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富士フイルムは1日、ベトナム首都ハノイ市に「NURA」を開業した
【ハノイ=新田祐司】
富士フイルムホールディングスは1日、ベトナム首都ハノイ市にがん検診などの健康診断(健診)拠点を開業した。
2030年度までに世界で100カ所の開設をめざす。東南アジアは高齢化が進み、予防医療のニーズが高まりつつある。人工知能(AI)技術などを活用した健診サービスで新興国市場に先手を打つ。
健診センター「NURA(ニューラ)」の進出は、21年のインド、23年のモンゴルに次いで3カ国目で東南アジアでは初めてだ。
ベトナムのNURAで責任者を務めるグエン・フイ・トゥアン氏は「ベトナムにおける健診サービスのモデルを作りたい」と意気込む。
NURAは最新の画像診断機器をそろえ、がん検診が中心の健診サービスを実施する。AIも活用し、検査は約120分で終わる。
1日あたり最大約100人、年3万人を診断できる。受診料は1回600万ドン(約3万7000円)。ベトナムの平均月給(750万ドン)にも近いが、業界関係者には「十分に安い」との声もある。
新型コロナウイルス禍を経て、ベトナム人の健康意識は高まった。保健省によると、同国では年約18万人ががんに罹患(りかん)する。
2000年の約2.6倍で、高齢化も手伝って増加傾向にある。がんの発見には、コンピューター断層撮影装置(CT)などの画像診断が有効だ。健康に気をつかう市民や福利厚生を手厚くしたい企業の需要を期待できる。
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「先進国には米GEヘルスケアなど業界の『横綱』がいるが、新興国には大きなチャンスがある」。
日本経済新聞の取材に後藤禎一社長はこう強調する。医療機器を含むヘルスケアセグメントは27年3月期までの中期計画を達成するための要だ。売上高で1兆2000億円、営業利益で1400億円をめざす。
医療機器の市場規模は世界で5000億ドル(約80兆円)以上とされ、そのうち半分を米国が占める。
先進国ではGEヘルスケアや独シーメンス・ヘルシニアーズ、オランダ・フィリップスの「ビッグ3」との競争が厳しい。新興国で先手を打つことが、事業拡大の原動力になる。
NURAは新興国開拓の先兵になる。トップシェアを握る画像情報システム「PACS」を中核にマンモグラフィーやCTがそろう。
21年の日立製作所からの事業買収により診断機器の品ぞろえを充実させた効果もある。新興国の健診サービスや診断装置のデファクトスタンダードを狙う。
健診センターは病院への機器販売と違い、患者との接点をじかに持てる利点もある。現地事情を反映した生の情報は、研究開発の精度とスピードを上げる。
定期的に健診を受ける習慣が定着すれば、医療機器の市場成長も促せる。
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東南アジアは急速に老いる。国連は全人口に占める65歳以上の割合が14%を上回ると「高齢社会」とし、ベトナムは35年ごろに高齢社会に突入する。
タイは2020年ごろに高齢社会入りした。インドネシアやマレーシアも高齢化が進む。
経済成長と高齢化で医療支出は右肩上がりだ。世界保健機関(WHO)の調べでは、東南アジア諸国連合の医療支出は10年代に年7%で増加した。高齢社会では、保健歳出の抑制や病床不足の改善などから予防医療の注目も集まる。
医療支出の増加と予防医療重視を追い風に、富士フイルムはNURAを30年度までに世界100カ所で開設する目標を掲げる。ただ、現状は約3年で6カ所とスピード不足は否めない。
進出ペースを速めるため、コンビニのフランチャイズ方式に似た仕組みを取る。ハノイ拠点では、地場の医療機関VJHが運営し、富士フイルムは運営ノウハウの供与や診断関連の技術支援にまわる。
新興国の攻略には、現地事情に精通したパートナー探しも重要になる。
新興国では医療機器を扱う技士不足などが市場拡大のボトルネックとなるケースが多い。
現地で健診センターを展開することで、経験のある専門家を増やし、次世代の育成につなげることも狙いの一つだ。
後藤社長「年内に約10カ所まで増やす」
富士フイルムホールディングスの後藤禎一CEOは1990年代に
ベトナム駐在を経験した(1日、ハノイ市)
富士フイルムHDの後藤禎一社長は日本経済新聞の取材に「NURAは24年中に世界で約10カ所まで増やす」と明らかにした。
――医療機器は先進国が主戦場だ。
「富士フイルムは新興国も重視する。ハイエンドな機器だけではなく、価格や機能を新興国のニーズに合わせた製品を作りたい。先進国はGEヘルスケアなどの業界の『横綱』がシェアを握っている」
――新興国開拓でNURAの役割はなにか。
「新興国は高品質な医療へのアクセスが限られ、日本独自の『健診』に大きな可能性がある。21年に日立製作所から事業買収して画像診断装置の幅を広げた。IT(情報技術)も駆使し、リーズナブルな価格で健診が受けられるサービスを立ち上げた」
「例えば、画像を診る技術が高いインドの医師がベトナムの画像診断を遠隔で支援できる。NURAからのフィードバックは、新興国に最適な医療機器の開発にも生かせる」
――30年度までに100カ所の開設をめざす。
「パキスタンなどの南アジアや中央アジア、そして中東に広げる。アフリカもある。24年中には約10カ所まで増やす。各国に進出するには時間がかかるが、開設スピードが一気に上がる瞬間があるはずだ。一方、中国の優先度は低い。7年駐在し、難しい市場とわかっている」
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