睡蓮の千夜一夜

馬はモンゴルの誇り、
馬は草原の風の生まれ変わり。
坂口安吾の言葉「生きよ・堕ちよ」を拝す。

有為転変

2009-07-29 06:09:02 | 唄は世につれ風まかせ

ちいさな街のあちらこちらに映画館があった。
日本映画が衰退するにつれ、映画館はボーリング場に姿を変え
大きな建物の屋根にすっくとピンを立てた。

畑の真ん中に忽然と現われたボーリング場。
クワを持つ手をボールに変えたオッサンは腕をぶんぶん振り回し
やおら
ボールをほっぽり投げる。

ボールは放物線を描いたままゴットンとレーンの
真ん中に落ち
斜めに突っ切りガガ~ンとガーターに吸い込まれた。

テレながら「おっかしいな~」とクビを横にふるオッサン、
近くに住む酒屋の
ばあちゃんは両手でボールを転がし、
子供はレーンに寝転ろがった。


それもいつしかボーリング場はパチンコ屋にとって変わり、
田舎夜景にに
めくらましのイルミネーションが浮き立った。

国道沿いのボーリング場の改装工事、
大型クレーンの長いアームが
屋根の上のピンを掴む瞬間を
信号待ちの車の中で見た。

羽目板に囲まれた工事現場をひとつの流行が駈け抜けた。

しばらくして、パチンコ屋新規開店チラシが新聞の折込みに入り、
「赤字大放出」や「出玉無制限」のカラフルなチラシの文字に見入った。
日曜の朝9時開店の1時間前にパチンコ屋の駐車場へ着くともう満車。

側道に並ぶ車の列、せまい1台分の空きスペースを見つけ縦列駐車を

一発で決め、気分良く開店を持つ人の群れに加わった。
9時5分前、黒ベストをキメこんで緊張の面持ちのお兄さんは、
入り口の
ガラス戸の内側に整列し、客は表にひしめき、9時の時報を待っていた。

それから数年、毎日のように通ったパチンコ屋にも秋風が吹き始めた。
この近くに、スロットやハイテク新機種を導入した大型店舗が何軒もでき、
徐々に客足が遠のき、古くさい店は少ない常連客のたまり場になった。

旧態依然のこの店は新機種入れ替えの体力も残っていないようだ。
馴染みのお兄さんから「もうすぐ閉店だよ」と耳打ちされた日から5日後、
突然店は閉められた。

しばらく経つと大型重機やクレーンが騒々しい音を撒き散らし、あっという
まにサラ地になり、敷地の周りをぐるりとブリキの目隠しが張り巡らされた。
さあ、今度は何が建つんだろう。

この頃地元住民は、ある建設計画をめぐり日照権や騒音問題等で

大手ゼネコンと激しく対立していた。
それは8階建分譲マンションの建設計画だった。

地域住民反対派の急先鋒の一人でもあるわが同僚は、
私たちの唖然と
する顔を尻目にマンションの完成と
同時に一番乗りで入居した。

やれやれ。


これに追記して、
ぼくはこのマンションの8階に住み
急先鋒わが同僚は真下の4階に住む。






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