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イスラエルとハマス、ガザ停戦で合意 まず人質33人解放

2025-01-16 07:29:03 | 中東情勢・基礎知識・歴史・問題・真実


停戦合意の報道を受けて喜ぶパレスチナの人々(ガザ、15日)=ロイター

 

【イスタンブール=渡辺夏奈】

イスラエルとイスラム組織ハマスが15日(日本時間16日未明)、パレスチナ自治区ガザでの戦闘停止で合意した。停戦協議を仲介したカタールのムハンマド首相兼外相が発表した。

ガザで4万6000人以上が犠牲になった激しい戦闘が収束に向かう可能性が出てきた。

 

停戦は19日に発効し、段階的に実施する。第1段階としてハマスが捕らえている人質のうち、女性や高齢者など33人を解放する。

引き換えにイスラエルはガザへの攻撃を一時停止し、パレスチナ人囚人を解放する。その後の計画については停戦発効後に交渉する。

 

第1段階の停戦は6週間を想定している。合意を受けて15日に記者会見した米国のバイデン大統領は「交渉に6週間以上かかれば、その間も停戦は継続する」と強調した。

次の段階では「恒久的な戦争の終了を目指す」と繰り返し、成果を誇った。

 

合意は24年5月にバイデン氏が公表した構想に基づいている。3段階で構成し、最終的にはイスラエル軍がガザから完全に撤退し、ガザの復興を目指す内容だった。

停戦は米国、カタール、エジプトが仲介した。12日からカタールの首都ドーハに各国の代表団が集まり、合意内容を詰めていた。

 

仲介国はこれまで何度も停戦を試みてきた。双方の溝は深く、23年11月に実現した1週間の戦闘休止以降は目立った成果が出ていなかった。

ここにきて交渉が急速に進んだ背景には、外交成果をあげたいトランプ米次期大統領の存在がある。

 

トランプ氏は15日、カタールによる合意の発表に先立ち、自身のSNSでイスラム組織ハマスが拘束する米国人などの人質解放で関係国と合意したと明らかにした。

「中東の人質取引で合意した。まもなく解放されるだろう!」と記した。

 

20日に大統領に返り咲くトランプ氏は就任前に人質を解放しなければ「とんでもないことになる」「地獄をみることになる」とハマスに警告していた。

 

 

 

トランプ氏が中東担当特使に指名した不動産投資家のウィットコフ氏は11日、イスラエルでネタニヤフ首相と会談した。

同国メディアによると、ネタニヤフ氏に対し停戦案の受け入れを強く迫ったという。ウィットコフ氏はドーハでの協議にも参加した。

 

ブリンケン米国務長官が14日明らかにした戦後構想によると、ガザではまず、パレスチナ自治政府やガザ住民の代表者による暫定政権が統治を担い、国際社会が支援する。

ヨルダン川西岸地区を統治する自治政府は国際的にパレスチナの代表と認められているが、ハマスとは長年対立し、統治はガザに及んでいない。

 

戦闘が収束に向かうかは見通せない部分も残る。停戦の発効にはイスラエル閣議での承認が必要となる。地元メディアによると、閣議は16日に開かれる。

イスラエル連立政権に参加する極右勢力は停戦に反対しており、承認を得られるかがカギとなる。

 

スモトリッチ財務相は15日、停戦が「危険な取引だ」と反発した。ベングビール国家治安相も停戦に応じた場合、連立を離脱するなどとしている。

ヘルツォグ大統領は15日、閣僚に対して停戦を受け入れるよう訴えた。

 

ガザ衝突のきっかけとなったハマスの奇襲では、約1200人が犠牲となり、251人が人質として捉えられた。

イスラエルはハマスの壊滅と人質の奪還を掲げて空爆や地上作戦を仕掛け、最高指導者のシンワール氏ら幹部や戦闘員を多数殺害した。

 

レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラなど周辺の敵対組織にも戦闘は広がった。こうした組織を支援するイランとイスラエルが史上初めて直接戦火を交える事態に発展した。

人質を巡っては、現在も約100人がガザに残っている。中には既に死亡している人もいる。合意に含まれる人質の帰還には遺体の返還も含まれているもようだ。

 

人質の家族団体は15日、今回の停戦が「全員の安全な帰還を保証する包括的なものになることを願っている」との声明を出した。

 

 
 
 
 

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

 

 

植木安弘のアバター
植木安弘
上智大学特任教授
 
ひとこと解説

この停戦合意は、バイデン大統領が昨年5月に提唱し国連安保理でも翌6月に支持された三段階案に基づいていると同大統領が記者会見で述べている。

第一段階での停戦はイスラエル政府の承認を経て19日(日曜日)に開始され、42日間の間に33名の女性、年寄り、負傷者の人質の釈放と多数のパレスチナ人拘束者の解放が逐次実施され、イスラエル軍の人口集中地域からの撤退、パレスチナ避難民の帰宅、大規模な人道支援の再開などが含まれる。

停戦監視のメカニズムは米、カタール、エジプトで構成され、カイロに置かれる。第二段階の交渉は16日目から開始されるが、恒久停戦やその後のガザの統治など難題は多い。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
 
ひとこと解説

注意しなければならないのは、これはバイデンが提唱していた3段階の停戦の第一段目ということ。

停戦合意というよりは人質交換合意というニュアンスが強く、人道支援をすることを目的とした停戦である、ということ。

これから第二段目に向けての交渉が始まらなければならないが、イスラエルの極右閣僚の二人がどのように対応するのか、ということが大きな問題。

彼らも支持者を抱える中で、容易に妥協するということを選択することは難しい。この停戦で人道的な支援がきちんとなされることを切に願う。

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中東情勢

2023年10月にイスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの衝突が始まって以降、中東情勢が大きく揺れ動いています。

地域大国イランとイスラエルが直接、交戦する事態に発展し、シリアでは半世紀以上続いたアサド家の政権が崩壊しました。最新ニュースと解説記事をまとめました。

 

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日経記事2025.1.16より引用

 

 

 

 

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イスラエル、ガザ「人道地区」空爆 子供含む11人死亡

2025-01-02 21:54:11 | 中東情勢・基礎知識・歴史・問題・真実


2日、空爆を受けたガザ南部ハンユニスでがれきの中に立つ少年=ロイター

 

【エルサレム=共同】

イスラム組織ハマスの掃討作戦を続けるイスラエル軍は2日、「人道地区」に指定しているパレスチナ自治区ガザ南部ハンユニス西方マワシ地区を空爆した。

パレスチナ通信によると子どもを含む11人が死亡した。ガザでは厳しい寒さで乳児や新生児の凍死が相次いでおり、中東メディアは2日、凍死した赤ちゃんが7人になったと伝えた。

 

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は昨年12月31日、イスラエル軍がガザの医療施設への攻撃を繰り返したことで医療体制が「崩壊寸前」に追い込まれたとする報告書を公表した。

病院を意図的に攻撃、破壊するのは戦争犯罪だとイスラエルに警告した。

 

報告書によると、2023年10月の戦闘開始から24年6月までの間、ガザ地区内の少なくとも27病院と12診療所に計136回の攻撃があった。

イスラエル軍が2回にわたり大規模作戦を実行した地区最大のシファ病院では三つの集団墓地が見つかり、約80人の遺体が収容されたという。

 

AP通信は、2日のマワシ地区への攻撃でガザの警察関係者らも死亡したと伝えた。ガザ保健当局は2日、戦闘開始以降のガザ側死者が4万5581人になったと発表した。

一方、米中央軍は、イエメンの首都サヌアなどにある親イラン武装組織フーシ派の軍事施設を昨年12月30、31両日に空爆したと発表した。フーシ派はハマスと共闘し、イスラエルへのミサイル攻撃を続けている。

 

シリアの国営通信によると、シリア暫定政府のシェイバニ外相やアブカスラ国防相らの代表団は今月1日、初の公式の外国訪問としてサウジアラビアの首都リヤドを訪れた。

 
 
 
中東情勢

2023年10月にイスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの衝突が始まって以降、中東情勢が大きく揺れ動いています。

地域大国イランとイスラエルが直接、交戦する事態に発展し、シリアでは半世紀以上続いたアサド家の政権が崩壊しました。最新ニュースと解説記事をまとめました。

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日経記事2025.1.2より引用

 

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正月早々、イスラエルノネタニヤフは何をやっているのだ? ドアホらが!!

 

 

 


イスラエル首相、トランプ氏と「非常に友好的な」電話会談 ガザ戦闘の「勝利」について協議

2024-12-17 23:48:04 | 中東情勢・基礎知識・歴史・問題・真実

イスラエルのネタニヤフ首相(左)と米国のトランプ次期大統領/Getty Images
イスラエルのネタニヤフ首相(左)と米国のトランプ次期大統領

 

(CNN)

 イスラエルのネタニヤフ首相は15日、トランプ次期米大統領と「非常に温かい」電話会談を行い、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラム組織ハマスとの戦闘について話し合ったと述べた。

ネタニヤフ氏は動画の声明で、14日に行われた電話会談でトランプ氏とさまざまな問題について話し合ったと述べた。

 

その中には、シリアに対するイスラエルの立場、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの再武装を阻止するというイスラエルの確約、ガザでの「イスラエルの勝利を完全なものとすることの必要性」などが含まれる。

ガザではイスラエルによる攻撃で約4万5000人のパレスチナ人が死亡している。

 

両氏はまた、ガザに残されている人質を帰還させることの必要性についても話したという。ハマスなどの組織は依然としてガザに100人の人質を拘束しているとみられている。

このうち4人を除く全員が昨年10月7日の攻撃で捕らえられ、約半数はまだ生存していると考えられている。

 

ネタニヤフ氏は会談について「非常に友好的で、温かく、重要な会話だった。イスラエルの勝利を完全なものにする必要性について話し合い、人質解放に向けた努力についても詳細に話した」と述べた。

 

 

CNN記事2024.12.16より引用

 

 


アサド氏、親族も知らず出国 「ロシア援軍来る」と欺く

2024-12-14 15:09:22 | 中東情勢・基礎知識・歴史・問題・真実


政権を追われたアサド大統領(2019年)=AP

 

【イスタンブール=時事】

旧反体制派の進攻で政権を追われたシリアのアサド大統領が、慌てて国外へ脱出するまでの経緯が欧米メディアの報道で明らかになってきた。

軍や治安当局の高官には出国直前まで「ロシアの軍事支援が来る」とうそをつき、側近や親族にも告げないまま逃亡したという。

 


ロイター通信は13日、10人以上の関係者の証言を伝えた。それによると、アサド氏は脱出直前の7日も国防省で軍関係者らと会合を開き、政権軍の地上部隊に抵抗を促した。

アサド氏は旧反体制派が攻勢を始めた翌日にロシアを訪問。攻勢を阻むためロシアに軍事介入を要請したが、聞き入れられなかった。

 

アサド氏はロシアと同じく後ろ盾となっていたイランには支援を求めなかった。イランが介入すれば、イスラエルがシリアやイラン国内へ攻撃を強める口実になると懸念したとされる。

戦況は不利と判断し、出国を決断したアサド氏はアラブ首長国連邦(UAE)に受け入れを求めたが、UAE側は国際的な反発を恐れて拒否

 

米ブルームバーグ通信によれば、アサド氏はロシアから身の安全を保証され、シリア北西部にあるロシア空軍基地を経由しモスクワへ向かった。ロシアではアスマ夫人と子供たちが待機していたという。

ロイターによると、アサド氏は軍高官を務めていた弟マーヘル氏や母方のいとこにも出国意思を伏せた。マーヘル氏はイラクへ逃れた後にロシア入り。いとこ2人は陸路レバノンへ脱出を試みたものの、旧反体制派戦闘員に襲われ、1人は殺害されたとの情報がある

 
 
 
 
日経記事2024.12.14より引用

おびえる巨人イスラエル 「消される恐怖」で戦火に油   本社コメンテーター 秋田浩之

2024-12-13 16:06:27 | 中東情勢・基礎知識・歴史・問題・真実


イスラエルのネタニヤフ首相㊧=ロイターと、ハマスが急襲したキブツ(集団農場)に掲げられた人質の写真

 

中東から逃げることはできない。逃げても、中東が追いかけてくる――。同地域に詳しい識者は皮肉を込めて、こう話す。

主要国が足抜けすれば、中東はさらに混乱し、結局、深入りせざるを得なくなるという意味だ。

 

 

軍事強国の深層心理とは

現地はまさに、そんな情勢にある。「世界の火薬庫」である中東が爆発すれば、世界が大揺れになる。最大の変数の一つが軍事強国、イスラエルの出方だ。

イスラエル軍は隣国シリアとの緩衝地帯を越えて、シリア領内で活動を始めたもようだ。イスラエルメディアによると、崩壊したアサド政権が残した軍施設などを標的に、320以上の「戦略的目標」を攻撃した。

 

昨年10月7日、イスラム組織ハマスのテロ攻撃に襲われて以来、イスラエルはハマス壊滅をかかげ、パレスチナ自治区ガザに猛攻撃を浴びせてきた。

民間人を含めたガザの死者は、4万人超にのぼる。戦争犯罪と人道への罪の疑いで、同国のネタニヤフ首相らは国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状も出された。

 

9月以降、イスラエルはイスラム教シーア派の民兵組織にも攻勢を強め、多くのヒズボラ幹部を殺し、レバノン南部に侵攻した。両者は11月下旬に停戦で合意したが、暴力が止まる兆しはない。

イスラエルはなぜ、ここまで激しく反応するのか。その是非を問うとともに、深層心理を読み解くことが、中東分析のカギをにぎる。そんな問題意識から11月17〜20日、同国を訪れた。

 

 

テロ攻撃が呼び覚ました自存自衛

現地で人々と話して感じたのは強国の自信ではなく、深いおびえの心理がイスラエルをせき立てていることだ。

ヒズボラやハマスの軍事力をつぶさなければ、国家が消されかねない。そんな切迫感を、少なからぬ政府や軍関係者、市民が口にする。

 

 

この心理は、苦難の歴史に根差している。1948年の建国以来、イスラエルはアラブ諸国との4回の戦争に勝ち、国家を存続させてきた。

イランは「イスラエルを消滅させる」と公言し、ヒズボラやハマスを支援する。

 

第2次世界大戦中、ユダヤ人は大量虐殺(ホロコースト)にもさらされた。こうしたおびえと自存自衛の意識を、ハマスのテロ攻撃が激しく呼び覚ました。

2001年9月、米同時テロを受けた米国民の感情に似ている。3千人超を殺され、米国は恐怖と怒りに包まれた。報復として主犯組織が潜むアフガニスタンを攻撃し、テロ支援国家に指定したイラクにも03年に侵攻した。

 

ハマスのテロによるイスラエルの死者はおよそ1200人、連れ去られた人質も約250人にのぼる。

イスラエルの人口は1千万人足らずであり、単純に計算すれば、死者数は米国の人口に置き換えると約4万人に当たる。

 

 

全面戦争に備える現場

実際、ハマスの急襲を受けた現場を訪ねると、凄惨な傷あとが残っていた。ガザから約5キロメートルにあるキブツ(集団農場)、ベエリでは壊され、焦げた家が連なる。

室内にがれきや寝具、服が散乱し、急襲のすさまじさを物語る。同農場によると、テロ当時、住民約1300人のうち102人が殺され、約40人が人質となった。各戸には連れ去られた家族の写真が並び、ガザからはイスラエル軍の砲声が時折響いてきた。

 

 

ヒズボラの拠点に近いイスラエル北部を訪れると、さらに戦時の空気が濃くなる。ヒズボラは非政府では世界最強の軍事組織とされ、多くのミサイルやロケット砲を持つ。

イスラエルは、低中高層にまたがる3つのミサイル防衛体制を敷く。大半のミサイルやロケット砲を迎撃しているが、万能ではない。北部では住民約6万人が自宅を退き、避難を強いられる。

筆者の滞在中にも、ヒズボラからイスラエル北部に約100発超のロケット砲が、中央部にもミサイル1発が放たれ、騒然とした。地元メディアによると、1人が死亡、数十人が負傷した。

同国北部ハイファの医療を支えるランバン病院では、全面戦争にそなえて、約2千人を収容できる地下病棟を設けた。

 

病院幹部によると、小型核の攻撃にも耐えられる。9月以降、いったん数百人の患者がそこに避難した。

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ランバン病院の地下病棟(イスラエル・ハイファ)

 

 

 

「安住の地」には根本から打開を

いつも戦時の緊張に覆われるイスラエルでは「敵に殺される前に、やっつけるしかない」(同国安保専門家)という行動原理に傾きがちだ。

では、どこまでハマスやヒズボラの戦力を奪えば、ひとまず安全を回復したと感じ、攻撃をやめられるのだろうか。

 

イスラエルの軍事目標が現在、どれくらい達成されたのか、外務省高官にたずねてみた。返ってきたのは、次のような分析だ。

「ガザでは80%、(ヒズボラがいる)北部では60〜70%だ」

 

ただ、これらの数値が仮に100%になっても、イスラエルが安心することはないだろう。イランは核開発の疑惑を引きずり、シリア情勢も混とんとしている。

戦争状態が一区切りつけば、イスラエルのネタニヤフ首相はテロを防げなかった責任を厳しく追及される。このためハマスとの本格交渉に応じず、戦争を長引かせているとの批判もある。

 

18歳以上の大半の国民が兵役の義務を負うイスラエル。中東で無敵の戦力をもつことを改めて証明したが、武器だけで「安住の地」を確立するのは難しい。

本物の平穏を手に入れたいなら、根本の火種であるパレスチナ問題の打開にも取り組まなければならない。

 

 

 
 
 
 
 

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

 

 

鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
 
分析・考察

イスラエルは「被害者国家」だというのは以前から言ってきたことだが、まさに秋田さんがおっしゃっているように、自分の周りには常に脅威となる存在があり、それらをやらなければやられてしまう、と怯えている。

ゆえに今回のようにハマスが先にテロを仕掛けてきたことで、自衛権という「錦の御旗」を手にし、それを無限に拡大させて、ハマスやヒズボラの殲滅を目指す。

さすがにヒズボラの殲滅は難しいので停戦合意を結んだが、ハマスに関しては徹底的にやるだろう。

さらにヨルダン川西岸には脅威もないのに違法入植の拡大を進めている。イスラエルは利益よりも恐怖によって突き動かされている。

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秋田 浩之

長年、外交・安全保障を取材してきた。東京を拠点に北京とワシントンの駐在経験も。国際情勢の分析、論評コラムなどで2018年度ボーン・上田記念国際記者賞。

著書に「暗流 米中日外交三国志」「乱流 米中日安全保障三国志」。

 

 

日経記事2024.12.13より引用

 

 

 

 

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