香の幻想：イニュラ

　午後の外科病棟。ストライプのパジャマを着た男性が車椅子を転がしながらエレベーターに向かいます。途中で顔見知りのナースと挨拶を交わして。

　男性は４０代前半くらい。仕事も順調、２人の子供にも恵まれ家庭も円満でした。ところがスキー場での思いがけない事故のため今は座ったままの生活を余儀なくされてます。医者からはもう歩くことは出来ないかもしれないと宣告されてしまいました。

　しかし何故か彼はリハビリすれば必ず治るという気がしてなりません。万が一治らないとしても車椅子に座ったままでも仕事に復帰してやると決意を固めています。

　エレベーターが来ました。これから１階の売店で経済誌を買って復帰後の準備に備えるつもりです。誰が見ても彼の瞳には希望が宿って見えます。





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