銀座は私の『パワースポット』のひとつだ。
ちいさい頃、なぜだったかお正月の三が日に家族と祖父母と一緒に銀座に来たのを覚えている。
三が日の銀座なんてシャッター街だったろうと思うのだが、とにかく来たのである。
ほとんど唯一の記憶だが、覚えているのは伊東屋。
私が文房具好きだったので、連れて行ってくれたのだったか、
あるいは絵の好きな母が画材を見たかったのかもしれない。
何を買ってもらったか忘れたけど、
おおきな赤いクリップの看板は子供心にもものすごくおしゃれに映った。
それから20年、大人になった今また、銀座を訪れる。
あるときは仕事で、平日の朝、人のいない並木通りを闊歩する。
お客さんが銀座界隈にいて、アポイントはたいてい午前中、
いったん出社してからでは遅いけど、自宅から直行すればいつもよりのんびり出られるような、
ちょうどいい塩梅の時間。
それはそれは気分がいいのだ。
朝の銀座は車も人通りも少なく、空気がよくて、スキップしたくなる。
太陽に照らされて、さわやかな煌めきを放つ。
いるのは働いている人ばかりで、
デパートに商品を運び込んでいたり、ショウウインドウを掃除していたり、
まるでお祭りの準備を見ているようなわくわく感をさそう。
あるいは仕事終わりに友達と、ときには母と訪れる。
和光の時計台前で待ち合わせて、映画を見たりお酒をのんだりする。
夜の銀座は「これでもか!」ってくらいの眩い光を自ら放つ。
人々がみな、仕事中とは違う、ちょっと上気した顔で歩く。
お祭りみたい。
仕事ムードをひきずってくたびれた気分が、
人々の発散するプラスのエネルギーに巻きとられて去っていくようなそんな感じ。
『パワースポット』という言葉は一般的に、
大自然や緑に囲まれた場所、神様仏様にまつわる場所を指していうことが多いようだけど、
私にとっては銀座の街も、種類こそ違えど強烈なパワーを放ち、
元気にしてくれる『パワースポット』にほかならない。
高級ブランド出店ラッシュに、商業施設ラッシュ、
変わり続けることができるのは銀座に人を惹きつけるパワーがある証だ。
そして伊東屋の赤いクリップは、大人になった私の目にも、20年前と変わらず、おしゃれでまばゆい。