グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)㊧は米司法省との2つの訴訟に直面している
【シリコンバレー=渡辺直樹】
米連邦地裁は17日、米グーグルのネット広告が独占にあたるとする一審判決を出した。
グーグルは主力の検索サービスをめぐる別の反トラスト法(独占禁止法)訴訟でも一審で敗訴している。
検索と広告を組み合わせてユーザーを囲い込む手法に国家がメスを入れる「解体シナリオ」が現実味を帯びてきた。
「グーグルは10年以上にわたる契約と技術統合を通じて独占力を確立した」。米東部バージニア州の連邦地裁の判事は判決文のなかで、グーグルの企業向けネット広告サービスの一部が反トラスト法に違反していると認定した。
2024年8月には首都ワシントンの連邦地裁で争われている検索サービスをめぐる訴訟でも、グーグルが独占状態だと認定する一審判決が下されている。
米司法省や州政府を相手取った2つの大型訴訟に直面するグーグルにとって、手痛い「2連敗」となった。
先行する検索をめぐる訴訟では、独占の是正に向けた事業売却案などの審理が4月中に始まる。
グーグルは今後、屋台骨である広告事業についても売却や分割を迫られる可能性がある。同社のお膝元である米国の司法判断は、テクノロジー企業の肥大化を警戒する欧州や日本など各地の独禁当局を勢いづかせることになる。
グーグルは控訴へ
今回、バージニア州の連邦地裁で反トラスト法違反かが争われたのは、メディアやコンテンツ事業者が運営する各種ウェブサイトのネット広告枠を売り買いするグーグルの企業向けサービスだ。
グーグルは08年にネット広告専業の米ダブルクリックを買収するなど、M&A(合併・買収)によって企業向け広告事業を強化してきた。
広告枠の売り手側に提供する販売・管理システムと、買い手側向けの購入システムに加え、両者をつないでマッチングする取引市場の3分野で高いシェアを握るようになった。
原告側の米司法省はグーグルが広告枠の取引において売り手と買い手の両面で強い支配力を持つことを利用し、自社のサービスに顧客を誘導することで不正に価格をつり上げていると主張した。
連邦地裁はグーグルが手掛ける3つの企業向け広告サービスのうち、売り手側向けのシステムと広告枠の取引市場の2つの抱き合わせによって他社を排除し、市場を独占していると認定した。
訴訟は今後、独占の是正策を議論する手続きに進む。
一方、連邦地裁は買い手側が使う広告枠の購入システムについては独占ではないと結論づけた。
過去のM&Aを通じた業容拡大にも違法性を認めなかった。
こうした判決を受け、グーグルは「半分は勝訴した」との声明を出した。同社は判決を不服として控訴する考えを示しており、法廷闘争は長期化する可能性が高い。
グーグルは検索エンジンやブラウザーなど様々なネットサービスやソフトウエアを無料で消費者に提供し、収集したデータを使った効果的な広告サービスで稼いでいる。
親会社である米アルファベットの売上高の約8割をネット広告が占め、そのうち検索連動型が約8割、外部サイト向けの広告が約1割を占める。
ネット検索市場で圧倒的な地位を築いたグーグルだが、直近では人工知能(AI)を使った新たな検索サービスを手掛ける米オープンAIなどの追い上げを受けている。
検索と広告の両事業でグーグルの独占を認めた2つの独禁訴訟は、テック業界の勢力争いにも波及する。
トランプ政権の出方が焦点
今回、一審判決が示されたグーグルの広告をめぐる独禁訴訟は、バイデン前政権下の23年に提訴されたものだ。
バイデン前米大統領は政権幹部に対テック企業強硬派を起用し、米アップルや米アマゾン・ドット・コム、米メタともそれぞれ独禁訴訟で対峙してきた。
1月に発足したトランプ米政権はバイデン氏が任命した独禁当局の幹部らを交代させたものの、テック企業との訴訟にどう向き合うかははっきりとしていない。
反トラスト法の専門家の間でも「トランプ政権は巨大企業を有害とみなしているようだが、どのような解決策が導き出されるかはまだわからない」(米ノースイースタン大学のジョン・クウォカ教授)との声が漏れる。
米フロリダ大学のマーク・ジャミソン教授は「現時点でトランプ政権はビッグテックに対する訴訟にほとんど影響を与えていない」と指摘する。
「トランプ米大統領とバンス米副大統領が企業の実際の運営方法について理解を深めるにつれ、(米政府が)ビジネスモデルを支配しようとする野心を抑えるようになるのではないか」と予想している。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

ビービット 代表取締役
利用者の利益の観点から、本当に難しい問題だと捉えています。
まず、広告市場に競争があって企業の宣伝活動が適切な費用で行えれば、その企業が提供するサービスや商品の原価も抑えられるため、消費者にとっては好ましく、デジタル広告市場が独占されている現在の状態は変えていく必要がありそうです。
一方で、グーグルが無料で提供しているブラウザのクロムは日本でも世界でもシェア一番で、切り離されると利用者の不便も大きくなります。
地図や翻訳などのグーグル サービスとの連携がばらばらになりますし、パソコンや携帯などの複数端末での同期も切れてしまいます。短期的には利用者側の負担もそれなりに大きくなりそうです。

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