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第54話 出征
百済(ペクチェ)の王宮で 奇妙なことが起きていた
真夜中に鬼が現れ <百済(ペクチェ)が滅ぶ!>と叫んで消えた
そして鬼が消えた場所には 文字が刻まれた甲冑が埋められていたという
“百済同月輪 新羅如月新”
~百済(ペクチェ)は満月のようであり 新羅(シルラ)は新月のようなもの~
つまり 満月の百済(ペクチェ)は 欠けていくのみ
いつか国運が尽き 滅びゆく運命であると
しかし新羅(シルラ)は 次第に満ちていく月 繁栄していく国であると
神宮の巫女は 甲冑の文字を読み解き 大王が酒色に溺れていることを諫める
忠臣をないがしろにし 奸臣を側に置く大王に 天が啓示を授けたと…!
もはや 巫女の言葉を真摯に受け止めるウィジャ王ではない
怒り狂ったウィジャ王は 巫女をその場で斬り殺してしまった…!
奸臣たちは 百済(ペクチェ)が栄えるという意味だという
そこでようやく機嫌を直すウィジャ王だった
これに対し忠臣フンスは 天の啓示などではないと進言する
百済(ペクチェ)を滅ぼそうとする輩の画策であり
鬼の正体を 徹底的に調べるべきだと…!
この進言により フンスは官職を奪われ流刑の身となった
今や 正しいことを進言する忠臣は すべて排除されてしまう
ウィジャ王は 耳に心地よい言葉だけを信じ 酔いしれるばかりだった
『誰が何と言おうと 今は太平の世である!!!
この王座に挑む者は皆 大逆罪人なのだ! ウワァッハッハッハ…!』
鬼の正体は サムグァンとグングァンであり
ユシンの命令で 謎の甲冑を埋め 流言飛語を流したのだ
百済(ペクチェ)の奸臣たちは既に買収されており
ウィジャ王を翻弄し続けているのだ
流刑地へ護送されていくフンスの前に ケベクとファシが現れる
百済(ペクチェ)の現状に絶望したフンスは すべてをケベクに託す…!
新羅(シルラ)では
上大等(サンデドゥン)クムガンが 病床で危篤となっていた
クムガンは 武烈王の即位に反対した不忠を詫びる
※上大等(サンデドゥン):新羅(シルラ)の高級貴族階層の最高官職
そんな自分を それでも上大等(サンデドゥン)に任命した武烈王
その聖恩に報いるべく 御霊になっても三韓一統を祈り続けると言い遺し
武烈王に見守られながら この世を去るのだった
武烈王は 空席となった上大等(サンデドゥン)の座を
閼川(アルチョン)に要請するが 閼川(アルチョン)は固く辞退し
キム・ユシンこそが その座に相応しいと進言する
ユシンは 閼川(アルチョン)に なぜ拒んだのかと問う
『私は 4代の大王に仕え 既に臣下としての道理は果たした
今後は朝廷を離れ 風流を友に余生を送りたい
ユシン公 大業を成すべく大王を補佐してほしい…!』
かつては権力の欲に駆られ 道理を見失った閼川(アルチョン)であった
しかし今 そうした“束縛”から解き放たれ 真の意味の衷情を悟ったのだ
西暦660年5月
武烈王は キム・ユシンを 出征軍の総大将に任じた
そして5万の兵を率い 百済(ペクチェ)征伐のため 自らも出征する
今まさに 三韓一統を成すための戦いが幕を開けたのであった
これを受け 唐の高宗は 蘇定方を大総官 キム・インムンを副総官とし
13万の兵を援軍として派遣する
この当時 最強大国であった唐の出征により
後に 三韓と倭国が参戦する大戦争へと繋がり
東アジアの歴史が 大きく変動していくことになる
新羅(シルラ)の出征を受け 百済(ペクチェ)の王宮では
奸臣らがウィジャ王を持ち上げ 敵は恐るるに足らずという
しかし 唐軍が13万の派兵をしたことが気にかかるウィジャ王
『チュンチュが唐の力を借りるというのなら
我らは高句麗(コグリョ)と手を組み さらには倭国の兵を呼び寄せる!
今こそ 新羅(シルラ)を滅ぼす絶好の機会なのだ!!!』
高句麗(コグリョ)では
援軍を請いに来たケベクとプヨ・ユンを迎え ヨン・ゲソムンがいきり立つ!
ゲソムンは 羅唐軍が狙うのは高句麗(コグリョ)だと主張し
高句麗(コグリョ)軍が派兵するのではなく むしろ百済(ペクチェ)軍が
派兵するべきだというのである
将軍ケベクは これに真っ向から反対する
ここで莫離支(マンニジ)が判断を誤れば 高句麗(コグリョ)もまた
厳しい立場に追い込まれるだろうと…!
※莫離支(マンニジ):高句麗(コグリョ)の政策を総括する最高官職
ゲソムンは はっきりとした物言いをするケベクと会談する
そこで 援軍を送ったら 百済(ペクチェ)は何をしてくれるのかと問う
『なぜ大義を無視し 実利だけを追求するのですか
派兵を拒むというのであれば 百済(ペクチェ)はそれ以上無理強いはしない
自力で羅唐軍と戦い 百済(ペクチェ)の国運を立て直すまでです!』
ケベクの気概を大いに称賛し 我が高句麗(コグリョ)の将帥であればという
しかしケベクは…
『私が高句麗(コグリョ)の将帥だったとしたら
まずは君主の命を奪った莫離支(マンニジ)を排除し
王権の立て直しを図るでしょう』
ヨン・ゲソムンは 一気に表情を変える
しかし ここで百済(ペクチェ)の将軍とケンカをするわけにはいかない
まずは百済(ペクチェ)と手を組み 羅唐軍を撃退し
その上で ケベクの無礼を処断する考えであった
百済(ペクチェ)国境付近 新羅(シルラ)陣営では
武烈王が 速やかに泗沘(サビ)城を陥落させよと命じていた
戦いを長引かせず 一刻も早くウィジャ王を捕えてこそ
民の苦しみが最小限に済むことを 徹底的に兵士らに周知させよと…!
キム・ユシンと太子キム・ボムミンは 唐軍を迎えるべく徳勿島へ向かう
蘇定方は 長い船旅の疲れを労うボムミンに なぜ手ぶらなのだと問う
わざわざ助けに来た唐軍に 贈り物も用意していないのか!と一喝し
粗相に扱うなら 今すぐ兵を率いて撤兵するというのだ…!
この態度に激怒し いきなり剣を抜くキム・ユシン!!!
新羅(シルラ)の太子に無礼を働き 財物を要求し
皇命を無視し 兵を撤退すると脅迫したことは斬首に値する重罪だと!!!
蘇定方は 共に船に揺られてきたキム・インムンになだめられ
ようやく冷静さを取り戻し 部下に剣を下ろせと命ずる
新羅(シルラ)は あくまで属国であるという認識があり
また 考えがあって高飛車な態度で振る舞ったが
ここで撤兵など出来ないことは よく承知しているのだ
キム・ユシンもまた ボムミンになだめられ 怒り心頭ながら剣を下ろす
両者が互いに我慢をし 今回のことは不問に付すこととなったが
いかに同盟を結んだとはいえ その結束力は盤石とは言えなかった
表向きは 百済(ペクチェ)を討つための援軍だが
おそらく唐の皇帝は 三韓を奪うつもりなのだというユシン
その読みは 見事に当たっていた
蘇定方は 皇帝より勅命を受け 三韓を奪うことを念頭に置いている
百済(ペクチェ)を陥落させることが勝利ではなく
すぐにも徐羅伐(ソラボル)へ進軍し 三韓を手に入れるつもりであり
わざと因縁をつけ キム・ユシンと 太子ボムミンの度量を試したのだった
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
問題は いかにして唐軍との合流を果たすかであった
唐軍は船で合流地点に向かうが 新羅(シルラ)軍は峡谷を通っていく
そこで百済(ペクチェ)軍の奇襲に遭えば ひとたまりもないのだ
将軍フンスは 流刑地からウィジャ王に上奏文を送る
唐軍と平地で戦うことは 自殺行為となるだろう
峡谷で奇襲をかければ 十分に勝算はあると…!
しかし 奸臣たちの手により この上奏文は否定的にとらえられてしまう
流刑の身のフンスは 勝つ方法を知っているのにもかかわらず
ただ百済(ペクチェ)が滅びゆくのを見ているしかないと嘆くのだった
唐軍の分の兵糧を持ち 何としても期日までに合流地点に到着せねば
また蘇定方が問題視し 指揮権を奪おうとするのは必至だった
フンスから話を聞き 策を練ったはずのケベクは
峡谷ではなく 敢えて平地で勝負を決めると言い出す
おそらく最後になるであろうユシンとの戦いに卑怯な戦法を使いたくない
正々堂々と勝負し勝利したいという ケベクなりの思いがあったのだ
出征を前に ケベクは 妻子のもとを訪ねる
これが何を意味する帰省なのか 妻にはすべて分かっていた
世にその名を轟かす将軍ケベクという人物を愛したその時から
妻はどこかで この日が来ることを覚悟していたのかもしれない
やがて出征の時
ユシンの軍勢が いよいよ峡谷を通る
ここで伏兵に襲われれば たとえ勝つことが出来たとしても
期日まで合流地点に到着することが難しくなる
しかし妙であった
必ずここに伏兵を置くべきことは ケベクも承知しているはずなのに
一向に伏兵が現れることもなく 偵察隊は 何の情報もなく戻って来る
すると 進行方向からファシが現れ ケベクからの届け物を差し出した
ユシンが その包みを開けると 中から血染めの衣服が…!
ファシによれば その衣服は ケベクの妻子のものだという
ケベクは 思いを残さず存分に戦おうと
後ろ髪を引く存在である妻子を 自らの剣により亡き者にしたのだ!!!