湖北の明峰、伊吹山の四季折々の姿を、池面に映す三島池は、わが国に飛来する鴨の最南端地である。
むかし、むかし、この三島池に水が溜まらず、これを占ってみると、一女を池中に生き埋めにして、
水神を祭れば、満水になると、卦が出たそうな。そこで、この地の豪族、佐々木秀義の乳母で、
比夜叉御前という女が、生きながら池底に入り、機織り共にに埋まると、たちまち水が溢れ出たそうな。
その後、常に満水で、いかなる旱天にも涸れたことがない。そこで比夜叉を水神として崇めている。今でも、深夜、水底から機織りの音が聞こえると言うことだ。
古歌に次のように詠む。
名にも似ず心やさしきたおやめの誓いも深くみつる池水
池の端の緑陰に憩い、珈琲を沸かし、本を読み、ふと目を上げると、伊吹山の中腹あたり、色とりどりのハング・ライダーが軽やかに風に流れている。匂うような緑の氾濫である。伝説がまさにふさわしい、深いエメラルド・グリーンの水の彩りである。