Four Season Colors

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読書のよもやま(2022.10.17)

2022-10-17 | 雑文
「世界最悪の旅 スコット南極探検隊」チェ
リー・ガラード(中公文庫)

1911年「冬」に行われた南極大陸の旅、
そして12年「夏」にかけて行われた南極点
への旅。

その2つの旅に加わった著者チェリー・ガラ
ードによるノンフィクションの旅記録。

著者が最初から最後までを歩いた過酷な冬の
旅は、想像を絶する過酷なものであるが、結
果として生存して帰還を果たす。

一方、夏の極点への旅は、複数の予期せぬ要
因により極点行本隊の5人が南極大陸で命を
落とした。

チェリー・ガラードは冬は支援隊として途中
帰還しており、帰国10年後に本書を記して
いる。

過酷を想定された冬も、決して最悪を想定し
なかった夏も、死者を前提に準備されたもの
ではない。

無論、死者が出ることは想定され、それは想
像以上の悲しみであっても、驚きではなかっ
ただろう。

当事者であるにもかかわらず、チェリー・ガ
ラードは南極大陸での仲間への愛と尊敬と共
に、冷静な分析に努めている。

本隊の記録を中心とした冬の旅は、その結果
を引いても、読んでいて精神の痛みは増すば
かりである。

とはいえ、本書はノンフィクションであるか
ら、小説的な達成も悲劇も強調されない。

ゆえに、だからこそ、ノンフィクションの持
つ「生」の魅力が全編に、とてつもなく詰ま
っている。

問題は本書の問題ではなく、こうした良質な
ノンフィクションを読むべき年代の人が、物
理的に当たる機会がないことにある。

「一歩を踏み出すこと」を学ぶ前に一歩を踏
み出さなければならない皮肉であるが、気に
なる方は求めるべき一冊では。

自分のように横着し続ければ、ともすれば遅
くなってしまうことになるから。