バイデン氏は14日の演説で、トランプ氏を糾弾する発言を封印した=AP
【ワシントン=坂口幸裕】
米民主党のバイデン大統領は14日の演説で、銃撃された共和党のトランプ前大統領を糾弾する発言を封印した。
トランプ氏も18日の党候補者指名の受諾演説で「団結」に焦点をあてる構えだ。互いを「脅威」だとあおってきた大統領選は事件後に変化の兆しが出ている。
「この国の政治的レトリックは非常に加熱している。そろそろ冷静になるべきだ。我々は皆そうする責任がある」。バイデン氏は14日夜、大統領執務室で臨んだ国民向けの演説で訴えた。
バイデン氏は、2020年大統領選で敗北した結果を受け入れず21年1月に起きた米連邦議会議事堂の襲撃を扇動した罪で起訴されたトランプ氏を「民主主義の脅威」などと批判してきた。
4年前の大統領選もトランプ氏の再選阻止という一点で党内の支持を固め、勝利した。現在81歳という年齢に起因する認知力への懸念から民主党内から撤退要求が強まっても「1度トランプを打ち負かし、また打ち負かす」と拒否し続けてきた。
トランプ氏への銃撃事件後に実施した13日と14日の計3回の演説で以前のように厳しく糾弾する言葉は控えた。民主はトランプ氏を攻撃するテレビや看板の広告を一時的に停止した。
もっとも選挙戦への効果は見えにくい。民主支持層やトランプ氏の政治姿勢を好まない無党派層などを束ねる旗印となってきた「反トランプ」を前面に出せなくなれば「バイデン氏のレゾンデートル(存在意義)に関わる」(民主党政権の元高官)。
民主内からの撤退論の行方も読みづらくなった。
トランプ氏は事件後初となる米メディア「ワシントン・エグザミナー」のインタビューで、18日の共和党大会の演説で「歴史的瞬間を利用し、国をひとつにまとめたい」と話した。当初は「バイデン氏の政策に焦点をあてていた」演説内容を、事件後に全面的に書き換えていると明かした。
インタビューでは「国をひとつにするチャンスだ。私はそのチャンスを与えられた」などとも語った。
ただ対立を助長してきたトランプ氏の政治手法が変わるかは見通せない。トランプ氏側近からは「バイデン氏の発言がトランプ氏の暗殺未遂に直結した」(J.D.バンス上院議員)などの声もあがる。
銃撃事件が選挙戦にどう影響するか。米メディアや専門家の間で意見は定まらない。米マサチューセッツ大のアレキサンダー・セオドリディス教授は「従来の常識ではトランプ氏に有利に働くとされ、今回も同じように予測する十分な理由がある」と言う。
トランプ氏について「被害者であると同時に銃弾に屈しない力強さを見せた。共和党支持層を結集させた」と分析。
一方「民主党がトランプ氏に対峙するメッセージを弱くさせることにもなる」と話す。
米アメリカン大のジョセフ・キャンベル名誉教授は「暗殺未遂が政治的にどのような影響を及ぼすか予想するのは難しい。
大統領選までまだ時間があり、一部の識者のようにトランプ氏が勝利に大きく近づいたと主張するのは時期尚早だ」とみる。
11月5日の投開票まで残り4カ月。トランプ氏が18日に臨む受諾演説は今後の選挙戦を占う試金石にもなる。
2024年に実施されるアメリカ大統領選挙に向け、現職のバイデン大統領やトランプ氏などの候補者、各政党がどのような動きをしているかについてのニュースを一覧できます。データや分析に基づいて米国の政治、経済、社会などに走る分断の実相に迫りつつ、大統領選の行方を追いかけます。
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