やとばかり桂首相に手とられし夢みて覚めぬ秋の夜の二時(石川啄木)
内山晶太は「首相に手を取られる夢など、そうそう見るものではない。当時、大逆事件の影響下にあったと思われる啄木の、感情の非常事態が現れている」と評している。(短歌人2013年4月号)
大逆事件とは?また、それと桂首相との関係は? 改めてネットでぐぐった。
1910年1911年に社会主義者が明治天皇暗殺を企てたとして検挙され、1911年に12名が死刑を執行されたのが大逆事件。桂太郎は1901年に初めて首相の座につき、1911年当時には公爵にまで昇りつめた。明治維新を主導した長州藩出身の軍人であり、人柄としては「相手を懐柔することが巧み」と評された。
さっぱりわからない。わからないが、90%の確率でこういうことだろうと言うことはできる。つまり、啄木は心情的に社会主義者に同情しているが、桂首相を指導者として尊敬しており、二律背反の心理に陥っていたときだからこそ、このような変な夢を見たのだという指摘だろう。なお、「桂首相に手を取られる」というのは、一般的には桂内閣の閣僚として迎え入れられることと理解されている。以前、他の人の啄木評を読んだときに、「そのことを啄木は喜んでいる」と書いてあったと記憶しているので、内山氏はそれと異なる意見ということになろうか。
だとしたら、ああ、そうなのかと思った。
次の歌がなぜ生まれたのか、作者自身やっとわかったような気がするのだ。
啄木にとり憑かれたる夢を見てやめてくれよと言って目覚めた(椎名夕声。短歌人2013年4月号)
なお、古語と現代語の混淆は、いつものことであり、意図的なものだ。