二階建、築四十年ほどのボロアパート、その二階の隅が僕の部屋だ。
この春から大学生になる僕は、学校に近いこのアパートで一人暮らしすることになった。
僕の前に住んでいたのは男女のカップルだったが、出る時は男一人だけだったらしい。
大家さんの話によると、アパートを出る前日の夜に大喧嘩があり、喧嘩別れしたとのことだ。
内装は台所、トイレがあるだけの畳が敷かれた六畳間だ。
壁には写真をピンで留めていた跡であろう、いくつかの小さな穴が空いている。
エアコンがないので、夏場冬場は厳しそうだ。
入居した翌日、実家から届いた布団やら服やらを整理している時に、一匹の蜘蛛を見付けた。
大きさは3~4cmほどで腹が白く、なかなか鋭い鋏角を持っている。
手を止めて観察していると、壁を伝って板張りの天井の隙間へと入っていった。
それから数日間、同じ蜘蛛を部屋の中で見掛け、同じように天井へと消えるのを何度も見た。
僕は特に蜘蛛嫌いではないので放置していたが、虫のいないこの部屋でどうやって生活しているのか、少し不思議に思った。
ある日の夜、皿洗いをしていた時に例の蜘蛛がピョンと流しに飛び込んできて排水口に流してしまった。
慌てて水を止めたが、完全に流れていってしまった。
ちょくちょく見掛けるせいで少し愛着が沸いていたので、やや残念だ。
夜に蜘蛛を殺すと不吉だと言うし、何か悪いことが起こらなければよいが……
その夜から二日後、部屋に蝿が湧くようになった。
ドアや窓を開け放してるわけでもないのに、日に日にその数は増えていく。
衛生的にも不快だし、羽音で寝られないしで、いい迷惑だ。
ひどい時には畳の上に蛆がいる時もあった。
やっぱり蜘蛛を殺してしまったのが原因なのかなぁ……