白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ
言わずと知れた若山牧水の名歌だ。短歌研究1月号の藤島秀憲の連載によれば、歌碑では若山牧水の歌碑が全国に最も多いそうで、そのなかで第3位がこの歌だという。ミスコンでもそうらしいが、1位2位は無難なもの又は使い勝手がいいものが選ばれる傾向があり、第3位こそが真に個性的な価値を認定されている。(ミスコンに3位があるかどうか知らぬが)
ところで、僕が初めてこの歌を知ったのはアラフィフの先輩の口からすらすらと出てきたときだが、牧水と同様にその御仁も病気だった。しかし、牧水を反面教師とし、好きな酒を節制していた。牧水が死んだのは夏で、当時はドライアイスで遺体を冷やしたりすることはなかったが、アルコール濃度が高いためか全く腐敗の兆候を示さなかったという。
結句の「けれ」は係り結びの結びで已然形、強調(余情)をあらわしている。係助詞(こそ)が無いので文法的には正格ではないので、牧水自身が発表後に「けり」に改作した。しかし、名歌名句辞典(2004年三省堂)など多くの本では、注釈つきながら「けれ」を採用している。断然「けれ」のほうが良い。語を変えることにより歌の意味が変わる余地があれば問題だが、そうしたこともなく、単なる格式のことである。
これに対して文の中間で、係助詞なく已然形になっている場合がある。これは「已然形で言い放つ」形であり、理由原因を表している。
(係り結びの例)
吾妹子之 屋前之秋芽子 自花者 実成而許曽 恋益家礼 (万葉集№1365巻7)
(いとしい子の 家の前庭の秋萩は 花よりも 実に成ってこそ 恋しさがつのる)
恥ずかしながら、同じけれを使った拙歌
吹雪く夜の千曲川こそ悲しけれ太くうねりて消えゆくばかり(椎名夕声。短歌人2013年1月号)