香りの幻想：クロモジ

　高原のリゾートホテル。彼女はひとりテラスのテーブルでハーブティーを口にしていた。テラスからは手入れの行き届いたフラワー・ガーデンが見渡せる。薔薇を中心として咲いている色とりどり花々は自分が一番きれいなのとばかりに咲き誇っている。午後の日差しは暖かく花たちの色彩をいっそう明るく映し出している。

　彼女は50代半ばくらい、黒い真っ直ぐな髪の毛を後ろで束ね、黒と紫の幾何学模様のドレスはストレッチ素材でゆったりとしている。すれ違うと誰もが振り返った頃の面影を今もやんわりと宿している。

　ローズ・レッドを中心にブレンドされたお茶を飲みながら、家からも仕事からも距離をとって、今誰でもない自分を愉しんでいる。






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