【ブリュッセル=辻隆史、ワシントン=飛田臨太郎】米国と欧州連合(EU)は31日、スウェーデンで閣僚級会合を開いた。経済安全保障の観点から重要物資の輸出規制や先端技術の投資規制で連携を強める方針を確認した。中国やロシアの脅威の高まりを背景に協調を演出した。
4回目となる「米EU貿易・技術評議会」は2日間の日程で開催した。米国からブリンケン国務長官やレモンド商務長官、タイ米通商代表部(USTR)代表が出席した。
EU側は通商政策担当のドムブロフスキス上級副委員長や人工知能(AI)規制などを担うベステアー上級副委員長らが参加した。
今回の会合では、米欧が経済安保をめぐり共同歩調をとる方針を強調した。「中国への対応をめぐり、米EUがここまで大きく一致したのは見たことがない」。ブリンケン氏は30日の記者会見で、両者の関係をこう持ち上げた。
EU関係者によると、会合後の発表をめざす共同声明案には半導体などの輸出規制の強化が盛り込まれた。AIや量子といった先端技術に関する企業の対外投資の規制に向けて、検討を進めることでも一致する見通し。
中ロの動きに警戒を強める。米欧の最新の民間技術が中ロにわたり、軍事転用されかねないためだ。EU加盟国には、フランスやドイツなど中国とのビジネスを重視する国も多い。
ただフォンデアライエン欧州委員長は経済安保政策の重要性を訴える。同氏主導で域内企業の対外投資規制案を水面下で詰めている。
敵対的な国との貿易・投資を制限する「経済的な威圧」や非市場的な慣行に対処するための取り組みでも協力する。
米EU間の懸案は多い。1つは生成AIをめぐる立場の違いだ。EUは域内での統一規制を検討する。AIを手がける企業に厳しいルールを課す案を議論する。
EUのブルトン欧州委員は会合に先立ち「生成AIによる偏見や偽情報、不正確さの例は誰もが知っている。(規制)枠組みの緊急性は否定できない」と主張した。
一方の米国には「Chat(チャット)GPT」を開発した新興のオープンAIなど関連企業が多数ある。強力な規制には慎重姿勢を示す。会合でも話し合ったが、共同での詳細なルールづくりは難しい。
米国の電気自動車(EV)優遇策にはEUが強く反発する。北米生産のEVを優遇する米国の歳出・歳入法(インフレ抑制法)の施行で、EU域内の生産拠点が米国に移るのを懸念する。
2022年12月の閣僚級会合ではこの問題について「建設的に対処する」との共同声明をまとめたが、今回の会合でも「大きな進展を期待するのは難しい」(EU関係者)。
それでもブリンケン氏やEU側は記者会見でそろって「コンバージェンス(収れん)」という言葉を使い、結束をアピールした。中国は台湾に対する強硬姿勢を崩さず、ロシアはウクライナ侵攻を継続する。米欧の分断論を打ち消す狙いがある。
24年には米国は大統領選、EUは欧州議会選を迎える。結果次第では双方のリーダーが変わる可能性もある。もろさをはらんだ友好関係を維持しながら、中ロとの対峙を迫られる状況は当面続く。