群馬の酒「聖」を楽しむ
侘輔 今日のお酒は群馬県のお酒なんだ。
呑助 今まで群馬県のお酒を楽しんだ記憶がありませんね。群馬県にはどんな名酒があるんですかね。
侘助 そこそこ人に知られているお酒というと春日部から近い館林の「尾瀬のゆきどけ」、利根郡川場村の永井酒造が醸す「水芭蕉」かな。
呑助 「尾瀬のゆきどけ」「水芭蕉」、ネーミングが群馬というイメージとちょっと違いますね。
侘助 都会的というイメージかな。
呑助 そうですね。
侘助 今日楽しむお酒は「聖(ひじり)」という銘柄のお酒なんだ。もともとは「関東の華」という銘柄で出荷していたようだけれどね。
呑助 「尾瀬のゆきどけ」「水芭蕉」とは、イメージが違いますね。
侘助 イメージとしては、どうかな。
呑助 そうですね。「聖」というと僧侶ですよね。それも高僧というイメージじゃないですよね。
侘助 そうだよね。乞食(こつじき)僧だからね。庶民の間に入って仏法を解き、人々の極楽往生を祈った貧しい身なりの僧侶を聖というんだと思う。泉鏡花に『高野聖』という有名な小説があるくらいだからね。
呑助 なんか美味しいお酒という雰囲気が感じられないかな。
侘助 そうかもしれないが、まずは楽しんでみよう。本当に珍しいことに、七代目蔵元が六二歳になって南部杜氏会の杜氏試験に挑み、三回目に杜氏試験に合格し、聖酒造の杜氏をしている。社長を息子に譲ってね。最高齢で学科試験、実技試験、面接試験に合格したようだ。酒造りに臨む蔵元の意気込みに驚くよね。
呑助 本格的な酒造りに取り組むのが少し遅かったのかなと思いますね。
侘助 いつだったか、「二兎(にと)」という銘柄のお酒を楽しんだことがあったでしょ。その蔵の杜氏が聖酒造の次男なんだそうだよ。
呑助 それではいつか、実家に帰り酒造りをするんですかね。
侘助 それは分からない。ただ坂長さんが聖酒造のお酒を売るようになったきっかけは「二兎」のお酒を扱うようになったことがきっかけだったらしい。そう縁のなかに私たちの仲間も入っているのかもしれないなぁー。
呑助 お酒はまず何といっても人と人との絆というか、結びつきの中で楽しむものなんでしようね。
侘助 南部杜氏会は一番大きな杜氏の集まりだから。南部杜氏会の杜氏たちは自分の醸したお酒を持ち寄り、新酒品評会を毎年開いて研鑽に励んでいる職人集団だから、その集団に新たに加わり、美味しいお酒を醸していこうというその意気込みに共感して坂長さんは「聖」に取り組んでいるということだった。
呑助 きっとお酒にはそのお酒を醸す杜氏さんや蔵人の人柄のようなものが出ているんじゃないかと思いますよ。
侘助 すべての仕事にはその仕事をしている人の人柄というか、人格がでているんじゃないかと思うな。聖酒造は群馬県渋川に酒を醸す蔵がある。その脇には赤城山の伏流水を含んだ利根川が流れている。だからお酒はその土地の水や風、風土が醸す土地柄が出るのかも。