黒式部の怨念日記

怨念を恐るる者は読むことなかれ

ワーグナーの毒

2025-02-13 10:25:06 | オペラ

ワーグナーが好きと言っても、それがタンホイザーの大行進曲だとかローエングリンの第3幕への前奏曲だったらまだ健全である。その先に進もうとしても、その長さとエンドレスのメロディーに途方がくれて早々に引き返すから冒されずに済む。だが、まかり間違って、帰る道を間違って奥に進んでしまうと次第に体に毒が回り抜けられなくなる(中毒)。この状態になった人をワグネリアンと言う。かようにワグネリアンは毒に冒されているから危険である。近づかない方がいい。

かく言うワタクシは、上記の例にもれず、中学のとき学校を通じて定期購読していた音楽雑誌の付録のレコードでタンホイザーの大行進曲とローエングリンの第3幕への前奏曲を聞いたのがワーグナー初体験。かっこいいな、とは思ったがまだ毒は嗅いでない。その後、プラネタリウムのBGMでローエングリンの第1幕への前奏曲を聴いて、そこに妖しい香りを嗅ぎとった。それでも、当時、レコードは1枚2000円でワーグナーのオペラは長いヤツになると4枚組だ、5枚組で高嶺の花。もっぱらカタログでながめる対象だったうちは中毒のおそれはなかった。ところが、家にFMを聴けるラジカセが来て状況が変わった。NHKのFMが毎年暮れに放送するバイロイト音楽祭のライブ録音を聴けるようになった。まず、「ジークフリート」の「森の囁き」あたりから毒が回り始めた。決定的だったのは、朝比奈隆指揮の新日フィルの演奏会。「ラインの黄金」のコンサート形式での上演だった。二時間半休みなしで、途中で眠くなったが、後半、ドンナーが槌を振るって雲を晴らすあたりからなにやら体中の細胞が反応し始めた。そこから最後の音が鳴り終えるまで全身耳になって聴き入った。毒が全身に回った瞬間であった。その後の私は、例えば「ワルキューレ」を聴いていてノートゥングのライトモティーフが鳴ると涙が出ると言った風でもはや廃人である。

なーんてことを、昨年の暮れ、久しぶりにバイロイト音楽祭の昨年の全演目のFMエアチェックに成功した際、思い出した(放送日や放送時間がその年によって違うから、なかなか「すべて成功」というわけにはいかない)。

因みに、ウチのパソコンで「ワグネリアン」でググると真っ先に出るのはダービー馬である。「ローエングリン」でググると、1番目にヒットするのはさすがにワーグナーのオペラで、同名の馬は2番目である。

私の実家でFMが聴けるラジオの導入が遅れたのは、その競馬のせいである。父が短波放送で競馬の実況を聴きたいから短波放送を受信できることがラジオ購入の必須条件であったところ、当時のラジオはFMと短波の二者択一だったから、当然、FMが切って捨てられたわけである。

なお、今回は、当初案ではレーザーディスクで視聴したローエングリンのことを書くはずだったが、前日談を書いてたらそっちの分量が大きくなり、独立した投稿となったものである。その点ではワーグナーの「ニーベルングの指輪」も同様であり、最初は現在の「神々の黄昏」に相当する作品だけを書くつもりが前日談が膨らんで四部作になったものである。だから、ローエングリンネタは次回以降に繰り延べである。


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