2024年のノーベル賞の発表が7日から始まる。
21年に真鍋淑郎氏が物理学賞を受賞して以来となる日本出身者の受賞はあるか。自然科学分野で「ノーベル賞候補」として期待が集まる研究者らを紹介する。
生理学・医学賞(7日発表)
生理学・医学賞は7日午後6時30分(日本時間)以降に発表される。
これまでに日本の受賞は5人。有力候補として、細胞内のたんぱく質の品質管理の仕組みを解明した京都大学の森和俊特別教授や免疫の研究で著名な大阪大学の坂口志文栄誉教授らがいる。
森和俊・京都大学特別教授
応用例: たんぱく質の不良品がかかわる糖尿病やパーキンソン病など様々な病気の解明や治療法開発に道を開く
横顔: 剣道五段。ここと思ったときにためらわず行動する「放心」と相手に勝ったと思っても気を抜かない「残心」を極意とする
応用例: 関節リウマチや1型糖尿病といった自己免疫疾患の治療法や、抗がん剤を効きやすくする新薬などの開発に道を開く
横顔: 母方の家系は医師ばかり、父親は哲学科の卒業。大学院では双方からの影響を受け哲学の面白さとサイエンスが両立する病理学を学んだ
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柳沢正史・筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史機構長
研究内容: 睡眠と覚醒を制御する脳内の神経伝達物質「オレキシン」を発見。不眠症治療薬「デエビゴ」や「ベルソムラ」の開発につなげた
応用例: 不眠症のほか、昼間に突然眠り込む睡眠障害「ナルコレプシー」など、他の睡眠障害の治療薬の開発も進む
横顔: 大学院生のころ、血管を収縮させて血圧を上げる物質「エンドセリン」も発見。自宅は設計段階から「快眠」にこだわった
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満屋裕明・国立国際医療研究センター研究所長
国立国際医療研究センター研究所の満屋裕明研究所長
研究内容: エイズの原因ウイルス(ヒト免疫不全ウイルス=HIV)の増殖を強力に抑制する物質を発見し、エイズの最初の治療薬を開発
応用例: 発症から2年以内に9割近くが死亡していたエイズの治療薬開発のさきがけとなる。治療薬「ダルナビル」を国際機関に無償提供し、後発薬の普及に貢献
横顔: 米国で研究を始めた当初はHIV感染を恐れた同僚や技術スタッフが協力してくれなかったことも
竹市雅俊・理化学研究所名誉研究員
理研の竹市雅俊名誉研究員
研究内容: 動物の体の細胞同士がくっつくのに必要なたんぱく質「カドヘリン」を発見し、その仕組みを解明した
応用例: 人などの動物の臓器や組織が作られる過程や、がん細胞が別の臓器に転移する仕組みなどの研究に貢献。将来はがんの転移を防ぐ治療法につながる可能性も
横顔: バードウオッチングや熱帯魚飼育などが趣味。水槽の水を浄化するフィルターが実験に活用できると気づき、カドヘリンの発見につながった
岸本忠三・大阪大学元学長
平野俊夫・大阪国際がん治療財団理事長
岸本忠三氏㊧と平野俊夫氏
研究内容: 免疫の炎症などを引き起こすたんぱく質「インターロイキン6」を発見。関節リウマチの治療薬「アクテムラ」の開発につなげた
応用例: 関節リウマチ治療薬は世界売上高が年1000億円を超す「ブロックバスター」に成長した。新型コロナウイルスによる重症の肺炎患者に対する治療薬としても国内外で承認された
横顔: 岸本氏は厳しい指導で優れた研究者を数多く育てた。iPS細胞を発明した山中伸弥・京都大学教授を発掘した「目利き」としても知られる。平野氏は自身を「行動の人」と語り、考えるばかりでなく行動することが大事と若い研究者らに教えた
物理学賞(8日発表)
物理学賞は8日午後6時45分(日本時間)以降に発表される。
これまでに日本の受賞は12人(米国籍取得者を含む)。有力候補として、ペロブスカイト型太陽電池を開発した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授や金属の電気抵抗がゼロになる「超電導」などの研究で成果をあげた東京科学大学の細野秀雄栄誉教授らがいる。
宮坂力・桐蔭横浜大学特任教授
桐蔭横浜大の宮坂力特任教授
研究内容: ペロブスカイトという結晶構造の材料を用いて、薄くて軽く曲げられる太陽電池を作った
応用例: これまで設置が難しかったビルの壁面や車の屋根にも設置できる太陽電池の開発が進む
横顔: 40代後半で20年勤めた富士フイルムを退職し、東京大学や慶応義塾大学、日本大学の教員に応募するが採用されず。採用された桐蔭横浜大学は規模が小さいからこそ、成果を出してはい上がろうと頑張れた
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細野秀雄・東京科学大学栄誉教授
科学大の細野秀雄栄誉教授
研究内容: ガラスなどの透明な材料は電気を通しにくいという常識を覆し、透明酸化物半導体を開発。電気抵抗がなくなる超電導でも成果
応用例: 高精細で消費電力の少ないディスプレーを実現。スマートフォンなどに相次ぎ採用された
横顔: 「ありふれた元素で優れた素材を作る」ことを研究のポリシーに据える
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大野英男・東北大学元学長
東北大の大野英男元学長
研究内容: 磁石の性質を持つ半導体「強磁性半導体」を作ることに成功
応用例: 電子の磁石の性質を利用して省電力の半導体を実現する研究が進む
横顔: ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏の研究室に研究員として1988年に赴任。江崎氏から「誰もなし遂げていない成果を」と激励され続けた
佐川真人・大同特殊鋼顧問
大同特殊鋼の佐川真人顧問
研究内容: ネオジムと鉄、ホウ素などからなる「ネオジム磁石」を開発。1センチ角の磁石で数キログラムの鉄の塊を持ち上げる世界最高性能の磁力を実現
応用例: 省エネ性能の高い小型モーターの開発につながり、ハイブリッド車からハードディスクまで幅広く利用が進展
横顔: 富士通研究所(当時)の在籍時に研究を思いついたが、同社が研究を打ち切ったため住友特殊金属(当時)に移籍。その後、自らスタートアップ企業も設立した
東京大の香取秀俊教授と光格子時計
応用例: 相対性理論に基づくわずかな時の遅れを検知でき、精密な高度計測や地震予知、地下資源の探索などに使える。日本標準時の維持にも利用されており、2030年ごろ決まる「1秒」の新たな基準の有力候補となる
横顔: 少年時代はラジオを自作する電子工作マニアだったが、中高では文学少年に一転し、太宰治や三島由紀夫を読みふけった。当時好んだヘッセは今でも再読している
化学賞(9日発表)
化学賞は9日午後6時45分(日本時間)以降に発表される。
これまでに日本の受賞は8人。有力候補として、分子がひとりでに組み上がる「自己組織化」の研究で有名な東京大学の藤田誠卓越教授や京都大学の北川進特別教授らがいる。
藤田誠・東京大学卓越教授
東京大の藤田誠卓越教授
研究内容: 分子が自然と集まって新しい機能や構造を持った化合物を作り出す「自己組織化」技術を開発
応用例: 数年かかっても特定できなかった分子の構造を数週間で特定することが可能となり、創薬や新素材の開発に貢献
横顔: 千葉大学の助手を務めていたころの「きれいな正方形の分子を作ってみたい」という遊び心が研究の原点に
北川進・京都大学特別教授
京都大の北川進特別教授
研究内容: ジャングルジムのような構造の分子の中に、狙った分子だけを閉じ込める新素材を開発
応用例: 二酸化炭素や水素などを回収したり、貯蔵したりする脱炭素で期待される新素材などの開発に貢献
横顔: 研究を説明する際には「無用の用」という荘子の言葉を持ち出す。「すき間としか思われていなかった空間が重要になる」という指摘だ
岡山大の沈建仁教授
応用例: 太陽光によって水から水素などを生産し、新エネルギーとして利用する「人工光合成」の応用研究が進む
横顔: 光合成の実験では大学近くのスーパーで週に1度30束ほどのホウレンソウを買い込み、スーパーの店員に顔を覚えられたことも。実験で残った茎の部分は家でおひたしにして食べていたがいつしかホウレンソウ嫌いに
中部大の沢本光男顧問
応用例: インクジェットプリンターできれいに発色するインクや形を変えやすい高性能ゴムなど産業応用が進む
横顔: 京都大学の教授時代、大阪大学や名古屋大学などの研究室と「オリオン会」という研究会を主催。研究内容について他大学と激しく議論を戦わせることに重きを置いていた
応用例: 病気の原因になるたんぱく質などにペプチドを作用させて治療する「ペプチド医薬品」の活用の幅を広げる。創業したスタートアップと製薬各社が連携し、100以上の開発プログラムが進む
横顔: スタートアップ事業で得た資金を使い、「将来をリードし飛躍する科学者」を支援する財団を立ち上げた
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2024年のノーベル賞発表は10月7日(月)の生理学・医学賞からスタート。物理学賞は8日(火)、化学賞は9日(水)、文学賞は10日(木)、平和賞は11日(金)、経済学賞は14日(月)と続きます。
日経記事2024.10.02より引用