欧州連合(EU)は2023年3月、2035年以降は禁止としていた乗用エンジン車〔ハイブリッド車(HEV)含む〕の新車販売について、合成燃料のみを使う場合に限って、新車販売を認めると方針転換した。その狙いは、いったい何なのか――。PwCコンサルティング パートナーの川原英司氏は、電気自動車(EV)化による産業構造の転換と電力ミックス(電力構成比)の転換による痛みを和らげる意図があるとみる(図)。
図 PwCコンサルティング パートナーの川原英司氏(写真:PwCコンサルティング)
EVシフトで二酸化炭素(CO2)の排出量を効率的に削減していくためには、EVに使う電力の多くが再生可能エネルギー由来、あるいは原子力発電由来である必要がある。化石燃料由来の電力では、走行時のCO2排出量はゼロにできるが、発電時にはCO2が発生してしまうからだ。すなわち、EVに使う電力がどんな電力ミックスで供給されているのかが重要になる。
各種報道によれば、EUにおける今回の方針転換に向けて動いたのはドイツだ。川原氏は、「ドイツの電力ミックスにおける再生可能エネルギーの比率は、フランスと比べると低く、フランスと日本の中間くらいで、どちらかというと日本に近い」と指摘する。ドイツが電力ミックスをEUの描くペースで切り替えていく場合、後れを取っている分だけ大きな痛みを伴うことになる。
今回の方針転換では、合成燃料を使う場合に限られ、別のカーボンニュートラル(炭素中立、CN)燃料であるバイオ燃料を使う場合は対象外だ。だが、部分的とはいえ、2035年以降もエンジン車の新車販売が認められたことで、EVシフトに向けたペースを緩め、痛みを和らげることが可能になる。
EV化による産業構造の転換についても、高いエンジン車の技術を持ち、エンジン車の開発・製造・販売をリードしてきたドイツは、相対的に大きな痛みを被る。だが、今回の方針転換によってそのペースを緩められれば、痛みを減らすことができる。
方針転換もEV化の基本路線は堅持
もっとも、今回の方針転換によって、乗用車のEVシフトを大胆に進めようとするEUの戦略は変わるのかという問いに対しては、川原氏はこう答える。「EUにとってEV化が基本路線。それが変わるわけではない」
今回の方針転換に対する同氏の見解は、次の通りだ。まず、2030~2035年については、EUにおけるEV比率がこれまでの想定よりも少し減る。これまで想定していたEV化のペースはものすごく急だったが、それが少し緩む。だが、2035年以降は一気に立ち上がると推測する。
同氏によれば、「合成燃料の価格は現状、5ドル/Lくらい」。下がっても3ドル/Lくらいという見方があるという。ガソリンに比べて高価だが、「超低燃費な高級車なら気にならない」とみる。
ただ、大衆車に対しては、「超低燃費にしようとすると、システムコストが高くなる」(同氏)と指摘する。すなわち、大衆車の価格帯では、超低燃費のクルマは実現しにくいだろうということだ。超低燃費でなければ、価格が高い合成燃料は、ランニングコストの観点から使いにくい。
要するに、今回の方針転換は、超低燃費な高級車に対してエンジン車の新車販売に関する余地を残すものといえる。一方、大衆車については既定のEV化路線を変えるほどの影響力はなさそうだ。
もっとも、同氏は次のようにも指摘する。「〔プラグインハイブリッド車(PHEV)の一種である〕レンジエクステンダーに使う燃料として合成燃料を用いるという選択肢もある」
「EU電池規則案」の裏に資源安全政策
大胆なEVシフトへの基本路線は変更しないとみられるEUの、本気度を示しているものの1つが、「EU電池規則案」(2022年12月に暫定的な政治的合意)である。同規則案は、電池へのリサイクル材の使用などを求めるものだ。
川原氏によると、EU域内での電池生産によって同域内に呼び込んだ電池の資源を、同域内にとどめておく狙いがある。そして、「その裏には、EUの資源安全政策が絡んでいる」という。
EUでは、これと並行して、エネルギーを再生可能エネルギーに転換し、化石燃料の産出国への依存度を下げる取り組みを進めている。一方、EU域内で電池を生産することで、電池に強い中国や韓国、日本への依存度を低下させる取り組みも実施している。
これらに加えて、電池の資源を域内にとどめることによって、再生可能エネルギーと電池による持続可能な仕組みを構築する狙いがあると同氏は指摘する。
日経 2023.04.27記事から引用
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(参考)
今、話題の自動車用合成燃料とは何か?
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