松尾研究室発のAI言語スタートアップ、ELYZA(イライザ、東京・文京)もその一つでしょうか?

松尾教授:イライザは以前からChatGPTのような大規模言語モデルの開発に取り組んでいます。大規模言語モデルを自分たちで開発し、先進的に取り組んでいます。ただ、大規模言語モデルのすごさがChatGPTによって世界中に知れ渡ってしまったので、これからいろいろなサービスが出てくるでしょうね。

教育分野は、対話型AIにどう向き合っていったらいいのでしょう?

松尾教授:学生がリポートを書くのに使って困るといったことはあり、そういった短期的な対処は必要とは思います。ただ、基本的には、私は新しい使い方を模索していけばいいと思います。

 私はいつも同じことを言うんですが、課題は何かとか、懸念は何かとか言わずに、どんどんやればいいんです。日本にまん延している空気感なのですが、課題を挙げて、何か分かったような気になって、実際には行動しない。それでは意味がないです。黎明期の技術に課題があるのは当たり前ですし、その課題をすぐ乗り越えていくわけです。

松尾教授:GPT-3(編集部注:ChatGPTの基盤になった大規模言語モデル)レベルのものをゼロから自分で作るとして、おそらく数百億円程度でできます。技術が進んでいるのでもっと安くできる可能性もありますが、当然、ノウハウをためていかなければいけませんから、その部分も加味する必要がある。こういったことができる人材も非常に希少です。ただ、逆に言うと、このくらいの話なんですよね。

「数百億円の投資、安いと思う」

人材は採用合戦になるでしょうね。

松尾教授:(大規模言語モデル関連の開発を)やったことがある人がほとんどいないと思うんですよ。コードもネット上に落ちているし、自分でやった方が早いと思いますね。ただ、動かすのは結構大変です。ここではGPT-3のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を使って何か作るという話と、大規模言語モデルをやるという2つの話があります。前者だけでもできる範囲は相当大きいのですが、後者もやろうと思えば可能だということです。

ネット上に英語に比べて日本語のテキストは桁違いに少ないという点が、日本にとって不利に働かないかという指摘もあります。

松尾教授:あまり主語を大きくしない方がいいと思います。日本がどうと言うより、それぞれの人、それぞれの会社がこの技術の性能に驚き、その仕組みを学び、どう使おうか試行錯誤していけばいいのです。日本語のデータが少なくても、これだけのことができるということは逆に技術のすごさを表しているとも思います。

自民党のワーキンググループ向けに松尾教授が作成された説明資料が、話題を集めました。日本は今後どのように取り組めばいいと思いますか。

松尾教授:その資料に書いた通りです。3つ選択肢が開かれています(編集部注:①大規模言語モデルを自ら開発する、②APIを使いサービスをつくることを奨励する、③ユーザーとしての活用を促進する)。国の話ですから、金額が大き過ぎてできないということはないはずです。

我々もChatGPTを体験して驚いて調べていると、例えば学校の先生が問題を作るのに2時間かかっていたけど10分で終わるといったケースがあって、そういうことかと。

松尾教授:普通に考えて、そのケースひとつだけとっても、インパクトは大きいですよね。今までのAIのアプリケーションでは、作っても実は案外市場規模が小さいといったことがありました。でも、先生が問題を作るのにかけている日本中の全部の時間を考えると、かなり大きいですよね。こうした事例がごろごろしているわけです。

我々メディアのビジネスモデルも相当変わると思います。

松尾教授:はい、相当ディスラプト(破壊)されますよ。だとしたら、日経が数百億円を投資したらいいのではないでしょうか。少なくともこの20~30年を考えたときに、この技術が影響を与えないはずはないのですから。銀行や保険会社、商社、製造業……。どの企業でもちょっと考えれば、これはやばい、どうなるか分からないけど投資した方がいいとなるでしょう。数百億円の投資、安いと思いますよ。

 とにかくAIの時代がまた変わりましたから、いまのタイミングは突っ込んでいった方がいい。日本はずっとそうでしたが、変化を受けに回って守る側に立つとつらいわけですよ。(事を)起こす側に回った方が、圧倒的にいいじゃないですか。