30分で自転車を組み、出発の準備ができたよ。今日は早かったね。
武蔵五日市駅前は、ハイキングや登山目的の人たち、サイクリングに出かける自転車乗りたちが大勢いた。連日のようにコロナ感染拡大が報じられているけれど、ここではそんなことはどこ吹く風といった感じだよ。
天気がすごくいい。抜けるような青空だ。11月の空気は少し冷たいが、寒いというほどではない。
家内はコロナ感染拡大を気にして、
「行かない方がいいわよ」
と言ったが、みみ爺はマスクを二重にして、消毒用アルコールを持って出てきた。だいぶ悩んだが出てきてよかった。
さあ、出発だ。駅前ロータリーの時計は9時13分を指している。
今日は終日の青空と紅葉が期待できそうだね。
いつものように都道の一本北側の道を行くよ。この道は車を気にせずのんびりと走ることができる。
山々に囲まれた静かな集落の雰囲気がいい。
明るい山々の景色を楽しみながら気持ちよくペダルをこぐ。
秋川の流れがとてもきれいだね。
林道っぽいアップダウンもある。木漏れ日が気持ちいい。
ここは林道星竹線の入り口だ。石ころだらけの未舗装の急勾配が思い出される。
林道星竹線の入口からの下り坂だ。山がきれいだよ。
いったん都道201号に合流してしばらく走り、養沢川の新橋という橋を渡ってすぐ、ふたたび左の細い道へ入る。
コンクリート舗装の急勾配の上り坂になった。上りきる手前のお地蔵様に、今日一日の旅の無事をお祈りする。
急勾配を上りきったところには製材所がある。今日は作業をする音は聞こえない。
さあ、下りだ。正面の山が迫力ある。
青木平橋からの秋川だ。
この先の橘橋から桧原街道を離れ、北秋川に沿って都道205号・水根本宿線を行くんだ。
おなじみの「桧原とうふ」のちとせ屋さんだ。この店の左の道は「払沢の滝」へ行くことができる。「払沢の滝」入り口からは、時坂峠へと続く浅間林道になる。
水根本宿線を行くよ。景色がきれいだ。
さっきからずっと目の前にそびえていて気になっている山だ。大岳山というのだろうか。方角的には間違いないんだが。
白倉という集落の先に、左手に小さな橋を渡る細い道があるんだ。距離は短いが、雰囲気が良さそうなので行ってみる。
橋の上からの北秋川の流れだ。かなり細く、急流になっている。
都道とは違って車に気を遣うこともない静かな裏道だよ。苔の生えた擁壁も静かさを増すようだ。
再び都道に戻ってすぐの北秋川の姿だ。
この青い橋は神大橋だね。橋の手前を右へ行けば神戸岩、鋸山林道へ行く。
みみ爺は、鋸山林道を2013年に走ったことがあるんだ。11月のちょうど今頃だ。その時は奥多摩側からオオダワを越えてきた。道を下ってきて、中で曲がっていて出口の見えない暗い隧道を抜けた後、青空にそそり立つ神戸岩の大岩壁の迫力に圧倒されて感動したのを覚えている。
いつの間にか車やバイクが少なくなっているよ。たぶん橘橋のところから左へ、桧原街道を奥多摩周遊道路の方へ行ったのだろう。
たまにロードに乗ったグループが追い抜いていく。元気な若者たちの中には、この先の激坂風張林道を目指すものもいるのだろうね。
時坂峠から下りてくる林道瀬戸沢線の出口だよ。この下り坂はつんのめりそうなほどの急勾配なんだ。
青空をバックにきれいな赤い橋は笹久保大橋だね。
車やバイクがほとんど来ないので快適だ。
山の紅葉は少しずつ進んでいるよ。
いつの間にかこんな高さまで上っていたんだね。このあたりで、標高450メートル位はあるのだろう。いい景色だなあ。
日光と青空と紅葉。最高のサイクリングだね。
藤倉に着いた。都道205号・水根本宿線を走るのはここまでだ。
道幅が狭くなり、雰囲気がだいぶ違ってきたよ。
あっ!この道、この家には記憶がある。
2012年のやはり今頃、風張峠から風張林道を下って、北秋川沿いのこの道を走ってきた。そして、この家のある道の雰囲気が気に入って写真を写した記憶があるんだ。
みみ爺は、桧原村という響きが好きだった。それは、何故かみみじいの旅心をそそるような響きだった。はじめてここを通った時、この家とこの道に不思議と旅情を感じて、「ああ、これが桧原村の風景なんだ」って思ったんだ。
この辺はまだ北秋川になるのだろうか、それとも白岩沢というのだろうか。とにかく流れがきれいだ。
カーブを曲がるたびに水音が大きく響いてくる。流れが急だからだろう、砂防堰堤がいくつもあれわれる。道の勾配もきつくなっている。
ずっと上りっぱなしだった。なんとか風張林道の入口までやってきた。
風張林道は、ヒルクライマーたちが泣いて喜ぶほどの、知る人ぞ知る激坂だ。
みみ爺はこの坂を下りてきたことだけはあるんだ。上ったのではないので、もちろん自慢になる話ではないが。
さて、風張林道の上り口を過ぎ、さらに細くなった道をまっすぐに進むよ。ここからもかなりの勾配だ。道際の落ち葉がいい感じだよ。
この小さな橋の先が林道入間白岩線だね。上りはじめの1.5キロほどは未舗装のダートだと思っていたが…
ダート部分はどこにもないよ。いつの間にか舗装されたようだね。
だいぶ上ってきたよ。景色もよくなってきた。
勾配は相変わらずきつい。落ち葉と紅葉が目立つようになってきたね。
あれは風張林道だね。もっとも勾配のきついと言われる倉掛の集落付近だろう。
ここが最近土砂崩れのあった場所だろうか。つい数週間前、頂上付近土砂崩れのため通行止めになったという情報があったのだ。通行止めはすぐに解除されたが。
そろそろピークの藤原峠だろうかね。
頂上に着いた。
本来の藤原峠は、林道の最高地点よりさらに上の方で、標高は893メートルだそうだ。ここの標高はおそらく850メートルくらいだろう。
自転車を降りたちょうどその時、林道わきの少し高いところから声をかけられた。見上げると、駅でちょっと言葉を交わしたサイクリストだ。その人もランドナーを持っていて、お互いに挨拶したんだ。二人連れで、日当たりのいい高みでお昼を取っていたようだ。同じ林道を上ってきていたとは。
みみ爺もその場所へ自転車を押し上げて、お昼にすることにした。山の空気はひんやりしているが、そこは日が当たっているので暖かい。
「林道はよく走るんですか」
林道を走るのが好きなみみ爺は、
「ええ、だいたい林道です。はじめは房総の林道を走っていましたが、向こうは高い山がないので、景色が物足りなくなって、最近は奥武蔵、秩父、奥多摩へよく来ます」
「どんな林道を走りましたか」
「そうですね、西秩父林道とか…」
「八丁峠もいいんですよね」
「私が行ったときは紅葉がものすごくきれいでした」
それからはお互いに林道の話になったよ。
みみ爺はおにぎりを食べながら、
「奥武蔵は今ほとんどの林道が通れなくなっています」
「奥武蔵はそうですよね」
「最近、秩父高原線という林道を走ったんです。もちろん通行止めでしたが。その林道は何か所も崩れていましたよ」
みみ爺はその時の崩落の様子を話した。
「今日は泊りですか」
「いや、日帰りです」
みみ爺はほとんど日帰りだ。
「私なんか、日帰りなんて言うと、女房に、なんで泊りじゃないのと言われますよ」
連れの一人が言う。つい笑いが出る。
「これからどちらへ行くんですか」
「私は上野原へ出るつもりです。そちらは?」
と、みみ爺。
「私らはこのまま五日市へ戻り一泊します」
「それでは明日はどちらへ」
「明日は鋸山林道を走ります」
「鋸山林道は通行止めになっていませんか」
「自転車は大丈夫ですよ」
「私は前に奥多摩側から走ったことがあります」
「奥多摩側からはかなりきついんですよね。五日市側から上る方が勾配が緩いんですよ」
「そうですか、知りませんでした」
と、みみ爺。
みみ爺より先に出発していく二人は、
「記念に写真を撮りますよ」
と写してくれた。
「私も撮らせてください」
と、みみ爺も二人を写させてもらった。二人とも典型的なランドナー乗りの服装だ。とても決まっている。自転車はみみ爺のよりずっといい自転車だったよ。
二人が出発した後、みみ爺はコーヒーをすすりながら、静かな山の日差しをしばしのんびりと楽しんだ。
さあ、みみ爺も出発だ。下りで体が冷えないようにウインドブレーカーを着ることを忘れなかった。
時々素晴らしい景色が開ける。
ほとんどの区間ガードレールがない。スピードを控え目に下っていく。曲がり切れなかったら大変なことになる。
景色は最高!
シャッターポイントという立札が立っていたよ。
さらに急勾配を下っていく。
このすごい勾配の坂の上に、「浅間坂」という名前の民宿があるんだね。
あの橋を渡ると奥多摩周遊道路へ続く桧原街道だな。
林道入間白岩線はここまでだ。楽しかったね。
ここからしばらくは桧原街道を走らなければならない。
景色もいいし下りだから楽だけど、幾組ものオートバイの集団がみみ爺の横を、ヒヤッとするほどすれすれに追い抜いていく。猛スピードで疾走していくスポーツカーもある。奥多摩周遊道路から下ってくる車やオートバイだ。休日の桧原街道は怖いなあ。
上川乗の南秋川橋だ。ここで桧原街道とわかれ、甲武トンネルへ向かう。ここまで来てちょっとほっとした。ほとんどの車やオートバイはそのまま桧原街道を下っていくからだ。
この南秋川橋からはまた上りだよ。甲武トンネルの標高が620メートルだから、ざっと200メートル以上の標高差を上り返さなければならないんだ。
上野原へ向かうこの都道33号は、ほとんど車が通らない。とても静かだよ。
今上ってきたすぐ下の道よりさらに遠くに見えるのが桧原街道だ。
車が来ないので、景色を楽しみながらペダルを踏むことができるよ。
勾配は結構あるよ。だが、車が来ないので安心して上れる。
景色は申し分ない。桧原街道を数馬から下って来る時の景色もよかったけれど、追い抜いていく車やオートバイが多かったのと、下り坂でハンドルに集中していたのとで、景色を楽しむ余裕はなかった。この道からの景色はほんとうに素晴らしいよ。
やっと上ってきたね。これが甲武トンネルの手前の栗原トンネルだね。長さは209メートル。それほど長くはない。
いよいよ甲武トンネルだ。こちらは954メートルと長い。長いトンネル内で車が入って来たらいやだなあ。まず爆音でビビってしまう。それが怖くて、実は何日も前から、この長いトンネルを越えるか越えまいかずっと迷っていたんだ。
どうやら車やオートバイに追われることもなく無事に通過できそうだよ。
トンネルのこちら側は山梨県だね。上野原あきる野線・都道33号は県道33号となるんだね。
お~っ!山の中の感じがいい。
いい景色だ!
景色を楽しみながらスピードを抑えて下っていくよ。
県道33号・上野原あきる野線をはなれ、ここからは県道522号・棡原藤野線だ。
さあ、この辺から次の上りが始まるのかな。棡原トンネルまでの標高差はおよそ100メートルほどだ。
この中学校の横の勾配がすさまじい。
日の射さないところでは、この時間、もうあたりは薄暗い。
やっと棡原トンネルまで上ってきたよ。やれやれ。
棡原トンネルは長さ293.7メートル。甲武トンネルに比べれば大した長さではない。
トンネルを出て少し下ったところからの眺めだ。山は西日を浴びてまだ明るいよ。
いい雰囲気の道だね。
さあ、今日最後の上りだ。
上野原カントリークラブ入り口までの標高差は、こちらもざっと100メートルほどだよ。頑張ろう。
どうやらのぼりきったね。この先にカントリークラブの入り口があるはずだ。
日暮れ前には上野原の駅に着けそうだよ。
石楯尾神社の手前で棡原藤野線を離れて右の細い道へ入っていく。多少のアップダウンはあるが大したことはない。県道より雰囲気がよさそうだよ。
夕日が山の上を染めている。もうすぐ日が暮れる。
少し急ごう。
上野原はもう近い。
とうとう日が沈んだようだね。だいぶ暗くなった。
上野原の町に入っていくグリーンヒルトンネルだ。
短いトンネルを抜けると小さな池があったよ。水面はすっかり暗くなっている。月見ヶ池というらしい。
この池はため池で、農林水産省のため池百選にえらばれたそうだよ。いろんな百選があるんだなあ。
なんとか明るいうちに上野原に着くことができてよかったよ。ほんとに天気のいい一日だったね。すばらしい景色もたくさん見たね。お疲れさん、みみ爺。
武蔵五日市駅前は、ハイキングや登山目的の人たち、サイクリングに出かける自転車乗りたちが大勢いた。連日のようにコロナ感染拡大が報じられているけれど、ここではそんなことはどこ吹く風といった感じだよ。
天気がすごくいい。抜けるような青空だ。11月の空気は少し冷たいが、寒いというほどではない。
家内はコロナ感染拡大を気にして、
「行かない方がいいわよ」
と言ったが、みみ爺はマスクを二重にして、消毒用アルコールを持って出てきた。だいぶ悩んだが出てきてよかった。
さあ、出発だ。駅前ロータリーの時計は9時13分を指している。
今日は終日の青空と紅葉が期待できそうだね。
いつものように都道の一本北側の道を行くよ。この道は車を気にせずのんびりと走ることができる。
山々に囲まれた静かな集落の雰囲気がいい。
明るい山々の景色を楽しみながら気持ちよくペダルをこぐ。
秋川の流れがとてもきれいだね。
林道っぽいアップダウンもある。木漏れ日が気持ちいい。
ここは林道星竹線の入り口だ。石ころだらけの未舗装の急勾配が思い出される。
林道星竹線の入口からの下り坂だ。山がきれいだよ。
いったん都道201号に合流してしばらく走り、養沢川の新橋という橋を渡ってすぐ、ふたたび左の細い道へ入る。
コンクリート舗装の急勾配の上り坂になった。上りきる手前のお地蔵様に、今日一日の旅の無事をお祈りする。
急勾配を上りきったところには製材所がある。今日は作業をする音は聞こえない。
さあ、下りだ。正面の山が迫力ある。
青木平橋からの秋川だ。
この先の橘橋から桧原街道を離れ、北秋川に沿って都道205号・水根本宿線を行くんだ。
おなじみの「桧原とうふ」のちとせ屋さんだ。この店の左の道は「払沢の滝」へ行くことができる。「払沢の滝」入り口からは、時坂峠へと続く浅間林道になる。
水根本宿線を行くよ。景色がきれいだ。
さっきからずっと目の前にそびえていて気になっている山だ。大岳山というのだろうか。方角的には間違いないんだが。
白倉という集落の先に、左手に小さな橋を渡る細い道があるんだ。距離は短いが、雰囲気が良さそうなので行ってみる。
橋の上からの北秋川の流れだ。かなり細く、急流になっている。
都道とは違って車に気を遣うこともない静かな裏道だよ。苔の生えた擁壁も静かさを増すようだ。
再び都道に戻ってすぐの北秋川の姿だ。
この青い橋は神大橋だね。橋の手前を右へ行けば神戸岩、鋸山林道へ行く。
みみ爺は、鋸山林道を2013年に走ったことがあるんだ。11月のちょうど今頃だ。その時は奥多摩側からオオダワを越えてきた。道を下ってきて、中で曲がっていて出口の見えない暗い隧道を抜けた後、青空にそそり立つ神戸岩の大岩壁の迫力に圧倒されて感動したのを覚えている。
いつの間にか車やバイクが少なくなっているよ。たぶん橘橋のところから左へ、桧原街道を奥多摩周遊道路の方へ行ったのだろう。
たまにロードに乗ったグループが追い抜いていく。元気な若者たちの中には、この先の激坂風張林道を目指すものもいるのだろうね。
時坂峠から下りてくる林道瀬戸沢線の出口だよ。この下り坂はつんのめりそうなほどの急勾配なんだ。
青空をバックにきれいな赤い橋は笹久保大橋だね。
車やバイクがほとんど来ないので快適だ。
山の紅葉は少しずつ進んでいるよ。
いつの間にかこんな高さまで上っていたんだね。このあたりで、標高450メートル位はあるのだろう。いい景色だなあ。
日光と青空と紅葉。最高のサイクリングだね。
藤倉に着いた。都道205号・水根本宿線を走るのはここまでだ。
道幅が狭くなり、雰囲気がだいぶ違ってきたよ。
あっ!この道、この家には記憶がある。
2012年のやはり今頃、風張峠から風張林道を下って、北秋川沿いのこの道を走ってきた。そして、この家のある道の雰囲気が気に入って写真を写した記憶があるんだ。
みみ爺は、桧原村という響きが好きだった。それは、何故かみみじいの旅心をそそるような響きだった。はじめてここを通った時、この家とこの道に不思議と旅情を感じて、「ああ、これが桧原村の風景なんだ」って思ったんだ。
この辺はまだ北秋川になるのだろうか、それとも白岩沢というのだろうか。とにかく流れがきれいだ。
カーブを曲がるたびに水音が大きく響いてくる。流れが急だからだろう、砂防堰堤がいくつもあれわれる。道の勾配もきつくなっている。
ずっと上りっぱなしだった。なんとか風張林道の入口までやってきた。
風張林道は、ヒルクライマーたちが泣いて喜ぶほどの、知る人ぞ知る激坂だ。
みみ爺はこの坂を下りてきたことだけはあるんだ。上ったのではないので、もちろん自慢になる話ではないが。
さて、風張林道の上り口を過ぎ、さらに細くなった道をまっすぐに進むよ。ここからもかなりの勾配だ。道際の落ち葉がいい感じだよ。
この小さな橋の先が林道入間白岩線だね。上りはじめの1.5キロほどは未舗装のダートだと思っていたが…
ダート部分はどこにもないよ。いつの間にか舗装されたようだね。
だいぶ上ってきたよ。景色もよくなってきた。
勾配は相変わらずきつい。落ち葉と紅葉が目立つようになってきたね。
あれは風張林道だね。もっとも勾配のきついと言われる倉掛の集落付近だろう。
ここが最近土砂崩れのあった場所だろうか。つい数週間前、頂上付近土砂崩れのため通行止めになったという情報があったのだ。通行止めはすぐに解除されたが。
そろそろピークの藤原峠だろうかね。
頂上に着いた。
本来の藤原峠は、林道の最高地点よりさらに上の方で、標高は893メートルだそうだ。ここの標高はおそらく850メートルくらいだろう。
自転車を降りたちょうどその時、林道わきの少し高いところから声をかけられた。見上げると、駅でちょっと言葉を交わしたサイクリストだ。その人もランドナーを持っていて、お互いに挨拶したんだ。二人連れで、日当たりのいい高みでお昼を取っていたようだ。同じ林道を上ってきていたとは。
みみ爺もその場所へ自転車を押し上げて、お昼にすることにした。山の空気はひんやりしているが、そこは日が当たっているので暖かい。
「林道はよく走るんですか」
林道を走るのが好きなみみ爺は、
「ええ、だいたい林道です。はじめは房総の林道を走っていましたが、向こうは高い山がないので、景色が物足りなくなって、最近は奥武蔵、秩父、奥多摩へよく来ます」
「どんな林道を走りましたか」
「そうですね、西秩父林道とか…」
「八丁峠もいいんですよね」
「私が行ったときは紅葉がものすごくきれいでした」
それからはお互いに林道の話になったよ。
みみ爺はおにぎりを食べながら、
「奥武蔵は今ほとんどの林道が通れなくなっています」
「奥武蔵はそうですよね」
「最近、秩父高原線という林道を走ったんです。もちろん通行止めでしたが。その林道は何か所も崩れていましたよ」
みみ爺はその時の崩落の様子を話した。
「今日は泊りですか」
「いや、日帰りです」
みみ爺はほとんど日帰りだ。
「私なんか、日帰りなんて言うと、女房に、なんで泊りじゃないのと言われますよ」
連れの一人が言う。つい笑いが出る。
「これからどちらへ行くんですか」
「私は上野原へ出るつもりです。そちらは?」
と、みみ爺。
「私らはこのまま五日市へ戻り一泊します」
「それでは明日はどちらへ」
「明日は鋸山林道を走ります」
「鋸山林道は通行止めになっていませんか」
「自転車は大丈夫ですよ」
「私は前に奥多摩側から走ったことがあります」
「奥多摩側からはかなりきついんですよね。五日市側から上る方が勾配が緩いんですよ」
「そうですか、知りませんでした」
と、みみ爺。
みみ爺より先に出発していく二人は、
「記念に写真を撮りますよ」
と写してくれた。
「私も撮らせてください」
と、みみ爺も二人を写させてもらった。二人とも典型的なランドナー乗りの服装だ。とても決まっている。自転車はみみ爺のよりずっといい自転車だったよ。
二人が出発した後、みみ爺はコーヒーをすすりながら、静かな山の日差しをしばしのんびりと楽しんだ。
さあ、みみ爺も出発だ。下りで体が冷えないようにウインドブレーカーを着ることを忘れなかった。
時々素晴らしい景色が開ける。
ほとんどの区間ガードレールがない。スピードを控え目に下っていく。曲がり切れなかったら大変なことになる。
景色は最高!
シャッターポイントという立札が立っていたよ。
さらに急勾配を下っていく。
このすごい勾配の坂の上に、「浅間坂」という名前の民宿があるんだね。
あの橋を渡ると奥多摩周遊道路へ続く桧原街道だな。
林道入間白岩線はここまでだ。楽しかったね。
ここからしばらくは桧原街道を走らなければならない。
景色もいいし下りだから楽だけど、幾組ものオートバイの集団がみみ爺の横を、ヒヤッとするほどすれすれに追い抜いていく。猛スピードで疾走していくスポーツカーもある。奥多摩周遊道路から下ってくる車やオートバイだ。休日の桧原街道は怖いなあ。
上川乗の南秋川橋だ。ここで桧原街道とわかれ、甲武トンネルへ向かう。ここまで来てちょっとほっとした。ほとんどの車やオートバイはそのまま桧原街道を下っていくからだ。
この南秋川橋からはまた上りだよ。甲武トンネルの標高が620メートルだから、ざっと200メートル以上の標高差を上り返さなければならないんだ。
上野原へ向かうこの都道33号は、ほとんど車が通らない。とても静かだよ。
今上ってきたすぐ下の道よりさらに遠くに見えるのが桧原街道だ。
車が来ないので、景色を楽しみながらペダルを踏むことができるよ。
勾配は結構あるよ。だが、車が来ないので安心して上れる。
景色は申し分ない。桧原街道を数馬から下って来る時の景色もよかったけれど、追い抜いていく車やオートバイが多かったのと、下り坂でハンドルに集中していたのとで、景色を楽しむ余裕はなかった。この道からの景色はほんとうに素晴らしいよ。
やっと上ってきたね。これが甲武トンネルの手前の栗原トンネルだね。長さは209メートル。それほど長くはない。
いよいよ甲武トンネルだ。こちらは954メートルと長い。長いトンネル内で車が入って来たらいやだなあ。まず爆音でビビってしまう。それが怖くて、実は何日も前から、この長いトンネルを越えるか越えまいかずっと迷っていたんだ。
どうやら車やオートバイに追われることもなく無事に通過できそうだよ。
トンネルのこちら側は山梨県だね。上野原あきる野線・都道33号は県道33号となるんだね。
お~っ!山の中の感じがいい。
いい景色だ!
景色を楽しみながらスピードを抑えて下っていくよ。
県道33号・上野原あきる野線をはなれ、ここからは県道522号・棡原藤野線だ。
さあ、この辺から次の上りが始まるのかな。棡原トンネルまでの標高差はおよそ100メートルほどだ。
この中学校の横の勾配がすさまじい。
日の射さないところでは、この時間、もうあたりは薄暗い。
やっと棡原トンネルまで上ってきたよ。やれやれ。
棡原トンネルは長さ293.7メートル。甲武トンネルに比べれば大した長さではない。
トンネルを出て少し下ったところからの眺めだ。山は西日を浴びてまだ明るいよ。
いい雰囲気の道だね。
さあ、今日最後の上りだ。
上野原カントリークラブ入り口までの標高差は、こちらもざっと100メートルほどだよ。頑張ろう。
どうやらのぼりきったね。この先にカントリークラブの入り口があるはずだ。
日暮れ前には上野原の駅に着けそうだよ。
石楯尾神社の手前で棡原藤野線を離れて右の細い道へ入っていく。多少のアップダウンはあるが大したことはない。県道より雰囲気がよさそうだよ。
夕日が山の上を染めている。もうすぐ日が暮れる。
少し急ごう。
上野原はもう近い。
とうとう日が沈んだようだね。だいぶ暗くなった。
上野原の町に入っていくグリーンヒルトンネルだ。
短いトンネルを抜けると小さな池があったよ。水面はすっかり暗くなっている。月見ヶ池というらしい。
この池はため池で、農林水産省のため池百選にえらばれたそうだよ。いろんな百選があるんだなあ。
なんとか明るいうちに上野原に着くことができてよかったよ。ほんとに天気のいい一日だったね。すばらしい景色もたくさん見たね。お疲れさん、みみ爺。