駆け足の春と
梅が散り桜が咲き始めると、野も川原も動きが急にあわただしくなる。雨の少なかった今年の桜は、彼岸桜に始まって、吉野桜、山桜、八重桜とずいぶん長く楽しめた。昨日訪れた山梨県のゴルフ場では、白く小さな花びらの富士桜がまだまだ見ごろ、ふわふわの雑木の山にこんもりとピンクの山桜も見事だった。
川原では例年通り土筆や芥子菜、野蒜にクレソン、一昨日からはクコの芽も加わって、散歩帰りはいつもハンカチにお土産を入れてくる。その始末にまた時間をたっぷり取られるけれど、夫も息子も喜んで食べてくれるからやめられない。
三月の初めころだったか、検診で大量のインスリンを持ち帰った夫が、もうやめようかな、と言い出した。毎日毎日、血糖値を測り注射をしても数値の乱高下は変わらず、
「医者は人の話も聞かないで、俺が悪いことしているみたいに言いやがってさ」
私は何年も前に買った本を戸棚から引っ張り出した。題して
『食事だけで血糖値を下げる食事法』
CD付きで2万円近くもしたのに、ちらっと見ただけで放ってあった。私のほうはもったいないという気持ちで読んでみた。
とにかく主食は玄米、週一回は絶食する、調味料を一切使わない常備菜を中心にする。
その常備菜のレシピを守ってとにかく何種類かを作ってみた。きんぴら、ヒジキ、切り干し大根、大豆煮など。いつも作っているものだから簡単だ。ただ酒、近くのお米屋さんお勧めの玄米は圧力釜で炊けば、結構柔らかくおいしい。健康食品は大嫌いの息子用にはいわゆる「炊き立てご飯」のパックを買っておく。
血糖値は毎日測っているのだが、二週間が過ぎ、一度もインスリンを打たないのに、平常値という今まであり得なかった数値が並んだ。この数値というのが最大の薬、やる気が本格化する。ゴルフ場の昼ごはんでビールを頼まないなんて、今までにないことだった。
それでも我慢でストレスを感じるのはよくないか、とビールが少しづつ、ウイスキーも怖々と、肉料理にも手を出すようになってきた。でも週一の絶食や常備菜中心はキープ。暖かいので外での仕事が増え、もうひと月半、注射なしで平常値をキープしている。
野草料理も加わって私の台所に立っている時間はずいぶん増えたけれど、こんなことでインスリン注射の代わりになるなんて、なんと嬉しいことだろう。
夫婦共通の趣味であるゴルフはちゃんと練習をしていなければ楽しめない。エッセイ、俳句と「きょういくときょうよう」には事欠かない。つまり「今日行くところと今日用がある」のがボケない秘訣なんだとか。