草原の四季

椎名夕声の短歌ブログ

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可愛い皇帝ペンギン

2018-04-02 19:47:39 | 和歌・短歌

日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも(塚本邦雄)

日本で初めて皇帝ペンギンが飼育されたのは、意外に遅く1964年初め頃に捕鯨船に捕獲されてからだと聞く。

これに先立つ1953年まで隣国で朝鮮戦争があり、これはソ連・中国・米国の覇権争いの一面があり、2018年の現在まで戦争は終結していない。 作者は1920年生まれで、この作品が発表されたのは1961年もしくはその少し前である。 1960年の日米安保条約反対運動ではデモに参加していた学生が警官隊との衝突で死亡し、1962年には米国の喉元のキューバにソ連の核ミサイルが配備され、警戒活動でキューバ領空に入った米軍機が撃墜された。1960年以前に始まっていたベトナム戦争(第二次インドシナ戦争)も1965年3月本格的な北爆が始まり、日本もおちおちしていられない雰囲気があっただろう。

そういう状況は、この作品が作られる前から続いており、将来まで平和なのは南極くらいのものと考えられていた時代背景を考えれば、皇帝ペンギンはもちろんのこと、その飼育係りも一緒に日本から脱出したいというのは、ガチでリアル。

良い寓話短歌というものは、寓話抜きでも作品として成立しているものだ。 逆に寓話としてしか読めない作品は秀作ではない。

時代背景を抜きにしても、狭い島国である以上はそれなりの息苦しさを感じており、資金さえあれば外国へ移住したい人は沢山いる。皇帝ペンギンは夏は冷房なしには飼えないので、日本での人工的な環境も快適ではなかろう。

この短歌が昭和天皇を皇帝ペンギンになぞらえた寓話であるというのは、発表当初から読者のほぼ全員が理解してきたが、時代が変われば段々わからなくなってしまい、「えー、そうなんですか?」という反応も多くなるだろう。作品の発表当時に皇帝ペンギンが日本にはいなかったことなど、そういう些細なことはとっくに忘れられている。 万葉集にも「何らかの寓意があるのかも知れない」と注記された作品が五万とある。 

ヒマワリが死んだゴッホのヒマワリが真っ黒になり突っ立っていた(椎名夕声  短歌人2012年11月号) 

蛇足というのは、不必要なことを書くことだが、その蛇足で言っておくと、第二次世界大戦までは国家大権を持っていた天皇が、戦争責任を棚上げされ、しかし庶民の呑気な御隠居さんの生活は許されず、政治にかかわる話しは絶対するなと釘をさされ、皇帝ペンギンの歩行のようにしゃっちょこばって生きている姿は、見ようによっては滑稽だし、戦勝国からのお仕着せで生きている人々も揶揄する対象にもってこいだが、天皇及びその周辺の人が特権階級であることに変わりなく、寓意自体は寂しいというか虚しい。

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