2023年2月26日まで、府中市美術館で「諏訪敦」の展覧会が開かれている。どれもこれも精密に描きこまれている。これまで写真のような絵を見る機会はあり、その度に、なぜこれは「絵画」でなくてはいけないのだろうと思ったことが何度もあった。膨大な時間を費やして描かずとも、写真ならば一瞬で切り取れるのにと。
でも今回、諏訪敦展をみて、「描く」ということの意味が少し分かったような気がした。彼の祖母をテーマにした<棄民>シリーズは圧巻だった。祖母は太平洋戦争終結直前の1945年の春に満州に渡るも8月にはソ連兵に捕らわれ、難民収容所に送られる。そして、その冬に栄養失調と発疹チフスにより亡くなってしまう。
この祖母を描いているのだが、膨大な資料を読み込み祖母のたどった足取りを追体験し、それを「描く」のだ。まず、旧満州の雪の大地に横たわる若く美しい祖母の裸婦像を描き、それを徐々にやせ細らせ(栄養失調のため)そこにチフスの症状を描き加えていくのだ。そうして最終的には、朽ち果てた女性の姿が大地に捨てられている。なんという膨大な時間と労力を費やして描かれた絵であろうか。ただただ茫然と立ち尽くしてしまった。
他の絵もそれぞれにストーリーがあり、見ごたえのある展覧会であった。
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