゥークリップがかからないよ~、どうしようかね。まあいいか、このままで。…あそこがピークか、ああかかった。…さあ、下りだ。上っちゃ下り、上っちゃ下り、アップダウンが激しいね、この道は…ハアハア。
これも緩い上り坂なんだろうなあ。うん、確かに上ってるね。5パーセントくらいかね。まだ津久井町だってさ。津久井町青山か。
おや、また上りだ。上り坂だよ。よ~し、よいしょ、よいしょ。…だんだん道志みちらしくなってきたよ。でも曇ってるから山が煙ってるね。
暗くなるまでにはまだ6時間以上あるからな、大丈夫、大丈夫。フェ~、何々、前戸橋
?どの辺だろな。
下りは早いよ―。…でもまた上りで遅くなる。やんなっちゃうねえ。まあ道志みちに入る前よりは車が少ないからよかったよ。
梶野の交差点を過ぎてすぐの大きな橋だ。青野原大橋っていう、国道の青野原バイパスに架かっている橋で、神奈川県の橋100選に入っているんだってさ。
橋の上からの景色だよ。
昔、高校生の頃、みみ爺は東京の杉並に住んでいたんだ。朝4時頃、まだ暗いうちに家を出発して、国道20号線を走り、相模湖の手前の大垂水峠を恐ろしいダンプカーにおののきながら越え、大月を通り、河口湖まで行ったことがあるんだ。
今は高尾から道志みちを通って山中湖を目指している。昔と今と、どっちがきついだろうかね。そりゃあ今の方がきついだろうね。年も年だし、出発した時間も遅いしね。まっ、頑張ろうね。
あと何キロくらいだろう。峠まで33キロか。もう起点から5キロ走ったんだ。急な上りがあるんだよね、確か。両国橋を過ぎてからだったね。激坂らしいが、どのくらいの激坂なんだろうね。淡々とこのくらいの上り坂が続いているなら楽なんだけどなあ。
…ロードがすれ違いざま会釈してくれたね。なんだか嬉しいね。仲間と思ってくれたんだね。…おや、大きな橋が見えてきた。なんという橋だろ。西沢大橋っていうんだね。
おや、セブンイレブンだ。何か買うものないかな。…上り坂だね。緩いけど…えっ?けっこうきつくないかい、これ。フウフウ…これは唐沢橋か。橋が多いね、道志みちは。
松姫峠に上った時のことを考えれば、どうってことないよ。フウ、ヘエ、よいしょ、よいしょ、ハアハア。…この先両国橋まで連続雨量150ミリ、時間雨量30ミリで通行止めになります、か。…速度落とせ、この先カーブ連続、か。…これ以上落とさなくても、こっちは十分速度落ちてるよ…ハアハア。
いくらか下りかな。…ステンドグラス・ミニギャラリー、か。ふ~ん。ちょっと水飲みたいね…ハアハア。どこかで休憩しようね。両国橋まで頑張るかね。
今日はまだオートバイ軍団に会ってないね。平日はやっぱり少ないのかね。…ことの沢橋、か?ちょっとお尻が痛くなってきたかな。休んでないものね、ずっと。…また上り坂だよ…ハアハア、フウフウ。
ここはずいぶん道が狭くなっているね。…基本的にはもう下りは無いんだよ、ね。峠越えだから…ハアハア。でも曇っていて涼しいみたいだな。カンカン照りだったらどうしよう…フウフウ。…道志まで20キロか。このま沢?さかい沢?橋がほんとにたくさんあるね。ちょっとどこかで休憩しよっと。
境沢橋で休憩だよ。ペットボトルの水に、持ってきた粉末のアクエリヤスを入れたんだ。これを入れれば水分の吸収が良くなるはずだよ。…よく振ってと。あ~おいしい。あとでまた水を買わなきゃなあ。
11時30分か。道志までどのくらいかかるかなあ。まだまだだなあ。どこでお昼食べようかなあ。…観音沢橋か。
青根キャンプ場、青根ってあそこだ。大川原のあたりだ、へえ―、もう青根かあ。天神峠を走ったときに通ったとこだ。
2台の大型バイクが追い越して行ったよ。その後からロードもふっ飛んで行ったよ。きつくないのかねえ。この坂、けっこうきつい坂なんだけどなあ。…それにしても両国橋になかなか辿り着かないね。
おや、また急な上り坂が見えるよ。トンネルだね。この上りはまたきついね。平丸トンネルか…フウフウ、ハアハア。
山伏峠まで辿り着けるかなあ…ハアハア。あとどのくらいあるんだろう…28キロか。
ジープの後ろに乗せられた大きなシェパードが、みみ爺の顔を睨みながらけたたましく吠えて遠ざかって行ったよ。あ~びっくりした。車の上じゃなかったら喰い付かれていたかもしれないよ。いよいよ山が深くなって来たね。標高500メートルくらいだよ。
…最高地点?451メートルか。…神奈川県内道志みちの最高地点ということかね。…せっかく上って来たけど、また下りだ。下りは速いねえ~。あんな急な坂を上った後だから下るのか。もったいないねえ。あれだけ上ったのに…ずいぶん下るね。速いねえ~。下りは速いねえ~、いいねえ~。
天神峠の方へ行く道の入り口を過ぎたよ。そろそろ12時だ。峠まであと25キロだよ。そろそろ両国橋に着くはずだ。
道志渓谷キャンプ場か。キャンプ場が多いね。
神野川林道か?犬越路峠へ行く道だね。いつか走りたいなあ。…下りでまた時間を稼ぎま~す。速いなあ、下りはあ~。
両国橋だ~。
両国橋は相模国と甲斐国の国境だったためにこの名前がついたんだね。現在は神奈川県と山梨県の県境というわけだ。その両国橋からの眺めだよ。
両国橋には小さいけれど公衆トイレがあるんだ。12時だよ。トイレを済ませて、みみ爺はまた出発だ。
おっ、また上りだよ。急な上りって、このことかね。これはきつい…ハアハア。あと24キロか…ハアハア。月夜野との境か。ほら、見覚えがある景色だよ。あれが今通って来た両国橋だ。
両国橋からちょっと上って来たところからの渓谷の眺めだよ。
12時10分か…ガンバレ、ガンバレ。
自転車を乗り始めた頃、この道を走ってみたいって思ったんだよなあ。その時は山中湖からって考えてた。今は山中湖へ向かって上っている。きついなあ。この年でこんなきつい道を走ってるんだ、ねえ。でも、この道志みちはずっと憬れていたからね。昔から走ってみたいって思っていたんだもの。
オートバイが増えてきたね。…さあ、上り坂が終わって、今度は下り坂か。いいですねえ。下り坂は気持ちいい~。下り坂で時間を稼ごう…きもちいい~。
下った後はまた上り、これは当たり前のことです。下ったら上りです。
上りは時速4~5キロだよ。両国橋を渡って、道志川は左手に移ったんだね。…どこかでお昼にしなければね。できれば峠の手前でお昼にしたいんだけどなあ。道の駅辺りがいいなあ。道の駅に2時に着けるかなあ。
…ハアハア。渓谷がずいぶん下の方に見えるね。このピークを過ぎると野原林道の入り口だね、厳道峠の。山がきれいだな。
車が少なくっていいや。…水があったら買いましょう。…峠まであと22キロか…ハアハア…月夜野キャンプ場100メートル先、か。
また上りですか…フウフウ…へエ、下りだ。
ああ、野原林道入り口だあ。懐かしいなあ。先月走ったなあ。
さあ、お昼はどこにしようか。…あと20キロだ。山伏峠まで20キロだ。
野原の吊り橋だよ。一度に10人以上渡らないことって書いてあるね。
怖いねえ。揺れるよ、うわあ~、すごいねえ~。
渓谷きれいだなあ。…目が回る。
こっちは久保の吊り橋だよ。足元が鉄板だね。こちらの吊り橋もよく揺れるね。やっぱり10人以上はダメだそうだよ。みみ爺には、どちらかというと野原の吊り橋の方が怖かったね。足元が木だったしね。
さて、本当にどこまで行ったらお昼にするかな。目標は2時。
自動販売機を見つけたよ。水を買おう、120円か、よしよし。…次は道の駅まで頑張ろうか。…距離はどのくらいあるのかなあ。峠まで19キロか、まだまだ遠いいぞ。
リアディレーラーが調子悪いね。直そうかね。
トンネルだ。笹久根トンネルか…おや、また下りだあ。七滝入口。へえ―、ここが七滝かあ。でも、今日は寄らずに行こう。
大室橋1時ちょうどだ。上ちゃ下り、上ちゃ下りだ…ハアハア。
これは新柳瀬橋だよ。ロードが行くねえ。
旧柳瀬橋が下の方に見えるね。
道志の湯、あと5.7キロか。きついですねえ、上りが。…あ~、きれいだ。
道志みちなんだね、これが。…この辺はどのくらいの高度だろ。…550メートルくらいか。峠まであと650メートル上るのか、えらいことだなあ。
よし、行くか。
二里塚でお昼にすることにしたよ。
風もあまり無くて、カレーとご飯を温めるにはちょうどよかったよ。温まるまで15分くらいかかるんだ。そこで、朝コンビニで買った小倉アンパンを食べて待ったよ。アンパンはやっぱりおいしいなあ。アンパンはもう旅の定番だね。
う~ん、カレーもおいしいなあ。時間がないから、コーヒーは山中湖にしようかね。
バッグが少し軽くなった。でも…お腹に入っただけだ。
1時50分、二里塚を出発する。遠くに見える水色の橋は椿大橋だよ。
時間が気になるけれど、雄滝、雌滝を見て行くことにしたよ。
これが雄滝らしい。ザーッと一気に水が落ちている。
そしてこちらが雌滝だね。岩の表面を水がしとやかに伝い落ちているよ。
1時57分出発。…3時半かな、それとも4時かなあ、山伏峠には。下って来たロードの青年がまた挨拶してくれたよ。なんだか嬉しい。
…太ももが痛いね、どうしたんだろね。…太ももの内側が痛い、なんで痛いんだ?まだ15キロもあるよ。15キロ走り切れるかなあ。…あっ、左の太ももが攣りそう…イテテテテ、攣るかしら。
道志小学校の前まで来て、左足の太ももが攣りそうになったんだ。
厳道峠で遭った先生や子供たちは授業中かな。
痛いよ~。頑張ろうな。峠まで行けるかしらん。峠まで15キロか…フウフウ。
三里塚の辺りにくると、道志川が道のすぐそばに近付いてきたよ。
ところが、また左足が痛くなってきたんだ。とうとう道志村の役場の前まで来た時、いよいよ筋肉が攣り始めたようだ。自転車から降りるのもままならないほどの痛みだ。
イタタタタッ。叩いてみよう…筋肉が硬く膨らんでいるよ。足を伸ばすと強烈に痛いね。少し休もう。
峠まで行けるかなあ。…少しよくなったかな、すこし走ったらまた休もう…まだ14キロもあるからなあ。頑張ろうね…頑張るか。
道志川がこんなに近くになったよ。
道志の湯だ。
こんな橋があるよ。雰囲気があるね。
釣りをしている人だね。
戦意喪失…ハアハア。…12キロだよ、峠まで12キロだ。…頑張ろうね、頑張れるかなあ。また足が攣りそう…イテテテテッ。右足も攣りだした。こりゃ無理かね。膝を伸ばすと痛いよ。もうそろそろ限界かな。
…しょうがない、ちょっと歩くか。
富士山が見えてきたのに…ハアハア。富士山が見えてきたよ。それなのに足が…クソッ、峠までもうすぐなのになあ。
ハアハア…またちょっと歩こう。歩けば少し治るかもしれない。
あと12キロだよ。3時間、歩いても3時間だ。
また痛くなったら歩こう…ハアハア。…あと11キロか。標高はどのくらいだろなあ…645メートルか、まだ。
あっ、イタタタタッ、右の足も攣ってきたね。
峠まで行けば、なんとかなるんだよ。
あと2キロで“道の駅道志”だ。何とか辿り着けそうだね、だましだまし…ハアハア。
四里塚だよ。
四里塚、五里塚、六里塚…まだまだだなあ。もうずっと上りなんだ。叩いて筋肉をほぐそう。…さあ、頑張ろか…ハアハア。
道志みちの“道の駅”だよ。
あ~、2時50分だ。だましだましここまで来た。飲み物欲しいなあ。
さあ、また頑張るか。
よっこらせっと…歩いたって2時間だ。歩いたって2時間で行けるぞ。峠まで行けばなんとかなる。よし歩こう。
あと7.4キロ… ハアハア。休憩しようか、無茶するのはよそう。
立ちこぎもありだね。立ちこぎは、みみ爺の偏見でなんか好きじゃないんだけど、背に腹は代えられない。7キロか…ハアハア。河鹿が鳴いてる…ハアハア。
きれいな景色だねえ。これで足が痛くなければいいんだがね。峠まであと6.5キロだ。こんな風景が左手に続くよ。
これから最後に急な坂が来るんだ、どうしようかな…いざとなったら歩こうね。
立ちこぎで何とか進めるね。立って疲れたら座ってこぐ、そしてまた立ってこぐ。あと5.9キロだよ…ちょっと休憩。
5.7キロか、あと。キツイねえ。
ちょっと歩こう、また。歩いてるうちに少し痛みがとれるだろう。5.7キロだから歩いたって2時間はかからない。歩け歩け、まいった、まいった。
高尾を出発してからもう6時間が経つのか…すこし走るか。立ってこぐよ、ヨイサ、ホイサ。立ってこぐといくらか楽だね。使う筋肉が違うんだね。
…5キロ、峠まであと5キロだ、ガンバレ、ガンバレ。
峠まであと4.8キロだ…ハアハア。くたびれた、ハア。
峠まであと4.6キロだ、ガンバレ、ガンバレ。
道志川がだんだん細くなってきたよ。新緑がきれいだなあ。
3時20分か…何時までに上れるかなあ。よっこらしょ、ガンバレ、ガンバレ。
辿り着いて富士さん見たいなあ。4時までに峠にたどり着けるかなあ。今までの自転車旅の中で一番厳しいね。このダラダラ坂が応えること応えること。
峠に着けば、あとは上りがないからなあ。あと4.3キロ…ハアハア。
…あと4.2キロ、ハア、きつい。歩こう、あと4.1キロ。歩こう、キツイから。
とりあえず峠まで行かないと、そうしないと帰れないから。やあ、キツイなあ。
自転車を止めて休んでいると、
「どっから来たの?」
と土地の人。
「若い人なら、もう行って帰ってくるんだけどね。ほんとにきつい」
「いくつだね?」
「もう64ですよ」
「じゃあ同じだ」
「何年生まれだい?」
「24年です」
「おれは23年生まれ」
「もう、ダウンしたらどうしようと思ってね」
「これからもっと勾配がきつくなるよ」
「バスがあるんですよね」
「あまり走ってないね」
「途中で足が攣っちゃってね」
「お茶でも飲んで行きなよ」
「富士吉田までじゃ、車でも30分はかかる」
「峠まで行けばね」
「そう、あとは下りだからね。だけど峠までがきつくなる。ここからがきついよ」
「いざとなったら歩きます」
「お茶、ごちそうさま」
冷たいお茶をごちそうになったよ。よし、頑張って行くぞ。頑張って行こう、峠まで。
あと4キロか、遠いいな。…ハアハア…ああきつい。
…あと3.5キロだけど、ちょっときついな、この勾配は。…歩いて上ろう、歩いて上るぞ。3.5キロ…ハアハア。
ダメだこりゃ、足が攣りそうだ。
あと3.1キロ、4時半には着けるかなあ。
ハア、きつくなってきた。イタタタタ…あと2.8キロできついのは終わりだな。厳しいぞ、ここからが。
またすこしこいでみるか、よいしょっと。
ああ、あと2.4キロ。歩けない距離じゃない…ハアハア。もうすぐ4時だよ。峠に辿り着くかね、4時に。
…よし、またこぐか…ハアハア…あと2キロ。
さあ、また痛くなってきたぞ、歩こう。筋肉の限界だね。あと2キロだけど、両足とも攣りだしたよ…イタタタタ。
乗ってペダルをこぎたいけど、やめておこう。ペダルをこぐと痛いから歩こう。あと1.8キロだ。どうってことないよ。よし、頑張る、頑張る。
…4時半には着くな。あとは下りだ、富士吉田まで。…6時に着けるかなあ、富士吉田に。峠に着けばあとは速いんだよ…ほんとにきついな、あと1.7キロか。
太もも、歩いてても痛いな。峠まで辿り着けるかなあ。辿り着けば、あとは何とかなるんだけどな。
4時。1.5キロ。あと1.5キロか。もう少しだ。
足が重い。自分の足じゃないみたいだ。足がブラブラしてるみたいだ。時計の振子みたいに、勝手にかわるがわる前に振られているようだ。きついな、こりゃあ。休憩したいね、どこかで。足が完全に売切れだよ、本当に。
あと1.3キロで足が動かなくなってきたよ。ああ、イタタタタ。
ちょっと休憩だ、ここで。なんか座り心地悪いな。
あと1キロ、あと1キロか。長い長い上りだね、こりゃ。あと少しだ。もう、へろへろだよ。もう筋肉がダメだね。もう上れないよ。
すこし勾配が緩くなってきたから、こぐか。もうちょい、ガンバレ、ガンバレ…ダメだ、足が攣りそうだ~。
道志水源林の石碑だよ。
あと750メートル、歩きますよ~。きつい、きつい。
この辺りが道志川の源流付近だな。
4時20分だ。雨が降らなくて良かったよ。あと550メートルか。もうすぐだな。よし、頑張る、頑張る。
ちょっとペダルをこいでも攣っちゃうから、もうダメなんだ。こぎたいなあ。気持ちはこぎたいんだけど、足がなあ。
ペダルをこぎたい。でもダメなんだよ。足が言うことをきかないんだ。ペダルを踏もうとすると足が強烈に痛いんだ…このくらいの坂、上れるんだけどなあ。
…450メートル。アア、ヒイ…大幅に予定時間が過ぎたね。…あと、350メートル、ガンバレ、ガンバレ。
こんな軽い上りだよ、こいでみよう。
…250メートル…150メートル。
ああ、トンネルが見えた。痛い、足が攣ってる…イテテテテ。
足が攣ってるよ。…でも、峠に着いてよかったなあ。
4時30分だ。ああ、山伏トンネルだよ。やっとのことで辿り着いたよ。よく頑張った。ああ、よかった。あとは下りだ~。
(山伏峠→大月)
ここからは山中湖村だ。さあ、下りますよ~。ちょっと寒いね。一枚上に着よう。
さあ、山中湖へ一気に下るよ~。やった~。寒い~。あ~、富士さん見えた。や~、よかったなあ。
山中湖だよ。
サイクリングロードだ。もうだいぶ薄暗いね。
きれいな富士山だよ。まるで水墨画のような構図だね。
おみごと。
すばらしい富士山を見た後、帰途についたよ。
富士吉田駅(富士山駅)から電車に乗るつもりだったけど、ずっと下りなのでこのまま大月まで行くことにしたんだ。
大月までひたすら下ったんだ。下りだから足の痛みは全然なかったよ。最高のダウンヒルだったよ。
大月駅、6時30分。無事に着いたよ。みみ爺、お疲れさん。
<旅の反省>
高尾から大月までなんだかんだ98キロ走ったわけだ。峠越えの98キロは、みみ爺にはちょっと無茶な計画だったよ。時間を気にし過ぎて、休憩や、水分の取り方が不十分になってしまったんだ。そのために景色をじっくりと楽しむことができなかったし、峠まであとわずかのところで両足が攣りだしてしまったしね。次の旅では、もう少しゆっくり、のんびり走れる計画にしよう。
道志みちを旅するなら、富士吉田側からスタートして、景色を楽しむのがいいね。絶対にその方がいいよ。もっとも、苦しんだ後の富士山との出会いは、それはそれですごくいいんだけどね…
(高尾→道志みち起点)
8時45分に中央線高尾駅を出発したよ。路地を抜けて、間もなく都道47号に出たんだ。ものすごい車の量だったよ。驚いたねえ。大型ダンプが何台も続いて追い越して行くんだ。怖いねえ。ずっとこんな調子かねえ。
コンビニを目で探しながら、緊張気味で道の隅っこを走って行くよ。車の量もすごいが、爆音もすごい。背後から爆音が迫ってくるとハンドルを握る手に思わず力が入るよ。
しばらく走ってようやくコンビニを見つけることができたよ。レトルトのカレーとご飯は家から持ってきたから、ここでは水とアンパンを買うんだ。アンパンは絶対に買わなけりゃね。
それにしても今日はずいぶん曇っているよ。雨が降らなければいいがね。八幡宮前を過ぎてしばらくすると、道志みちに続く国道413号線に出たよ。ここもやっぱり車が多いね。道志みちに入ってからもこんな具合じゃいやだね。そうでないことを祈るよ。
城山町久保沢というところを過ぎると下りになったんだ。
ずっと下りだな。どこまで下るんだ。下るということは上りがあるんだよね。この下りは何だろうね。
下り坂の気持ちよさで、みみ爺は知らず知らずに鼻歌が出てしまったけれど、一抹の不安はあったんだね。ナビの音声案内が“方向転換して下さい”なんて言うんだ。道が違ってるのかなあ。
ここは何処だろう。ずいぶん下って来たね。あれっ、なんとか書いてあるね。小倉橋って書いてあるよ。ルートにはこんな橋はなかったはずだ。この橋を渡るのかなあ。わからないなあ。まいったね。道が違っちゃったね。こっちかなあ。どこで間違えたんだろう。
…こっちだ。ああ、危なく間違えるとこだった。フウ、危ないとこだった…ハアハア。小倉橋を渡っていたら、どこへ行っちゃうんだろう。こっちだ、こっちだ、ああ、危ないとこだった、フウ。
崖下に幅1メートルくらいの細い道が上へ続いていたんだ。どうやら上は車が走っているらしい。自転車を押して狭い急坂を上ると、元の道に出た。2キロほど無駄に走って、久保沢に戻ったよ。時間と体力のロスだ。気を付けよう。
30分くらい損したかな。まっ、そういうこともあるさ。ちょっとスピードを上げて取り返すか。ここをまっすぐ行くと城山ダムだ、きっと。
みみ爺ここでまた鼻歌が出たよ。やがて前方にダムの姿が見えてきたんだ。
城山公園の前に“三界萬霊塔”というのがあったよ。三界とは欲界、色界、無色界の三つの世界をいうらしいよ。この世に生きとし生けるもの全ての霊を供養するための塔なんだとさ。
もうすぐ10時だ。ああ、3時までに峠まで行けるかしら。名手橋パスしちゃおうか。でも、名手橋行きたいなあ。
…すごいなあ、車が、車が多いなあ。いやだねえ。おっと、もっと離れて追い越せよ。…こんなに車の多い国道はほんとにいやだなあ。
ロードがものすごいスピードで追い抜いて行ったよ。すごいなあ。…こっちは旅だからのんびりさ。
三井大橋渡ることに決めたよ。名手橋を絶対に渡るんだ。どこまで走れるかわかんないけど。…なんせ道志みちに入らないことにはなあ、まったく。…道志みちに辿り着かないことには“道志ようもない”なんて…ハアハア(これは上り坂で息が荒くなっている息づかい)。
あっ、見えた。やった。三井大橋だ。いいなあ。右側に吊り橋があるね、吊り橋の方を行こう。
あ~、津久井湖だ。ずいぶん曇ってるね~。…さて、ちょっと水を飲んでと。10時ジャスト。三井大橋だね。さあ、名手橋目指して出発だ。三井大橋を渡るよ。うわ~、きれいだねえ~、津久井湖。お~、いいねえ~。
あんまりのんびりしていられない。さて、名手橋まで行くよ。…上り坂だ。ずいぶん急だなあ。10パーセントかな、15パーセントかな。
…速いなあ、ロードが坂道を下って来た。下りでもペダルを回してるよ。すごいなあ。…こっちは、下りはペダルを休めてジェット・コースターだ。
なんとしても山中湖まで行くぞ、今日は。予定の3時まで5時間か。…まだまだ上るよ。この坂はどれくらい上るんだろな…ハアハア。道志みちはこんなに急な坂じゃないだろうなあ、これはかなり急な坂だよ。
お~、津久井湖が下に見えるよ。あれが名手橋だよ、きっと。
小鳥の声が聞こえるよ。ここは国道じゃないから車が来なくていいな。津久井湖の北側を走ってるんだね、ふ―ん。対岸の斜面は家がいっぱいだ。
左手の下の方に津久井湖を眺めながら、みみ爺はまた鼻歌を歌い出したよ。林道みたいな雰囲気の道を行くね。落石注意なんて書いてあるよ。…天気予報では、午前中は晴れマークだったけど、日差しが全然出て来ないんだ。
津久井湖があんなに下の方だ。いいね、この道。でも、けっこう急な上りだよ、こりゃあ。…おっ、あれが名手橋かな。あ~、ずいぶん下の方だね、津久井湖は。…かなり上って来たんだ。道志みちに入る前に、こんな上りで力を使い果たしちゃったらダメだなあ。どのくらい上るんだろな。国道走っていれば、もうとっくに道志みちの起点に着いているだろうなあ。でも、これはこれでいいんだ…ハアハア。かなりきつい坂だね、これは。15パーセント前後ありそうだ…ハアハア。…あの辺がピークだな、下が見えないのが残念だね。
水場があったよ。たしか片山右京さんのテレビ番組“自転車つれづれ旅日和”でこの場所が紹介されてたな。冷たい水だよ。気持ちがいいね。…水場でのんびりもしていられない。先を急ぐことにするよ。上った分一気に下っていく。
名手橋だ。ああ、いいなあ、名手橋だ。
名手橋は水面からの高さが180メートルくらいあるらしいよ。高い吊り橋だね。名手橋を渡ると、また国道まで上り坂だ。…そう言えば、名手橋の上から下の水面を覗くのを忘れてしまったね。惜しいことをした。でも、覗いたらさぞかし怖いだろうね。
再び国道に出たよ。相変わらずダンプカーが通るよ。…遅い車は登坂車線と標示してあるね。それでは遠慮なく。…ロードが追い抜いて行ったよ。立ちこぎでね。頑張ってるね。
あの辺がピークだね、ガンバレ、ガンバレ。これはまたきつい坂だね。でも、もうすぐ登坂車線が終わりだね。…よし、下りだ。
さあ、もうすぐ道志みち起点だ。へェ―、へェ―、疲れるねえ。ガンバレ、ガンバレ。413号か。あ~、やっと起点に辿り着いた。
10時45分か。ずいぶん遅くなったね。1時間で来られると思ったのに、2時間くらいかかっちゃったね。道を間違えたり、名手橋に寄り道したからな。…ここから道志みち、OK。
(道志みち起点→山伏峠)
車多いね、相変わらず。道志みちに入ったよ。ここから道志みちだ。ちょっと一口水を飲むか。ずいぶん走ったな。
…38キロ先だ。山伏峠まで38キロ。さあ頑張ろう。38キロ、3時間。無理だろうなあ。4時間かな。すると、やっぱり到着は3時、山伏峠に3時か、きついね。頑張ろう。
牧馬峠方面への分かれ道に着くころ、峠付近崖崩れと標示が出ていたよ。ゆっくり走ろうなんて書いてあった。今日は方向が違うから大丈夫だ。
何々、山中湖46キロ?へえ―。いきなり急勾配ですか。たしか両国橋を過ぎるとまた急勾配があるんだよなあ。ハアハア…よし、ガンバレ、ガンバレ。
あ~、左足のトゥークリップがかからないよ~、どうしようかね。まあいいか、このままで。…あそこがピークか、ああかかった。…さあ、下りだ。上っちゃ下り、上っちゃ下り、アップダウンが激しいね、この道は…ハアハア。
これも緩い上り坂なんだろうなあ。うん、確かに上ってるね。5パーセントくらいかね。まだ津久井町だってさ。津久井町青山か。
おや、また上りだ。上り坂だよ。よ~し、よいしょ、よいしょ。…だんだん道志みちらしくなってきたよ。でも曇ってるから山が煙ってるね。
暗くなるまでにはまだ6時間以上あるからな、大丈夫、大丈夫。フェ~、何々、前戸橋
?どの辺だろな。
下りは早いよ―。…でもまた上りで遅くなる。やんなっちゃうねえ。まあ道志みちに入る前よりは車が少ないからよかったよ。
梶野の交差点を過ぎてすぐの大きな橋だ。青野原大橋っていう、国道の青野原バイパスに架かっている橋で、神奈川県の橋100選に入っているんだってさ。
橋の上からの景色だよ。
昔、高校生の頃、みみ爺は東京の杉並に住んでいたんだ。朝4時頃、まだ暗いうちに家を出発して、国道20号線を走り、相模湖の手前の大垂水峠を恐ろしいダンプカーにおののきながら越え、大月を通り、河口湖まで行ったことがあるんだ。
今は高尾から道志みちを通って山中湖を目指している。昔と今と、どっちがきついだろうかね。そりゃあ今の方がきついだろうね。年も年だし、出発した時間も遅いしね。まっ、頑張ろうね。
あと何キロくらいだろう。峠まで33キロか。もう起点から5キロ走ったんだ。急な上りがあるんだよね、確か。両国橋を過ぎてからだったね。激坂らしいが、どのくらいの激坂なんだろうね。淡々とこのくらいの上り坂が続いているなら楽なんだけどなあ。
…ロードがすれ違いざま会釈してくれたね。なんだか嬉しいね。仲間と思ってくれたんだね。…おや、大きな橋が見えてきた。なんという橋だろ。西沢大橋っていうんだね。
おや、セブンイレブンだ。何か買うものないかな。…上り坂だね。緩いけど…えっ?けっこうきつくないかい、これ。フウフウ…これは唐沢橋か。橋が多いね、道志みちは。
松姫峠に上った時のことを考えれば、どうってことないよ。フウ、ヘエ、よいしょ、よいしょ、ハアハア。…この先両国橋まで連続雨量150ミリ、時間雨量30ミリで通行止めになります、か。…速度落とせ、この先カーブ連続、か。…これ以上落とさなくても、こっちは十分速度落ちてるよ…ハアハア。
いくらか下りかな。…ステンドグラス・ミニギャラリー、か。ふ~ん。ちょっと水飲みたいね…ハアハア。どこかで休憩しようね。両国橋まで頑張るかね。
今日はまだオートバイ軍団に会ってないね。平日はやっぱり少ないのかね。…ことの沢橋、か?ちょっとお尻が痛くなってきたかな。休んでないものね、ずっと。…また上り坂だよ…ハアハア、フウフウ。
ここはずいぶん道が狭くなっているね。…基本的にはもう下りは無いんだよ、ね。峠越えだから…ハアハア。でも曇っていて涼しいみたいだな。カンカン照りだったらどうしよう…フウフウ。…道志まで20キロか。このま沢?さかい沢?橋がほんとにたくさんあるね。ちょっとどこかで休憩しよっと。
境沢橋で休憩だよ。ペットボトルの水に、持ってきた粉末のアクエリヤスを入れたんだ。これを入れれば水分の吸収が良くなるはずだよ。…よく振ってと。あ~おいしい。あとでまた水を買わなきゃなあ。
11時30分か。道志までどのくらいかかるかなあ。まだまだだなあ。どこでお昼食べようかなあ。…観音沢橋か。
青根キャンプ場、青根ってあそこだ。大川原のあたりだ、へえ―、もう青根かあ。天神峠を走ったときに通ったとこだ。
2台の大型バイクが追い越して行ったよ。その後からロードもふっ飛んで行ったよ。きつくないのかねえ。この坂、けっこうきつい坂なんだけどなあ。…それにしても両国橋になかなか辿り着かないね。
おや、また急な上り坂が見えるよ。トンネルだね。この上りはまたきついね。平丸トンネルか…フウフウ、ハアハア。
山伏峠まで辿り着けるかなあ…ハアハア。あとどのくらいあるんだろう…28キロか。
ジープの後ろに乗せられた大きなシェパードが、みみ爺の顔を睨みながらけたたましく吠えて遠ざかって行ったよ。あ~びっくりした。車の上じゃなかったら喰い付かれていたかもしれないよ。いよいよ山が深くなって来たね。標高500メートルくらいだよ。
…最高地点?451メートルか。…神奈川県内道志みちの最高地点ということかね。…せっかく上って来たけど、また下りだ。下りは速いねえ~。あんな急な坂を上った後だから下るのか。もったいないねえ。あれだけ上ったのに…ずいぶん下るね。速いねえ~。下りは速いねえ~、いいねえ~。
天神峠の方へ行く道の入り口を過ぎたよ。そろそろ12時だ。峠まであと25キロだよ。そろそろ両国橋に着くはずだ。
道志渓谷キャンプ場か。キャンプ場が多いね。
神野川林道か?犬越路峠へ行く道だね。いつか走りたいなあ。…下りでまた時間を稼ぎま~す。速いなあ、下りはあ~。
両国橋だ~。
両国橋は相模国と甲斐国の国境だったためにこの名前がついたんだね。現在は神奈川県と山梨県の県境というわけだ。その両国橋からの眺めだよ。
両国橋には小さいけれど公衆トイレがあるんだ。12時だよ。トイレを済ませて、みみ爺はまた出発だ。
おっ、また上りだよ。急な上りって、このことかね。これはきつい…ハアハア。あと24キロか…ハアハア。月夜野との境か。ほら、見覚えがある景色だよ。あれが今通って来た両国橋だ。
両国橋からちょっと上って来たところからの渓谷の眺めだよ。
12時10分か…ガンバレ、ガンバレ。
自転車を乗り始めた頃、この道を走ってみたいって思ったんだよなあ。その時は山中湖からって考えてた。今は山中湖へ向かって上っている。きついなあ。この年でこんなきつい道を走ってるんだ、ねえ。でも、この道志みちはずっと憬れていたからね。昔から走ってみたいって思っていたんだもの。
オートバイが増えてきたね。…さあ、上り坂が終わって、今度は下り坂か。いいですねえ。下り坂は気持ちいい~。下り坂で時間を稼ごう…きもちいい~。
下った後はまた上り、これは当たり前のことです。下ったら上りです。
上りは時速4~5キロだよ。両国橋を渡って、道志川は左手に移ったんだね。…どこかでお昼にしなければね。できれば峠の手前でお昼にしたいんだけどなあ。道の駅辺りがいいなあ。道の駅に2時に着けるかなあ。
…ハアハア。渓谷がずいぶん下の方に見えるね。このピークを過ぎると野原林道の入り口だね、厳道峠の。山がきれいだな。
車が少なくっていいや。…水があったら買いましょう。…峠まであと22キロか…ハアハア…月夜野キャンプ場100メートル先、か。
また上りですか…フウフウ…へエ、下りだ。
ああ、野原林道入り口だあ。懐かしいなあ。先月走ったなあ。
さあ、お昼はどこにしようか。…あと20キロだ。山伏峠まで20キロだ。
野原の吊り橋だよ。一度に10人以上渡らないことって書いてあるね。
怖いねえ。揺れるよ、うわあ~、すごいねえ~。
渓谷きれいだなあ。…目が回る。
こっちは久保の吊り橋だよ。足元が鉄板だね。こちらの吊り橋もよく揺れるね。やっぱり10人以上はダメだそうだよ。みみ爺には、どちらかというと野原の吊り橋の方が怖かったね。足元が木だったしね。
さて、本当にどこまで行ったらお昼にするかな。目標は2時。
自動販売機を見つけたよ。水を買おう、120円か、よしよし。…次は道の駅まで頑張ろうか。…距離はどのくらいあるのかなあ。峠まで19キロか、まだまだ遠いいぞ。
リアディレーラーが調子悪いね。直そうかね。
トンネルだ。笹久根トンネルか…おや、また下りだあ。七滝入口。へえ―、ここが七滝かあ。でも、今日は寄らずに行こう。
大室橋1時ちょうどだ。上ちゃ下り、上ちゃ下りだ…ハアハア。
これは新柳瀬橋だよ。ロードが行くねえ。
旧柳瀬橋が下の方に見えるね。
道志の湯、あと5.7キロか。きついですねえ、上りが。…あ~、きれいだ。
道志みちなんだね、これが。…この辺はどのくらいの高度だろ。…550メートルくらいか。峠まであと650メートル上るのか、えらいことだなあ。
よし、行くか。
二里塚でお昼にすることにしたよ。
風もあまり無くて、カレーとご飯を温めるにはちょうどよかったよ。温まるまで15分くらいかかるんだ。そこで、朝コンビニで買った小倉アンパンを食べて待ったよ。アンパンはやっぱりおいしいなあ。アンパンはもう旅の定番だね。
う~ん、カレーもおいしいなあ。時間がないから、コーヒーは山中湖にしようかね。
バッグが少し軽くなった。でも…お腹に入っただけだ。
1時50分、二里塚を出発する。遠くに見える水色の橋は椿大橋だよ。
時間が気になるけれど、雄滝、雌滝を見て行くことにしたよ。
これが雄滝らしい。ザーッと一気に水が落ちている。
そしてこちらが雌滝だね。岩の表面を水がしとやかに伝い落ちているよ。
1時57分出発。…3時半かな、それとも4時かなあ、山伏峠には。下って来たロードの青年がまた挨拶してくれたよ。なんだか嬉しい。
…太ももが痛いね、どうしたんだろね。…太ももの内側が痛い、なんで痛いんだ?まだ15キロもあるよ。15キロ走り切れるかなあ。…あっ、左の太ももが攣りそう…イテテテテ、攣るかしら。
道志小学校の前まで来て、左足の太ももが攣りそうになったんだ。
厳道峠で遭った先生や子供たちは授業中かな。
痛いよ~。頑張ろうな。峠まで行けるかしらん。峠まで15キロか…フウフウ。
三里塚の辺りにくると、道志川が道のすぐそばに近付いてきたよ。
ところが、また左足が痛くなってきたんだ。とうとう道志村の役場の前まで来た時、いよいよ筋肉が攣り始めたようだ。自転車から降りるのもままならないほどの痛みだ。
イタタタタッ。叩いてみよう…筋肉が硬く膨らんでいるよ。足を伸ばすと強烈に痛いね。少し休もう。
峠まで行けるかなあ。…少しよくなったかな、すこし走ったらまた休もう…まだ14キロもあるからなあ。頑張ろうね…頑張るか。
道志川がこんなに近くになったよ。
道志の湯だ。
こんな橋があるよ。雰囲気があるね。
釣りをしている人だね。
戦意喪失…ハアハア。…12キロだよ、峠まで12キロだ。…頑張ろうね、頑張れるかなあ。また足が攣りそう…イテテテテッ。右足も攣りだした。こりゃ無理かね。膝を伸ばすと痛いよ。もうそろそろ限界かな。
…しょうがない、ちょっと歩くか。
富士山が見えてきたのに…ハアハア。富士山が見えてきたよ。それなのに足が…クソッ、峠までもうすぐなのになあ。
ハアハア…またちょっと歩こう。歩けば少し治るかもしれない。
あと12キロだよ。3時間、歩いても3時間だ。
また痛くなったら歩こう…ハアハア。…あと11キロか。標高はどのくらいだろなあ…645メートルか、まだ。
あっ、イタタタタッ、右の足も攣ってきたね。
峠まで行けば、なんとかなるんだよ。
あと2キロで“道の駅道志”だ。何とか辿り着けそうだね、だましだまし…ハアハア。
四里塚だよ。
四里塚、五里塚、六里塚…まだまだだなあ。もうずっと上りなんだ。叩いて筋肉をほぐそう。…さあ、頑張ろか…ハアハア。
道志みちの“道の駅”だよ。
あ~、2時50分だ。だましだましここまで来た。飲み物欲しいなあ。
さあ、また頑張るか。
よっこらせっと…歩いたって2時間だ。歩いたって2時間で行けるぞ。峠まで行けばなんとかなる。よし歩こう。
あと7.4キロ… ハアハア。休憩しようか、無茶するのはよそう。
立ちこぎもありだね。立ちこぎは、みみ爺の偏見でなんか好きじゃないんだけど、背に腹は代えられない。7キロか…ハアハア。河鹿が鳴いてる…ハアハア。
きれいな景色だねえ。これで足が痛くなければいいんだがね。峠まであと6.5キロだ。こんな風景が左手に続くよ。
これから最後に急な坂が来るんだ、どうしようかな…いざとなったら歩こうね。
立ちこぎで何とか進めるね。立って疲れたら座ってこぐ、そしてまた立ってこぐ。あと5.9キロだよ…ちょっと休憩。
5.7キロか、あと。キツイねえ。
ちょっと歩こう、また。歩いてるうちに少し痛みがとれるだろう。5.7キロだから歩いたって2時間はかからない。歩け歩け、まいった、まいった。
高尾を出発してからもう6時間が経つのか…すこし走るか。立ってこぐよ、ヨイサ、ホイサ。立ってこぐといくらか楽だね。使う筋肉が違うんだね。
…5キロ、峠まであと5キロだ、ガンバレ、ガンバレ。
峠まであと4.8キロだ…ハアハア。くたびれた、ハア。
峠まであと4.6キロだ、ガンバレ、ガンバレ。
道志川がだんだん細くなってきたよ。新緑がきれいだなあ。
3時20分か…何時までに上れるかなあ。よっこらしょ、ガンバレ、ガンバレ。
辿り着いて富士さん見たいなあ。4時までに峠にたどり着けるかなあ。今までの自転車旅の中で一番厳しいね。このダラダラ坂が応えること応えること。
峠に着けば、あとは上りがないからなあ。あと4.3キロ…ハアハア。
…あと4.2キロ、ハア、きつい。歩こう、あと4.1キロ。歩こう、キツイから。
とりあえず峠まで行かないと、そうしないと帰れないから。やあ、キツイなあ。
自転車を止めて休んでいると、
「どっから来たの?」
と土地の人。
「若い人なら、もう行って帰ってくるんだけどね。ほんとにきつい」
「いくつだね?」
「もう64ですよ」
「じゃあ同じだ」
「何年生まれだい?」
「24年です」
「おれは23年生まれ」
「もう、ダウンしたらどうしようと思ってね」
「これからもっと勾配がきつくなるよ」
「バスがあるんですよね」
「あまり走ってないね」
「途中で足が攣っちゃってね」
「お茶でも飲んで行きなよ」
「富士吉田までじゃ、車でも30分はかかる」
「峠まで行けばね」
「そう、あとは下りだからね。だけど峠までがきつくなる。ここからがきついよ」
「いざとなったら歩きます」
「お茶、ごちそうさま」
冷たいお茶をごちそうになったよ。よし、頑張って行くぞ。頑張って行こう、峠まで。
あと4キロか、遠いいな。…ハアハア…ああきつい。
…あと3.5キロだけど、ちょっときついな、この勾配は。…歩いて上ろう、歩いて上るぞ。3.5キロ…ハアハア。
ダメだこりゃ、足が攣りそうだ。
あと3.1キロ、4時半には着けるかなあ。
ハア、きつくなってきた。イタタタタ…あと2.8キロできついのは終わりだな。厳しいぞ、ここからが。
またすこしこいでみるか、よいしょっと。
ああ、あと2.4キロ。歩けない距離じゃない…ハアハア。もうすぐ4時だよ。峠に辿り着くかね、4時に。
…よし、またこぐか…ハアハア…あと2キロ。
さあ、また痛くなってきたぞ、歩こう。筋肉の限界だね。あと2キロだけど、両足とも攣りだしたよ…イタタタタ。
乗ってペダルをこぎたいけど、やめておこう。ペダルをこぐと痛いから歩こう。あと1.8キロだ。どうってことないよ。よし、頑張る、頑張る。
…4時半には着くな。あとは下りだ、富士吉田まで。…6時に着けるかなあ、富士吉田に。峠に着けばあとは速いんだよ…ほんとにきついな、あと1.7キロか。
太もも、歩いてても痛いな。峠まで辿り着けるかなあ。辿り着けば、あとは何とかなるんだけどな。
4時。1.5キロ。あと1.5キロか。もう少しだ。
足が重い。自分の足じゃないみたいだ。足がブラブラしてるみたいだ。時計の振子みたいに、勝手にかわるがわる前に振られているようだ。きついな、こりゃあ。休憩したいね、どこかで。足が完全に売切れだよ、本当に。
あと1.3キロで足が動かなくなってきたよ。ああ、イタタタタ。
ちょっと休憩だ、ここで。なんか座り心地悪いな。
あと1キロ、あと1キロか。長い長い上りだね、こりゃ。あと少しだ。もう、へろへろだよ。もう筋肉がダメだね。もう上れないよ。
すこし勾配が緩くなってきたから、こぐか。もうちょい、ガンバレ、ガンバレ…ダメだ、足が攣りそうだ~。
道志水源林の石碑だよ。
あと750メートル、歩きますよ~。きつい、きつい。
この辺りが道志川の源流付近だな。
4時20分だ。雨が降らなくて良かったよ。あと550メートルか。もうすぐだな。よし、頑張る、頑張る。
ちょっとペダルをこいでも攣っちゃうから、もうダメなんだ。こぎたいなあ。気持ちはこぎたいんだけど、足がなあ。
ペダルをこぎたい。でもダメなんだよ。足が言うことをきかないんだ。ペダルを踏もうとすると足が強烈に痛いんだ…このくらいの坂、上れるんだけどなあ。
…450メートル。アア、ヒイ…大幅に予定時間が過ぎたね。…あと、350メートル、ガンバレ、ガンバレ。
こんな軽い上りだよ、こいでみよう。
…250メートル…150メートル。
ああ、トンネルが見えた。痛い、足が攣ってる…イテテテテ。
足が攣ってるよ。…でも、峠に着いてよかったなあ。
4時30分だ。ああ、山伏トンネルだよ。やっとのことで辿り着いたよ。よく頑張った。ああ、よかった。あとは下りだ~。
(山伏峠→大月)
ここからは山中湖村だ。さあ、下りますよ~。ちょっと寒いね。一枚上に着よう。
さあ、山中湖へ一気に下るよ~。やった~。寒い~。あ~、富士さん見えた。や~、よかったなあ。
山中湖だよ。
サイクリングロードだ。もうだいぶ薄暗いね。
きれいな富士山だよ。まるで水墨画のような構図だね。
おみごと。
すばらしい富士山を見た後、帰途についたよ。
富士吉田駅(富士山駅)から電車に乗るつもりだったけど、ずっと下りなのでこのまま大月まで行くことにしたんだ。
大月までひたすら下ったんだ。下りだから足の痛みは全然なかったよ。最高のダウンヒルだったよ。
大月駅、6時30分。無事に着いたよ。みみ爺、お疲れさん。
<旅の反省>
高尾から大月までなんだかんだ98キロ走ったわけだ。峠越えの98キロは、みみ爺にはちょっと無茶な計画だったよ。時間を気にし過ぎて、休憩や、水分の取り方が不十分になってしまったんだ。そのために景色をじっくりと楽しむことができなかったし、峠まであとわずかのところで両足が攣りだしてしまったしね。次の旅では、もう少しゆっくり、のんびり走れる計画にしよう。
道志みちを旅するなら、富士吉田側からスタートして、景色を楽しむのがいいね。絶対にその方がいいよ。もっとも、苦しんだ後の富士山との出会いは、それはそれですごくいいんだけどね…